第32話 カチコミ男子注意報
偽デートから一夜が開けた月曜日、
もちろん相手は誰なのか分かっていないし、帽子にマスクという重装備具合から、彼女に釣り合うような有名人説が持ち上がっていたりもする。
そして当事者である瑞斗はと言うと、席のすぐ近くにある窓枠に腰掛けて友人ギャルと雑談する玲奈の裏切り行為に腹を立てていた。
まあ、自分にだけ見えるようにピースサインを出したのを見て、今日くらいは許してやるかと文句は引っ込めたけれど。
「あのさ、マリーたち言いたいことがあるんだよね」
「2人に黙ってたことなんだけど……」
「いきなり改まって、どうかしたのか?」
「なんだか大切な話みたいです!」
その声を聞きながら、これで全てが丸く収まったと内心ホッとしていた瑞斗。
しかし、人生というものは時に降りたら上るという単純なだけでは済まないことがある。彼はこの瞬間、身をもってそう思い知るのであった。
「なんだなんだ?!」
「他校の生徒が乗り込んできたらしいぞ!」
「え、あの人って確か――――――――」
廊下から慌てるような騒がしい声が聞こえてきたと思った矢先、開いていたドアから見覚えのある人物が飛び込んでくる。……
彼は玲奈と目が合うと、直線上に立つクラスメイトたちを押しのけて近付いてくる。
それを見兼ねた彼女は短くため息を零すと、窓枠から降りて自分から距離を詰めた。
「ここはあなたの学校では無いわよ。警備員に連れ出される前に、自分の足で立ち去ることをおすすめするわね」
「俺は用事があって来てるんだ。そう言われてノコノコと帰るわけないだろ」
「そう。私はあなたに用事なんてないけれど?」
「忘れたとは言わせねぇぞ、お前の彼氏の正体」
それまでざわついていた生徒たちが、その一言でしんと静まり返る。
少し前まで存在を疑い、今はその真相に妄想を膨らませている彼ら彼女らにとって、それは最もホットな話題なのだ。
有名俳優か、もしくはアイドルとの禁断の恋か、はたまた金銭的余裕のある年上彼氏か。そんな期待が飛び交う中だからこそ、現実は全員の肩に重くずっしりとのしかかった。
「お前の彼氏の正体は
あの地味で目立たないぼっちが……という気持ちになるのはごもっともである。瑞斗本人が偽彼氏であろうと一番そう思っているから。
それにしても『姉川って誰?』という言葉はさすがの彼でも傷付く。出席確認の時、いつも初めの方に呼ばれているはずなのに。
ただ、中には青野の言葉だけでは信じていないという者も少しばかり残っているらしい。
「姉川が
「ありえないありえない。乗り込んでくるようなやつの言うこと、信じられるかっての」
「もし本当なら、姉川が弱み握って脅してるだろ」
「フヒッ、主ら何を馬鹿なことを。我らが玲奈様に弱みなどないでござるよ!」
そんな青野嘘つき派の人たちは、アウェイに踏み込んだ彼へと避難の声をぶつけ始めた。
ついには出て行けと掴みかかろうとする者が現れたのを見て、青野と睨み合っていた玲奈は痺れを切らしたように彼の前へと立ち塞がる。
「彼の言っていることは嘘じゃないわ」
その一言は覇気となって、詰め寄ってきていた生徒たちをよろよろと後退させる。本人の言葉ともなれば、さすがに威力が違いすぎたのだろう。
それでも信じたくなかった玲奈ファンらしき丸メガネが声を上げようとするが、遮るように放たれた玲奈の宣言によってあっさりとかき消されてしまうのであった。
「私は瑞斗君と真剣に付き合ってるの」
その言葉で一番驚いていたのは他でもない、花楓と花楓の彼氏が瑞斗だと教えられていた
最悪のシチュエーションでバレることになってしまった彼女は、困惑した様子で向けられる二人の視線にただ苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
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