第53話 寝ぼけ眼に直射日光は毒
何度持ち上げても眩しい太陽の光に押し下げられる
おかげで夜遅くまで目が冴えてしまい、学校のある本日はこのザマである。
「ほらほら、みーくん。私でも見て目覚まして?」
「余計に眠くなるよ」
「むっ、面白みの無い顔だなんて酷い!」
「そういう意味じゃないから。花楓はおっとりしてるからね、眠気を誘うんだよ」
「……つまり、好きってこと?」
「どうしてそうなった」
「だってみーくんは寝るのが好きでしょ? なら、眠くさせる私のことも好きってことじゃん!」
「いや、その理屈はおかしい。それなら僕が
瑞斗は部室に顔を出した時、いつもなんだかんだであの人に寝かしつけられている。
彼女の包容力と手のひらから伝わる安心感が、優しい暴力のように襲いかかってきて抵抗できないのだ。
もしも花楓の理論が正しいとすれば、自分は先輩のことが大好きということになってしまう。
都合のいい時だけ膝を借りに行く最低な男が、その相手に恋心なんて抱いているはずがない。
恋愛感情もないのに膝枕してもらっているという方がマズい気もしなくはないけれど、とにかく瑞斗が好きなのは
そんな気持ちがうっかりと口から飛び出した瞬間、花楓の目が僅かに鋭くなってこちらを睨む。
慌てて言葉を止めたが時すでに遅し。先輩の名前が出た時点で、前々から2人はどういう関係なのかと怪しんでいた彼女からすれば、ついに
「んー? 陽葵先輩がどうかしたの?」
「……あれ、そう言えば
「みーくんってば、話題逸らすの下手過ぎ」
「いや、そうじゃなくてさ。鈴木さんに何かあったんじゃないかと心配に……」
「咄嗟に名前が出てくるほどの関係なんだね」
「……か、花楓さん?」
「これはもう、鈴木さんに告げ口するしかないかな。あの人は敵だけど、幼馴染として正しい道に戻してあげないと」
「本当に陽葵先輩とは何も――――――――――」
信じる気がさらさらない花楓を何とか落ち着かせようとするが、今回は彼女の方が一枚上手だったらしい。
にんまりと笑いながら「でも、言うこと聞いてくれたら伝え忘れちゃうかも?」なんてちらちら視線を送ってきた。
もはや脅迫とも言えるその行動に屈することしか出来ない情けなさを噛み締めつつも、彼は命拾いしたという安堵の気持ちをも感じながら頭を下げる。
「なんなりと仰って下さい」
「うむ、苦しゅうない♪」
「だけど、本当に先輩とは何もないから」
「1、2、3……ポカン!」
「急にどうしたの、おかしくなった?」
「えへへ、忘れる時の効果音だよ」
「いや、ポ〇モンじゃないんだから」
「カエデはみーくんの弱みを忘れた。代わりに命令することを覚えた!」
「出来れば両方忘れて欲しかったね」
「みーくん、ゴールずらし!」
「それはポケ〇ンじゃなくてイナ〇マイレブンの技」
「ひゃくれつにくきゅう!」
「そっちは同じ会社の別の作品だよ」
怒涛のボケに対する的確なツッコミを全スルーして、にゃにゃにゃにゃ!なんて言いながらペシペシ叩いてくる幼馴染に、今日は平和そうだなと少し笑みを零しながら通学路を歩いていく瑞斗であった。
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