第54話 朝飯前ってよく言うけど、別に食べてから落ち着いてやればいいと思う
今日、1時間目が始まっても、昼休みになっても
先生は電話で体調不良だと聞いたと言っていたが、それほど酷くはないため数日もすれば学校に来れるとのこと。
そう聞いても、少し前までは睨んでくる怖い人だった彼女が居ないだけで、何だかいくつも空席がある気がするほど静かに感じる。
これはチャンスだとばかりに
いつの間にか、玲奈が自分の認知する範囲内に存在していることが当たり前になっていたらしい。
「ねえねえ、みーくん。一緒に帰ろ?」
「ああ、
「デートだデートだ♪」
「下校以外の何者でもないから」
「ちぇ、けちんぼ」
そして放課後、唇を尖らせている花楓に呆れながら荷物をまとめていると、どこからともなく現れた
「ねえ、みっちー。玲奈のこと心配じゃないの?」
「心配? そりゃ、早く良くなればいいなとは思うけど、軽いものなんでしょ?」
「そんなのあの子の強がりに決まってるじゃん? 彼氏ならそれくらい分かってあげなよ〜」
「どういうこと?」
「やっぱり、みっちーには言ってないか」
瑞斗が「玲奈、優しいからねぇ」なんて言う彩月に首を傾げると、彼女はトーク画面の映ったスマホ画面を見せてくれる。
それは他でもない玲奈とのやりとりで、今日最初に送られてきているのは1時間目が始まる前。
内容は熱があるだとか、39度まで上がったというもので、確かに『軽い症状』とは言い難い。
先生が『声は元気そうだった』と言っていたから、電話では無理をして明るく振舞ったのだろう。
それでも、親友にだけは本当のことを伝えた。それは彩月が言いふらさないと信じているからこその判断だと思う。
それを裏切ってまで自分に伝えたのはどうしてか。考えるまでもなく、答えはひとつしかなかった。
「見舞いに行けってことか」
「ビンポーン♪ 大好きな彼氏の顔を見たら、乙女はみんな元気になっちゃうってもんよ!」
「僕は解熱剤か何かなの?」
「むしろアツアツに熱されちゃうかもね〜♪」
「よし、花楓帰ろう」
「ちょいちょい! 顔を見せるだけ見せてあげて欲しいだけだから、この通り!」
教室を出ようとする瑞斗の前に立ち塞がり、まるで自分のことのようにお願いしてくる彩月。
彼はついつい自分のお人好しな面と目の前の彼女とを重ねると、どうにも無視しづらくなってしまって渋々足を止めた。
こうなれば後は向こうのペースに流されるだけで、瑞斗も半ば諦めて寄るくらいなら構わないかという気分になってきている。
ただ、問題がひとつあった。彼は既に花楓と一緒に帰る約束をしてしまったのだ。
自分は良くても彼女が良くなければ、無慈悲に『やっぱナシで』なんて言えるはずがなかった。でも。
「いいよ、お見舞いに行っても」
迷う気持ちを察したように、彼女は自分からそう言ってくれる。
その目は無理をしている風でもなく、本心から溢れ出た言葉なのだと幼馴染としての直感が告げていた。
「……花楓、ほんと?」
「病人を踏みつけるような真似はしたくないだけ。正々堂々とみーくんを奪うんだから、早く元気になってもらわないと困るし」
「そっかそっか、花楓は優しい子だね」
「だから違うってばぁ……」
照れ隠しのつもりでそっぽを向くツンデレな花楓だったが、頭を撫でてやるとあっさり頬を緩めて見えないしっぽをブンブンと振り始める。
偉い子にはご褒美を与えてあげたいが、今は残念なことに手持ちも時間もない。
仕方ないので、帰りにプリンでも買ってきてあげるつもりで「夜にお礼はするから」と伝えると、彼女はただでさえ緩かった頬をさらに蕩けさせた。
「夜ってことは……えへへぇ、そゆこと?」
「どういうこと?」
「ご褒美はベッドの上でってことだもんね?」
「何その、謎解きはディナーのあとでみたいな文言」
「ディナーはお前だ?!」
「言ってない言ってない」
「あ、デザートか♪」
「そっちでもないから」
彼女の見舞いに行った後に別の女の子を食べちゃう男がどこにいるというのか。
そんな二股野郎が居たとしたら、鉄パイプで後ろからゴンとしてやりたいね。
瑞斗は心の中でそう呟きつつ、戒めとして脳内の自分をハリセンでぶん殴ってから、暴走花楓は彩月に預けて玲奈の家へと向かうのであった。
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