第9話:四賢龍神と龍神王

「――――以上にございます。龍神王様」

「ウロノーゲン。貴様…その情報は確かなのか?人間が我らが子たちを虐殺したと。先に仕掛けてきたのはあの人間だと。そう言うのだな」

 龍神王の問いかけに側近、ウロノーゲンは片膝をつき大きく頭を下げたまま言葉を口にしない。真実に他ならないためである。

 龍神王の玉座と同じ高さに佇むは龍神王の力にほど近いとされる四賢龍神。

 漆黒の鱗が洞窟の僅かな光に輝き、体と対極に光り輝くは黄金の眼、名を暗龍ヘルノーゲン。

 白く輝く鱗はヘルノーゲンとは裏腹に光属性を秘めている星龍シャオノーゲン。

 鱗と鱗の間には常に雷が奔り廻る、雷龍ヴォルノーゲン。

 3体の龍神と、龍神王はウロノーゲンが報告する同胞たちの死に顔を少ししかめる。

 この空間に、澄まし顔を解かない龍が1体。

「怒りを露わにしたところで人間たちなどとるにたりぬ。そうであろうよ、龍神王。慌てるまでもない。しかしいい機会だ。今すぐにこちらからも打って出て、人の世を終わらせるべきだ。律儀に人間との約束を守るから我が子たちが死ぬ事になった。であれば責任をとるべきだろう…。なぁ、龍神王」

 㶚龍はくりゅうセレノーゲン。紺色に鈍く輝く氷の翼を持つ四賢龍神が1体。

 セレノーゲンの言葉に、ひじを玉座にかけたまま顎に指をつけて長く唸る龍神王。

「普段は気に食わない奴だが、今回は私もセレノーゲンの言葉に同意だね。龍神王よ。三大神ともあろう君が手をこまねいている間に、我が子たちは数を減らしているはずだ。今こそ神に歯向かう者たちに君の威を示す時ではないかい?」

「龍神王、お前はどう言おうともう待ては聞かねぇよ?俺たちの仲間を殺して回った奴らを殺し尽くす他に道はねぇ。今偵察に来ている奴らの国以外もじきに攻めてくるかもしれねぇ…。だったら目の前の国だけでも滅ぼして俺たちに近づけさせないようにすればいい。であれば仲間たちも無事で済む。違うか?」

 ヴォルノーゲンもまた賛同し、更に横にいるヘルノーゲンへ目を向ける。

「…はぁ。迎え撃つのは無論の事だが、我らは我らでリザードマンという子どもたちを守る責務がある。お前にも一人娘がいるだろう…娘…いや、姫君を殺されてもよいのか?まさかそんな薄情な神ではあるまい」

 全員が迎撃と人間の地を侵略する事に同意し、最後は彼らが王の勅命を聞くのみ。

「姿が違うからと昔から忌み嫌われてきた。ドワーフやエルフたちはすんなりと受け入れた癖に人間共は我々龍を拒んだ。深い悲しみと、力を持たぬ竜たちへの卑劣な行為の数々。今や数えきれるものではない。そして今回の虐殺は我が気によるものだけではない。人間が根本から我らを畏怖し、煙たがっておる証拠である。共生の道は辿らず、恐怖の対象を排除すべく彼らは動き出した。なれば我らが子どもたち、リザードマンを含む全ての龍を守るが我が務め。この世界を焼き尽くし、その全てを我ら龍の手に。北上する人間共を殲滅せよ。我が同胞、四賢龍神たちよ!」

 言葉と同時に、四賢龍神たちは姿を消した。各地へ向かい、龍神族の同胞に王の号令を広く伝えに行ったのだ。

「ウロノーゲン、我が娘は絶対に修練の祠から外に出すでないぞ。まだ小さな身だ、この戦争は見せるものではない。貴様は娘を…シキを守り通すのだ。何があってもな。…あり得ぬ話だが…ここが少しでも危うくなれば”鬼の膝元”へゆけ。お前の強さは、シキを生かすためにある。よいな、絶対遵守せよ」

 飛び立つ龍神王に、ウロノーゲンは勢いよく頭を下げ、玉座の間の奥にある修練の祠へ足を運ばせていくのであった。

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