第83話 席替えはなんだかんだ一大イベント
寝る寝るタイムに思いを馳せながら迎えた6時間目、
なぜなら、この時間で行われるのはワクワクタイムでも寝る寝るタイムでもなく、席替えという名の魔の儀式だったから。
窓際最後列という寝るのに最適な環境を我がものとしていた彼にとって、ここを誰かに譲るというのは耐え難い現実。
出来ることならこのまま机を持って駆け落ちしたいところではあるが、そんなことをしても新たな机が追加されるだけなのでやめておく。
「ほら、全員座れ。普段と違ってザワザワと騒がしいな」
休んでいる担任教師の代わりに派遣された
しっかりとした科目の授業では無いからか先生も見逃してくれたけれど、いつもならチョークマシンガンが発動していたところだ。
ブチ切れモードの岩住先生だけが発動するあの教師奥義をまともに喰らえば、数人程度は帰らぬ者が出ていてもおかしくないらしい。
在校生は誰も見たことがないらしいが、8年ほど前の生徒が犠牲になったという恐ろしい噂がある。先生本人は、箒を壊した生徒を生徒指導室送りにしただけだといっていたけれど。
「ようやく静かになったな。みんなも聞いていると思うが、これから席替えを行う」
「ようやく最前列とはおさらばだぜ!」
「この席と離れたくないわ」
「誰がなんと言おうと、今日席替えは行われる。それとも、お前たちは先生が決めた方がいいのか?」
「「「「…………」」」」
これ以上ないほどの脅しに、クラスメイトたちは一斉に黙り込む。
岩住先生に決められるとすれば、前に来る生徒の大半は授業態度の悪い生徒になると分かっているからだ。
普段はあまり好ましくない行いでも、今ばかりはピシッと背筋を伸ばして優等生を演じるのである。そう、瑞斗と同じように。
「そんな凛々しい顔をしても、メモしている点数で決めるから意味ないぞ。特に姉川」
「どうして僕なんですか」
「自分の心に聞いてみろ」
言われた通り頭の中で自問自答してみるが、悪いところと言えば授業中に寝ていることくらいしか思い浮かばない。
しかし、先生にとって自分が筆頭不良生徒だと言うのなら、理由の有無に関わらず席順を決めてもらう訳にはいかなかった。
自分が一番前の中央席、人呼んで不眠の
こうなれば仕方が無い。目立つことはあまりしなくないが、この教室の空気で先生を圧倒するしか手段は残されていない。
「みんな、席替えはギャンブルだよ。どこの席になるか、誰の隣になるかを賭け合うゲームなんだ」
「「「「そうだそうだ!」」」」
「くじ引きがいいかー!」
「「「「くじ引きがいい!」」」」
「先生に決められるのは嫌かー!」
「「「「我々は自由になるんだ!」」」」
その数、なんとクラスメイトの過半数をゆうに超えている。さすがにこれには先生も対抗出来なかったようで、仕方ないと言うふうに用意してきたくじ引きを教卓の上に並べた。
「お前たちの馬鹿さには負けたよ。楽しめるなら自由にすればいい、ただし授業は真面目に受けろ」
「「「「はい、先生!」」」」
そういうわけで、席替えはくじ引きにて行われることが決定した。そう、大人に高校生が勝利した瞬間である。……しかし。
「やっぱり先生に決めてもらおうかな」
「それがいいと思う」
「この席嫌なんだけど」
前の方になってしまった不真面目勢の数人が反旗を翻したことで、前方対後方の戦争が勃発したことはまた別のお話。
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