第26話 昨日の敵は今日も敵
告白なんてするものだからてっきり彼女がいないとばかり思っていたが、まさか幼馴染の友人の彼氏だったとは……。
瑞斗が言っていい立場なのかどうかは分からないが、彼がしたことは完全に浮気未遂だ。
気持ち的な話なら100%アウトだろうし、成功していたら乗り換えようとでも思っていたことは間違いない。
ただ、それでも彼は唯一『玲奈の彼氏』の顔を知る者。つまり、青野も瑞斗が浮気をしていると思っているわけである。
この構図を何かに例えるなら、核兵器で脅し合う2つの国だろう。どちらかが使用すれば、間違いなくもう片方も反撃で使用するのだ。
「き、君が彼氏さんか。なかなかいいコーディネートだね」
「そちらこそ、ヘアスタイルが決まってる」
お互い褒め言葉で様子を伺いつつ、目で相手に圧をかける。真理亜は「さとくんが人を褒めるなんて珍しい!」なんて言っているあたり、あの時殴られた恨みつらみは何とか隠せているらしい。
鈍感な花楓はと言うと、「確かにみーくん、新しい服着てる!」と今更気付いた様子だ。
まあ、彼女が
「さとくんとみずっちが仲良くしてくれそうで良かった。それじゃ、早速レッツゴーだよ!」
言葉にしなくてもワクワクしていることが伝わってくる表情で青野と腕を組んだ真理亜は、足早に目的地へ向けて歩き出す。
それをぼーっと眺めていた瑞斗は、真似するように引っ付いてきた花楓に引っ張られるようにして2人を追いかけた。
ただ、追いつくことに必死過ぎてスキップの真似までは出来ず、どこぞのアナウンサーのような走り方になりながら着いていくことに。
周りの視線が痛いから本当にやめて欲しいが、今は彼氏役なので黙って自分もおかしなスキップをしておいた。
「んふふ、2人とも面白いカップルだねぇ♪」
「変わり者同士お似合いだね」
「それはどうも。確かに、こんなのとずっと一緒にいるのは変わってるのかも」
「なっ?! 私は別に変じゃないもん!」
「変というか、ちんちくりんだよ」
「むぅ……」
ついつい彼氏役のことを忘れて、普段通りに話してしまった。それに対して不満そうな顔をする彼女に、彼は彼氏っぽいことが何かと考えてみる。
そして、何気なく花楓の耳元に口を寄せると、初めに思いついたことを躊躇いなくやってのけた。
「そんな花楓が、僕は好きなんだけどね」
「ふぇっ?! そ、そそそんな急に言われましても……」
花楓の方もなかなかの演技だが、恋人という設定でこの反応は少しおかしい。
なので、「喜ぶ演技だよ」と真理亜たちには聞こえない声量でアドバイスしてあげると、「え、演技演技、うっかりさん」なんて言いながら方向性を変えてくれた。
「私もみーくんのこと、大好きだよ?」
「わぁ、2人ともラブラブ〜♪ 熱々で羨ましいよね、さとくん」
「そうだね、俺たちも見習わないと」
「えへへ、長年培ってきた愛情はそう簡単に出せるものじゃないけどねっ!」
ドヤ顔で胸を張った後、ギュッとハグをしてくる彼女。真似事とは言え、少し調子に乗りすぎじゃないかとは思うが、振り切らないとやっていられないのだろう。
そう思った瑞斗が少し長いなと覗き込んだ瞬間、「は、恥ずかしい……」という呟きにピッタリな赤面を見せた花楓に、ほんの少し女の部分を垣間見たことは彼だけの秘密。
「こばちん、私にもハグして〜♪」
「い、今はダメ!」
「いいじゃんいいじゃん、いつもさせてくれてるし」
「今はみーくんじゃなきゃダメなのぉ……」
「もう、仕方ないなぁ。青野く……さとくんにしてもらうからいいもんね〜」
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