第106話 運動音痴は体育祭で楽をしたい
中間テスト、遠足と終われば、次に訪れるのは運動部員たちが待ちわびている例のお祭り……そう、体育祭の季節だ。
今はそこで行われる種目に出る生徒を決めているところで、取り仕切っているのは体育祭委員の
運動が得意ではない
「それじゃあ次、50m走に出たい人は挙手を」
「「「「「はい!」」」」」
「……1人多いわね、話し合いかジャンケンで誰が諦めるか決めてちょうだい」
彼女の的確な指示で出場者が続々と決まり、バトルロワイヤルあっち向いてホイによって50m走も確定したことで走る競技は全て埋まった。
自然と足に自信がありそうな人の名前ばかりが並んでいるが、何者かから圧力を受けたわけではない。
ただ単に自信の無い人たちが、後半の楽な競技に狙いを定めているのである。
そう、世はまさに大競技選び時代。出場枠? 欲しけりゃくれてやる、争え! この世の全てをそこに捨ててきた状態なのだ。
「次の競技は……大玉転がしね。8人までなら行けるわよ、やりたい人はいるかしら」
玲奈の言葉に、待ってましたと言わんばかりの表情でピンと手を上げるのは花楓。
どうやら玉に転がされ……ではなく、コロコロと転がしたいらしい。確かにあれは楽しそうな競技に入るだろう。
しかし、瑞斗が狙っているのは綱引き一択。あれはチームプレーなので、少し手を抜いてもバレないところがいいのだ。
そんなことを思いながらボーっとしている間に人数が集まったようで、名前を黒板に書いていくチョークの音が聞こえてくる。
花楓の他には誰が入ったのだろうと見てみると、『
「私を合わせて7人ね。あと一人足りないのだけれど、適当に瑞斗君でも入れておこうかしら」
「いや、手上げてないんだけど」
「どうせ綱引きでサボろうなんて思ってたんでしょう? だったら可愛い彼女に付き合いなさいよ」
「うっ、バレてる……」
「それに小林さん、瑞斗君と一緒になろうと思って選んでるわよ。ここに瑞斗君を追加すれば、名前的にもちょうど私が間に入っていい感じね」
「
「何かしら、文句があるなら大きな声で頼むわ」
「……なんでもないれふ」
むっと不貞腐れつつ、机に半分突っ伏しながら答える花楓に、玲奈は意地悪な笑みを浮かべながら『大玉転がし』という文字に赤いチョークで丸を付ける。
彼女にとっては恋人感を演出しながら、幼馴染に対しての妨害も出来るから一石二鳥なのだろう。
おそらく反抗してもどうにもならないことは分かっているので、ここは察せる男を演じて何も言わずに作戦に乗ってあげることにした。
その次の『台風の目』と『大縄跳び』、『綱引き』も順調に決定し、残すはラストひと種目となる。
ただし、これは挙手制ではなくて足の速い男女2名ずつが選抜で代表となるクラス対抗リレー。誰が選ばれたのかを発表するだけだ。
まあ、みんな大体の予想はついているという顔をしているし、大半がドキドキもワクワクもしていないらしいが。
「男子は
「よし、今年も頑張るぞ!」
「みんなのために走るよ!」
「女子は
「が、頑張ります!」
言わずもがな、玲奈の足は女子の中で最速だ。ちなみに
普段からお淑やかで清楚な岩倉さん。瑞斗にとって彼女は文学少女というイメージがあったが、それは他の男子も同じ気持ちらしい。
実は運動が出来る子というギャップにみんながザワついている中、例に漏れず『いいなぁ』なんて思っていた彼の左こめかみに、鋭い視線がグサグサと突き刺さっきてきたことは言うまでもない。
「瑞斗君は私みたいに冷たい女よりも、岩倉さんみたいな優しい子が好きみたいね」
「そんなことない……って言ったら失礼だけど、そういう気持ちで見てたわけじゃないよ」
「本当かしら。まあ、岩倉さんがあなたを好きになることは無いから私で妥協しておきなさい」
「わかった」
「……はぁ、そこは妥協じゃなくて一番はお前だくらいのこと言えないのかしら」
「僕はそんなイケメンハート持ってないよ」
この日、あの鈴木 玲奈が嫉妬心を丸出しにしたという噂が広まると同時に、瑞斗に対するヘイトが少し高まったことはまた別のお話。
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