第2話 脅威は避けようとしても向こうから近付いてくるもの
ある日の昼休み。
窓から差し込む春の陽気に溺れながら、温もりを蓄えた机に頬を付ける。こうしていると幸せな気持ちになれるので、騙されたと思って試してみるといい。
ただ、こういう時に限って邪魔者はやって来る。制定靴の
「……」
「……」
突っ伏した状態から少し顔を上げると、ちょうど窓枠に腰掛けている女生徒のスカートが見えた。
少し視線をずらせば、視界の70%を占領するのは黒タイツに包まれた細い脚と健康的な太もも。
異性に興味はなくともエロスへの関心は人一倍ある彼にとって、この光景はまさに天国である。
上から痛みすら感じそうなほど鋭い視線が降ってきていなければ、もっと心置き無く悠久のエデンを満喫出来たはずなのだが。
「……その目、キモいわよ」
「すみませんね、つい見蕩れちゃったもんで」
「見られることには慣れてるからいいけれど」
「むしろ、見せに来たような距離だったくせに……」
「今、何か余計なこと言ったかしら?」
「いいや、何でも無いよ。誰かとの待ち合わせなら、もうひとつ向こうの席にしてくれないかな」
「この窓枠が私の指定席なの。あなただって私の近くの空気を吸えて幸せでしょう?」
「……それもそうか」
こういうタイプとは言い争っても仕方がないので、適当に返事をして寝たフリに移行するのが定石。そのうち諦めて立ち去ってくれるはずだ。
……そう思っていたものの、彼女は5分経っても動こうとしなかった。いつもならさっさとどこかへ行っているはずだと言うのに。
「あの、向こう行ってくれない?」
「離れたいならあなたが離れればいいじゃない」
「ここ、僕の席なんだけど」
「言ったでしょ。ここは私の指定席、文句があるなら強引にでも追い出せばいいわ」
「……面倒だからやめておく」
「賢明な判断ね」
何だか負けた気がしないでもないが、ここで彼女に掴みかかりでもすれば、それこそ今ののほほんとしたぼっち生活すら歩めなくなる。
こちらが変に反応をしなくなれば、面白くなくなって自然と離れてくれるだろう。瑞斗はそう信じて強引にでも眠ることにした。
(それにしても、確かにいい匂いだ……)
女子特有の甘い香りと記憶に焼き付いた太ももを思い浮かべつつ、ゆっくりと夢の世界へと落ちていく。
遠くから聞こえてくる
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瑞斗が寝落ちる10分前。
数少ない友人と中庭でお弁当を食べていた花楓は、その中の一人が口にした言葉に戸惑っていた。
その内容というのが、『最近、彼氏が出来た』というもの。背が低くて童顔な花楓は男子人気は高いが、これまで彼氏がいたことは一度もない。
それ故、そういう話題の時にどういう反応をして、どんなこと言えばいいのかが分からなかったのだ。
「花楓ちゃんは?」
「ふぇ?!」
「もー、話聞いてた?」
「き、聞いてたよ! えっと……」
もちろん1ミリも聞いてはいない。そもそも、人付き合いが得意ではない彼女は、普段からある程度周りの反応を伺いながら暮らしている。
今回はその中でもかなり特殊なケースで、こうして名指しで聞かれることを想定なんてしていなかった。だから――――――――――。
「私も同じだから共感できる、かな?」
何とか捻り出したこの言葉が、一人では解決できない方向へと転がってしまうことになるなんて、全く予想していなかったのである。
「同じ? コバちん、彼氏いるの?!」
「……ほぇ?」
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