第27話 恋は経費で落ちません

 瑞斗みずとたち一行は、しばらく駅前をブラブラと歩きながら良さそうな店を探していた。

 途中で真理亜まりあが昨日訪れたカフェが気になると言い出したが、何とか理由を付けて諦めてもらうことに。

 マスターは告げ口をしたりはしないだろうが、窓からチラッと玲奈れいならしき人物が見えたのである。

 2日連続で通うとは、余程ダーツが好きらしい。何はともあれ、現状を彼女に見せるわけにもいかず、足早にその場を立ち去った。


「ここなんてどう?」


 次に真理亜が指差したのは、やたら派手な看板を下げたお店。中を覗いたところ、女の子が好きそうなものを取り揃えた店らしい。

 例えば、シル○ニアファミリーのようなお人形から、リップや口紅、マニキュアのようなオシャレグッズまで。

 幅広い年齢層をターゲットにしているようで、お客さんは女性かカップルだらけ。瑞斗にとっては少し息苦しい世界だ。


「ねえねえ、さとくん。ちょっと見に行かない?」

「うん、もちろんいいよ」

「あはっ♪ こばちんたちも行こ!」

「え、私はこういう場所は……」

「僕も苦手かな。だから外で待ってるよ」

「それじゃダブルデートの意味が無いじゃん!」


 真理亜はそう言うと、ズルズルと後ろに下がっていた2人の腕を掴み、強引に店の中へと引っ張り込む。

 そして文句を言う間もなく青野あおのと腕を組むと、足早に店の奥へと行ってしまった。


「着いていくしかないみたいだね」

「……うん」


 瑞斗は言うまでもなく、女の子である花楓かえでもこの雰囲気が苦手らしい。

 記憶によれば彼女は可愛いものが好きではあるが、自分のオシャレなんかにはあまり積極的ではない。

 元々ネガティブに考えがちな上に、知識もそんなにないからだろう。昨晩早苗さなえが調べ物をしていたことから、今日の服もおそらくアドバイスを受けて選んだと思われる。

 我が妹ながら、なかなかいいセンスだ。着ているのが幼馴染でさえなければ、自分の好みにどストライクなのだから。


「これ、私に似合いそ〜」

「こっちも良いんじゃない?」

「さすがさとくん、わかってるぅ♪」


 追い付いた先では仲睦まじく青野が真理亜にヘアピンを選んであげている。よく分からないが、カップルはこういうことをするものなのだろうか。

 それならばと瑞斗も見よう見まねで近くにあった商品を手に取ると、花楓の髪に当ててみた。


「うん、似合うね」

「えへへ……って、それは髪留めじゃなくてクリップだよ!」

「あ、ほんとだ。クリップも似合うなんてすごい」

「それほどでも……じゃない! 全く褒められた気がしないんだけど」

「じゃあ、こっちのクリップならどう?」

「色に不満があるわけじゃないからっ!」


 確かにクリップは紙などを挟むためのものだが、形状的に髪を挟んでも問題は無いはず。

 なのにどうしてこだわるのかは分からないが、仕方ないのでちゃんと髪留めコーナーにあるものの中から選んであげることにした。

 彼女は茶髪だから、それに対して映えるものを選ぶ方がいい。そう思って探していると、こっそり近付いてきた真理亜が小声で教えてくれる。


「髪留めは髪色より服装で選んだ方がいいよ」


 そう言われて少し疑問には思ったが、ファッションに関する知識がゼロに等しい自分は何も言うまいとただただ頷いておいた。

 そして花楓の今の格好がシンプルな白いTシャツであることを確認すると、反対に派手目なゴールドのものを選んでみる。

 それを大人しく待っている彼女の顔の横辺りに刺してあげようとするが、ゴムならともかくヘアピンの付け方が分からないことに気が付いた。

 花楓もすぐにこちらが困っているとわかったらしく、ピンを受け取ると「みーくんのぶきっちょ」なんて言いながらサッと付けてしまう。


「えへへ、似合ってる?」

「どうだろ。少し表情は明るくなったように見えるけど」

「それはみーくんが選んでくれたから……じゃなくて、髪留めが明るいからだよ!」

「ということは、その色で正解だったんだね。これからプレゼントを贈る時の参考にしよう」

「……私以外に相手が居るの?」

「残念ながら居ない」

「んふふ、だよね♪」


 嬉しそうに笑いながら別のコーナーへと向かう彼女を見つめつつ、横目で先程選んだヘアピンの値段を確認する。

 彼氏という立場上プレゼントという言葉を使ったのはわれながら良かったが、そう言えば財布と相談していないことを思い出したのだ。


「……1600円」


 細長い割にはお値段が張っている。かと言って、今更キャンセルとは言えるはずがない。

 瑞斗は取り出しかけた財布を確認するのも憂鬱になって、消えゆく新作枕購入の夢に背を向けて歩き出すのであった。

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