第30話 嘘つきは泥棒の始まりとはよく言うけれど、盗んで隠したのは自分の本心だと思う
そして、それまで「いい出会いがある」だとか「幸せは前にあるんだよ」なんて必死に励ましていた
ようやくこちらを向いた彼女の目はやはり潤んでいたが、そこから感じるのは悲しさとはまた違った何か。
今思えば、花楓が励ましている間もずっと、救いであるはずの言葉を辛そうに聞いていたように思える。
「こばちんに言わないといけないことがあるの」
「どうしたの?」
「マリー、彼氏居るって嘘だったんだよね」
「え? でも、さっきまで一緒に……」
「青野くんには今日だけ彼氏のフリを頼んでたんだ。前からしつこく声掛けられてたから、上手くいったらお礼するって約束で」
「……そ、そうだったんだ」
真理亜によると、彼氏が居ると嘘をついてしまってからずっと貫き通してきたものの、
彼氏が居ないのではないかと疑われ、みんなから嫌なものでも見るような目を向けられる。
自分もそうなってしまうのが怖くて、彼氏がいると聞いたばかりの花楓を利用して何とかしようと考えてしまった。
その罪悪感自体はずっと感じていたものの、見て見ぬふりをしていた。そうやって自己中心的にならなければ、何かが折れてしまいそうだったから。
「でも、青野くんがボロを出したから。もう続けられないなって思うと力が抜けちゃってさ」
「真理亜ちゃん……」
「私は最低だよ。嫌われないための嘘を、嫌われるような方法で作ろうとしたんだから」
「……」
花楓も聞いた話に見に覚えがあるせいだろう。言葉を掛けようとする口元には
しかし、ポツリと落ちた涙に背中を押されたのかもしれない。彼女は真理亜の手をそっと握りながら首を横に振って見せる。
「私も同じだよ」
「……同じ?」
「私もみーくんとは恋人じゃないの、嘘がバレないように手伝ってもらっただけだから」
「そ、そうだったの……?」
「うん。嘘つきになるのが怖くて、みんなを騙そうとしてた。真理亜ちゃんのおかげで目が覚めたよ」
花楓が満面の笑みで「ありがとう」と伝えると、彼女は「そっか、私のおかげか……」と少し嬉しそうに笑った。
その様子を眺めていた
真理亜のことは合わなそうだなと苦手意識を持っていたが、それはあくまで彼女の表面でしか無かったわけだ。
きっと、ある意味での強さを内側に抱えている花楓だからこそ、こうして嘘を引っペがした顔を突き合わせられたのだろう。
「みーくん、私偽彼氏役はもう頼まない」
「僕もそうしてもらえると助かる」
「じゃあ、こばちんも明日一緒に謝ろっか」
「2人でなら怖くない……こともないけど、少しは不安じゃなくなるよねっ!」
「うんうん♪」
瑞斗はキャッキャしている二人を見つめつつ、先程から静かに佇んでいる玲奈へと歩み寄る。
そして、他の人には聞こえない声量で「どうせなら一緒に打ち明けてきたら?」と促してみた。ダメ元なのは承知の上だが。
「お断りね。少なくとも私の作戦は成功したわ、あなたが二股してたことは予想外だったけれど」
「二股って言わないでくれる?」
「間違ってないじゃない。それとも、罪悪感すら覚えていないとでも言うつもり?」
「それは……覚えてるよ。でも、僕は頼まれたら断れないって知ってるでしょ」
「ええ、もちろん。私、それを利用して言うことを聞かせた張本人だもの」
玲奈はそう言って悪い笑みを浮かべると、「そろそろ行くわ」と軽く手を振りながら花楓と真理亜にもその旨を伝えるべく歩き出したのだった。
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