第49話 誰が為のシスターズチェック
「ふむふむ、なるほど」
独り言を聞かれて逃げ道を失った
その反応はいつも『早く恋人を作りなさい』だとか、『レイちゃんならいい人がいるよ!』なんて言ってきた時とは何かが違う。
「その彼氏くんと付き合ったはいいものの、今より距離を縮める方法が分からないと」
「そうなの。お姉ちゃん、彼氏いるわよね」
「ええ、16人目の彼氏ね」
「……また増えてる」
「大丈夫、二股は一瞬たりともしてないから」
そう言いながら微笑む日奈は、そのスタイルと顔の良さ、そして誰にでも世話を焼いてしまう性格からかなりモテている。
それ故にアプローチされることも多いのだが、全て断ってきた玲奈と違って彼女は恋多き乙女なのだ。
誰にも深くのめり込めない代わりに、少しいいと思った異性がいれば簡単に好きになってしまう。
よく言えば経験豊富、悪く言えば尻が軽い。そういう面では分かり合うことの出来ない姉ではあるが、恋愛の先駆者としては頼りになるはず。
玲奈はそう考え、あえて判断するに足りる情報は全て開示することにしたのだ。
ちなみに、二股の話になると声のトーンが少し落ちるのは日奈の過去に原因があるのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。
「それで、アドバイスは何か思いついた?」
「そうだねぇ、とりあえずここに呼んでくれる?」
「
「そうそう。彼のことを知らないと、お姉ちゃんだってアドバイス出来ないからね」
「それはそうかもしれないけど、彼氏を家に呼ぶだなんてそんな……」
玲奈にとっては初めて出来た彼氏。勝手が分からずに困惑する気持ちも日奈にはよく分かった。
しかし、自分と同じくモテモテであるはずの妹がようやく彼氏になることを認めた男だ。
いい男だと信じたいが、可愛い妹のピュアさに漬け込んでよからぬことをしないとも限らない。
だから、頼ってくれた玲奈には悪いとは思いつつも、恋愛熟練者
「私からレイちゃんを奪おうとする馬の骨、もし悪いやつならどうしてくれようか……」
「お姉ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」
「うん、平気平気! それじゃあ、連れてくる日が決まったら教えてね」
「わかったわ、迷惑かけてごめんなさい」
「レイちゃんのこと、迷惑なんて思ったことないよ」
「……ふふ、ありがとう」
玲奈の笑顔を背に部屋を出た日奈が、心の中で『またひとつ、かっこいい姉を演じてしまった』とガッツポーズをしたことは彼女だけの秘密。
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そして次の土曜日、玲奈は瑞斗の家へとやってきていた。自分の家までの道のりを、一緒に歩いて覚えてもらうためである。
「休日にまで彼氏のフリさせて悪いわね」
「いいよ、どうせ暇だったし」
「暇なら寝るんでしょう? せっかくゆっくり眠れる日だというのに」
「僕はこう見えて計画的な男だからね。前もって知らせてくれたから、昨晩は早めに寝ておいた」
「そこも含めて手間かけたわ、ちゃんと埋め合わせはさせてもらうから」
「りんごジュース?」
「ええ、もちろん」
迎えに来る道中で買ってきてくれたのだろう。玲奈は「先払いしておくわ」と言ってパックのりんごジュースを差し出した。
瑞斗はそれを嬉しそうに受け取ると、今日の具体的な流れについて聞きながら、ストローを刺してチューチューと吸い始める。
「いずれバレる可能性の高いお姉ちゃんには、先に知らせておくべきだと思ったのよ」
「……」チューチュー
「決して何か別の目的があるなんてことは無いから、その点は安心してちょうだい」
「……」チューチュー
「到着したらまず、瑞斗君はお姉ちゃんと二人で話しをすることに――――――――――」
「ふぅ、美味しかった。やっぱり100%は違うね」
「――――――――――話、聞いてた?」
「もちろん。他所で知られる前に僕の存在をお姉さんに知らせておくんだよね。でも、鈴木さんは何か別の目的があるんだっけ?」
「……はぁ。どうして一番聞き間違えて欲しくない箇所を聞き間違えてるのよ」
その後、寄り道した公園のゴミ箱にジュースのパックを捨ててから、もう一度同じ話を聞かされたことは言うまでもない。
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