第82話 いつから運動場で遊んでいると錯覚していた?
あれから1週間後、
1時間目、2時間目と次々に返されるテスト用紙を見てどんどん視線が床に落ちていく彼女の姿を、面白さ半分呆れ半分で見つめていた。
前日まで何もしなかった人間がその後急成長するはずもなく、イヤイヤやらせた挙句最後の方はさすがの花楓もグレてしまったのだ。
一人では限界だと自分と同じくらい成績のいいらしい
その結果が昼休みになった今、弁当箱と共に目の前で広げられている4枚の解答用紙右上の数字である。
「16点、22点、31点、こっちは8点か」
「みーくんが勉強ばっかりやらせるから、花楓は杏仁袋の緒が切れたんですよーだ!」
「杏仁袋じゃなくて堪忍袋ね、美味しそうにしないでよ。そもそも使い方間違ってるけど」
「私が家庭教師なら、いくら給料が高くても
「酷い! というか、どうして
花楓は『ここは私の席だ』と言わんばかりに不満そうに眉をひそめるが、玲奈は知らぬ存ぜぬという顔で白米を口へ運んだ。
彼女の言い分も分かるが、そもそもカップルである瑞斗と玲奈が一緒に昼食をとるという体制に混ざってきている
あくまで恋人アピールという周りへの演出なので、二人とも強い言い方をして無理に遠ざけたりはしないけれど。
「そんなことより、自分の成績を心配した方がいいと思うよ。去年だって僕が助けてギリギリ進級できたレベルなんだから」
「うっ……そんなこと言われても、花楓だって頑張ってるつもりなんだもん」
「頑張ってる人が『花楓はワルになるんだぜぇ』って、夜中に1リットルのコーラ直飲みし始めるかな」
「あ、あれは気の迷いって言うか……」
「どちらかと言うとワイルドね」
「ワイルド花楓ちゃんだよね」
二人から真顔でそう言われた花楓は、顔を真っ赤にしながらテストを震える手で集めてカバンの中へと突っ込む。
現実から目を逸らしているつもりだろうが、おばさん……つまり花楓の母親に伝えようとしないであろう本人の代わりに結果を教えなくてはならない立場としてはかなり辛い。
幼馴染が怒られるような状況にしたくないという気持ちと、昔から良くしてくれているおばさんに嘘はつきたくないという板挟み。
それを回避するためにも勉強は頑張ってもらいたかったのだけれど、今回は玲奈との関係もあって前もって根回しをし忘れたのだ。
「今回は僕も悪いからおばさんには赤点は無かったって伝えるけど、補習にはしっかり行ってよ?」
「ほんと? みーくんはやっぱり優しいね♪」
「その代わり、期末は絶対赤点回避して。そっちは正式な書類で結果が出るから、写真を送る以上嘘のつきようがないし」
「分かってる分かってる! 花楓、今から頑張っちゃうもんね」
「そんな早くにエンジンをかけたら、テスト前にガソリンスタンドへ寄ることになるわよ?」
「ガソリンスタンド……?」
「どうして僕を見るの」
花楓は「えへへ」と無邪気に笑っているけれど、瑞斗からすればどういう意図でガソリンスタンド扱いされたのかが謎で恐ろしい。
もしや、何か大切なものを吸い取られることになるのではないかと怯えるほどだ。彼にとってそれは、今回同様に睡眠時間以外の何者でもない。
「そう言えば、今日の6時間目はお楽しみがあるらしいわね」
「お楽しみ?」
「ワクワクタイムかな?」
「それは小学校らの時の水曜日の昼休みでしょ」
「うん! クラスみんなで運動場に出て遊ぶやつ!」
「は、はぁ……?」
同じ思い出のない玲奈には悪いと思いつつも、幼き頃の記憶に思いを馳せる。
まあ、昔から運動が好きではない瑞斗にとっては、強制的に鬼ごっこやらドッジボールをさせられるあの時間は監禁と言っても差し支え無いものだったけれど。
「……寝る寝るタイムがいいなぁ」
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