第8話:龍神王への畏怖

 新生セクバニア王国偵察部隊及びその護衛、計40名は二手に分かれて北の大地の偵察任務にあたっていた。目標は龍神王の住処の確定及び、龍族の非戦闘員を避けて龍神王の住処を強襲出来るルートを発見する事である。

 マガツ部隊は10名の少数精鋭。残り30名はメローナの指揮の元、散開して任務を継続していた。

 2週間に及ぶ調査の末、2部隊合わせて4つほど望ましいルートを確保。

 住処の確定には至らなかったものの、龍神王は一番巨大な山の山頂にいる事を概ね確認出来た。これに関しては龍神王の強大すぎる魔力によって感知がしやすかったという要因が大きい。

 セクバニア本土も度重なるクーデター紛いの暴徒事件にすぐさまに鎮圧作戦を決行。暴徒化した民もアスベニウス、ユクトワール、ギルバートの3名によって怪我一つなく無力化され、治癒院へ運び込まれた。

 その過程で”民の不安を少しでも取り除く”ため、公務が少ない日にはタタラ自身が街を散歩し、民たちに労いの言葉をかけるなどする緩和政策も執り行われていた。

 無論、タタラのみならず王国の最高戦力である王下騎士団の面々も任務の合間を縫っては民たちに声かけ運動を行った。

 それでもなお増え続ける国民の暴徒化はある時を境にピタリと止んだ。

 その時は誰もが歓喜を露わにし、龍神王への畏怖を忘れた事だろう。


 偵察部隊の稼働から一か月半を迎えたある日の事。

 急報がセクバニア全土を震撼させた。

 その急報はまず国王であるタタラの耳へ。

「…も、もう一回いいかな」

 もう一度聞き返すほどに信じられるわけがないのだ。

「今一度申し上げます。現在、第二偵察部隊メローナ様からの伝書によりますと、”30名の内、10名が突如類を見ないほどの凶悪に暴徒化。鎮圧はかれど抑えきれず、周辺にいた龍族非戦闘員200匹を虐殺。無力化も適わず暴徒10名をその場で制圧した”との…事です。残り20名は暴徒制圧後、北国周辺の隠し拠点にて身を潜めているので安心してほしいとも追記が」

 タタラを含め、その場にいる全員が唾を吞む。

 暴徒化が収まり胸をなでおろしたのもつかの間、その暴徒と化す龍神王の影響は偵察隊に牙を剝いていたのだ。

「タタラちゃん、事態は一刻を争うわ。起きた事を受け入れずにいたら何も出来ない。偵察に向かった魔術師さんや騎士さんたちも種族は違えど国民と同じヒトなのだから…龍神王を含める北の大地へ畏怖心を持っていてもなんらおかしくないわ」

 テテリがポリメロスの横から片手で顔を覆うタタラへ進言する。

 龍族が人間を滅ぼす理由は整ってしまった。この事実はいずれ北の大地の存在を知る国々に広まるだろう。そうすれば侵略してくるのは龍族に限らないかもしれない。

 それでも。このような多大なる重圧があってもタタラは次の作戦を指揮しなければならない。

「すぐさまにマガツの部隊に撤退命令を。予定を大幅変更するよ。セクバニアから3部隊に分けて進軍。時間がないから全て部隊任命式は省略、今すぐに隊長をこの場から任命する。西ルートには隊長ルミリア・ノーネッツ!副隊長にプロメタルとオーガンが後から就く。東ルートには隊長アステラーナ・ルトアンナ!副隊長にはハインツエム・ムローヌが現地合流!中央主力部隊は僕が直接指揮を執る。各部隊長にマルス・セクバニア、ポリメロス・ロンユース、モンバット・ヴァリエンス!アスベニウスは僕の直轄へ。ギルバートとユクトワールはルミリアの部隊に。龍族が侵攻してくる前に龍神王を倒し、アリアベールの無念を晴らす!いくよ!」

 タタラの号令はこの上なく真剣で、周りもそれに呼応するように即座に行動を起こし始める。

「ローゼン。ミレハを…この国をよろしく頼む」

「任せろ。この私が、セクバニアを守ってやろう。ただし、龍神王の攻勢にはさすがに耐えられない。龍神王は死ぬ気で止めてくれ」

「任せなさいローゼンちゃん。私の肉体魔術で止められない力はないわ。それに今回はアリアベールの弔いもあるからね…絶対倒してくれるわ。龍神王。そうよね、アステラーナ」

「当たり前でしょ…。お姉ちゃんが守った未来だもの…絶対に殺すわ。」

 こうして始まるセクバニア…いや、世界全土の人の存亡をかけた龍族との全面戦争。生き残るのは人か、龍か。

 この戦いはセクバニア騎士団国連合から生まれ変わった新生セクバニア王国において最も大きい戦争であり、歴史に名を残す大戦争となる

 後に人々は歴史書物にこう記す。

 ――――人と龍の総力戦、屠命龍虐戦争とめいりゅうぎゃくせんそうと。


 世界は動き出す、新たなる螺旋に移り変わるこの瞬間に。

 そしてこの戦争は新たなる火種となる事は誰も知る由はなかったのである。

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