第71話 人生において尿意は危機度レベル高め
結局、何をやっても開きそうにないので、ドア蹴破り術を心得ている
その間、
彼にとって女子高生のパンツが見られるのは、どんなシチュエーションでもご褒美でしかないが、彼女のを見るとそれをネタに後々面倒なことになりかねないだろうから。
「はい、開きましたよ」
「ありがとうございます。早く元の場所に戻ってもらえますか?」
「ふふふ、この格好のまま
「子供地味たイタズラしてないで、大人しくソファーに引っ付いてて下さい」
「どうせなら姉川くんにくっつきたいですね」
「はいはい、彼氏でも作ってイチャイチャして下さいね」
瑞斗の返答に不満そうに頬を膨れさせた陽葵は、「だから姉川くんにくっつきたいって言ってるんですけど」なんて言いながらソファーに戻る。
「……からかわないで下さい」
「本気だったら叶えてくれますか?」
「僕は彼女持ちなので」
「偽物じゃないですか」
「だとしても、先輩は先輩ですよ。それに冗談にしか聞こえません」
「ふふ、告白カウント一つ増やしてもいいですよ?」
「やめておきます。バレンタインに貰ったチョコの個数に母親の分まで足してる気分になるので」
「褒め言葉として受け取っておきます♪」
「幸せな頭ですね」
器が大きいのか、はたまた何も考えていないのか。「はい、履きましたよ」と声をかけてくれてから振り返った瑞斗は、そんな先輩の前を通ってドアノブの吹っ飛んだ扉に近付いた。
「それにしても、座ってるだけというのに飽きちゃいましたよ」
「僕が出ていった後は自由にしてていいですから」
「それは上も脱いでいいってことに?」
「まあ、自由にして下さい。僕ひとり、この人は変態なんだなと今後思い続けるだけなので」
「冗談です。大胆な露出より、バレるかバレないか程度なのが楽しいんですから♪」
「……僕、もうここには戻らないかもしれません」
彼がそう言いながら扉を開くと、背後で僅かにぶるっと身体を震わせた先輩が名前を呼んで引き止める。
嘘を信じてしまったのかと「ちゃんと戻りますよ」と伝えるも、その顔にかかった暗い影が取れることは無かった。
何か問題でも発生したのだろうか。もしかすると、ドアを蹴破った時に足首を捻挫したのかもしれない。
おかしな様子からそう予想した瑞斗が陽葵の足元に駆け寄ると、彼女は驚いた顔をしながら心做しか太もも同士をギュッとくっつけた。
「あの、姉川くん……」
「どうしたんですか?」
「ひ、人の尿は40度のお湯の代わりになりますか?」
「…………先輩、まさか」
モジモジとする脚、危機迫ったような表情、そして何より今の謎発言。
それらから全てを察した彼と目が合うと、彼女は「先生、トイレがしたいです……」と苦しそうに呟く。
動くことは出来ても部室から出ることは出来ない状況で、絶対に移動しなくてはならない行為を必要としている。
これは当人ではない瑞斗にも、ヒシヒシとその深刻さが伝わって来るほどの一大事だった。
「すぐに何とかしますから。先輩は動かず、なるべく楽な体勢で待っていて下さい」
「姉川くん、私はもうここで終わるんですか……」
「そんな、ずっと敵だったのに良心が芽生えて、最後の最後で主人公を守って瀕死状態になった人気キャラみたいなこと言わないで下さい」
「お漏らしなんて恥ずかしいです、絶対に嫌です!」
「高校生にもなって接着剤でくっついた人のセリフとは思えませんね。どこのトムとジ〇リーですか」
「ふふっ……わ、笑わせないでください。お腹に響いて、本当に危ないんです……」
先輩の顔からサーッと血の気が引いていくのが分かった。これはもう、尿意を我慢だけで制御することが難しくなってきた段階だろう。
どうせ部室には誰も来ないし、漏らしたところで2人だけの秘密にはなる。
ただ、ひとりの人間として女性の危機を見て見ぬふりすることは出来なかった。
何より、目の前で醜態を晒された後、次からどんな顔をして合えばいいのか悩みたくないというのが一番の理由ではあったが。
「すぐに戻りますから、頑張ってください」
瑞斗はそうとだけ言い残すと、全速力で廊下に飛び出して階段へと向かう。
目指すは理科室。綺麗に取れなくてもいい、何とかスカートをソファーから剥がすことさえ出来れば、トイレにくらいは行けるだろうから。
彼はあそこになら必ず解決策があると信じながら、運動不足を訴える足にムチを打って、一気に上の階まで上り切るのであった。
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