第10話:開戦

 セクバニア陣営は北の大地との境界線まで進軍。

 しかし、龍族も龍神王の号令に併せて軍勢を配備。

 龍神王にも引けを取らない四賢龍神の指揮の元、 龍神族の下位種族ともいえるリザードマンに防衛線を張られるほうが一足早く、タタラたち強襲本隊は夜の中、立ち往生する事となった。

「伝令!西の分隊、ルミリア様からです!竜族の展開が想定より早く進軍を止めているとの事」

「東の分隊、アステラーナ様からも同様に足止めをもらい立ち往生中との連絡がございます!」

 伝令を下がらせるとタタラは顎に手を当て考え始める。

 人相手であるならば”夜襲”というのも策の1つではある。休んでいる相手に奇襲をかければそれだけで戦場に揺らぎが生じるためだ。

 されど相手は竜族リザードマンたちと龍神族。

 生態を深く調べている時間もなかったため、夜にどのような状態なのかが掴めていない。

 情報がない以上、夜襲をかけるわけにはいかない。

 現に今、遥か遠くの上空には星龍シャオノーゲン、地上には㶚龍はくりゅうセレノーゲンが腕を組んでいる。無論タタラたちは四賢龍神などは知るはずもない。

「遠くに見える白い龍と、地上にいる青い龍は間違いなく強いね。こちらの動向が見えているとしたら…攻撃を仕掛けて来ないのは余裕の表れかもしれない。だからこそ、僕たちは下手に夜襲をかけるべきではないと思う」

「しかしタタラ様、それでは膠着状態が続き、後ろから来ると思われる龍たちの本隊が来てしまえば…」

「終わりだろうね。一気に畳みかけられるだろう」

 ではどうするのか、と言った顔でタタラを見つめる各隊の指揮官たち。

「ここに部隊長ではなく、君たちがいる理由、分かるかな」

「隊長たちにはいち早く休んでもらい、夜明けと共に突撃するお考えなのでは…?実際先程、マルス様もお休みになられると仰いましたし…」

「セクバニアよりも遥か東のほうの国にこういう言葉があるんだ。”敵を欺くにはまず味方から”ってね」

 各隊指揮官たちはざわめき始める。タタラが本来の作戦を言っていれば騎士たち全てがこうなっていただろう。

 指揮官の1人が状況を飲み込めないようでタタラへ問いかける。

「まさか―――」

 竜族たちとセクバニア陣営の間には巨大な渓谷がある。

「そのまさかだよ。王下騎士団は皆が皆、慎重なわけじゃなくてね…時には大胆な作戦にも乗ってくれる気前のいい集団なんだよ」

 タタラの言葉と共に、突如竜族側の地面が崩れ始める。㶚龍はくりゅうセレノーゲンとその周りのリザードマンたちは渓谷へと落下を始める。

 その轟音は開戦の狼煙の代わりといっても差支えがない。

 東西の分隊のほうからもそれぞれ轟音や眩い光が放たれ始める。

「マルス行くよ。青い龍はモンバットたちに任せよう。僕たちは―――」

「えぇ、あの白き龍を討ちます」

「さぁ皆、行くよ!光源の魔術を持つ魔術師は後方から砲撃系魔術師たちに座標をスポットして随時、支援砲撃を頼む。近接部隊は僕とマルスに続いて!危険を感じたらすぐにテントへ避難、防衛隊はこちらで待機、随時伝令を送る度に全体隊列を前進させてね。いくよ、時間との闘いだ」

 タタラの号令によって全体が動き出す。タタラとマルスが駆け出し始めると土属性を持つ魔術師たちが岩盤で橋を形成。橋を渡り始めたタタラに星龍シャオノーゲンが上空から真っすぐに向かってくる。

 タタラとマルスが飛び上がり、シャオノーゲンを押し返すと続く騎士たちが橋を渡り切り、リザードマンとの戦闘が始まる。

 タタラの予想通り、龍神族の下位種にあたる竜族のリザードマンは先天的に魔術のようなものを持つわけではない模様。

 魔力を持つ騎士ならば最初に学ぶとされる基礎的な術、魔法剣により魔力を纏い強化された武器で十分にリザードマンに傷を与えられている事も確認できた。

 押し返されたシャオノーゲンはタタラ、マルスと共に主戦場から少し離れた場所に移っていた。

「油断するなよマルス。こいつはあの時の龍神王並みだよ」

「えぇ。様子見など端から考えていません」

 シャオノーゲンは心の奥から関心を抱いた。

 龍神王が少し手を焼いた者たちに対して初めは気にも留めるはずもなかった。龍神王は戦いとなると遊ぶ癖がある。その油断をつかれたのだと思い込んだためだ。

「――――今までの考えを撤回しよう。君たちは”人間ごとき”にしては強いな。戦争の手前、挨拶をするのも可笑しな話なのだが…我が名は星龍シャオノーゲン。龍神王と並ぶ四賢龍神が一角。人間の身にはあまるほどの力に敬意を称し、君たちの名を聞いてもいいかい?」

 タタラとマルスは目を疑った。龍神族といえど、龍に変わりはない。儀礼など重んじるはずもないと決めつけていた。

 気を張り、いつシャオノーゲンが攻勢に移ってもいいように構えたまま二人は問いに答える。

「タタラ・ディエネ・ロアクリフ」

「マルス・セクバニア」

 シャオノーゲンは白い鱗を持つ龍神。されど、光ってみえるのは鱗だけが理由ではなかった。

 よく見ると人のような白く透き通った肌を持ち、龍神王と同じく人間に角が生えたかのような姿をしている。白金のように輝く、艶めかしささえも感じるロングウェーブの髪が特徴的だ。人の姿に近しいが瞳の色も髪色と同じのため、清浄無垢な雰囲気が漂っている。翼と尻尾は体の艶めかしさとは裏腹に、白金色であるにも関わらず刺々しいため凶暴さを象っているように見える。

「少しは話の分かる人間のようだね。私に見惚れて自我を失う様子もない。魔女による強化を受けていたとしても、その心は強く澄んでいるのもまたいい。気分もいいから少し話そうじゃないか。安心してくれ、騙し討ちをするほど私は弱くない。さぁ。君たちの考えと私の考え、お互いのすり合わせといこう」

 絶大な力を誇る四賢龍神 星龍シャオノーゲン。

その力は龍神王と同等とされるが、四賢龍神の中で唯一、知弁に理解のある龍神族であったのだ。

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