第7話:偵察派遣

 新生セクバニア王都で起こった暴徒騒動から一夜明け、タタラは王下騎士団を招集。ローゼンからの推察と、偵察隊として出していたメローナ、マガツの意見を聞き、龍族への偵察に注力が必要であると確信を得る内容がまとめ上げられた。

「つまりは龍族の王。僕たちが惨敗したあの龍神王の仕業だと?」

「仕業というほど奴は何もしていない。いいか?三大神は動くだけで周りに影響を及ぼす。中でも龍神王の起こす影響というのは畏怖・恐怖などの負の感情のそしてその境地ともいえるのがだ。この現象を奴本人は認知していないし、私くらいしか知らない情報だ。無論、もう手は打ってある。セクバニア中にやつの纏う空気を遮断する防壁を貼った。無論龍神王くらいにしか破壊出来ないものだから強度は安心しろ。これでようやく部隊を編成出来るといったところだろう。タタラ」

 タタラは皆の前で立ち上がる。

「いよいよだよ。この発見は僕たちの悲願を大きく動かす起点となった。すぐさまにマガツを隊長に第一偵察は少人数で山へ向かってもらう。第二偵察隊はメローナが指揮、偵察系魔術を持つ者たちを中心に護衛として戦闘系魔術師・聖騎士を随伴させる。龍族全てが仇じゃない。あくまで僕たちの目標は龍神王。亡きアリアベールが残してくれたこの猶予を無駄にせず…龍神王をこの手で倒す!偵察隊は龍族の動向を探り随時こちらへ知らせを送る事。龍族も生き物だ。なるべく傷つけないでいいルートを探し、それを元に本作戦を決行する。他の者はいつでも出撃できるように準備を怠らないように。王下騎士団はそれぞれ隊長として各隊2000人を指揮してもらう。いいね。西部を守っているプロメタルとオーガンにも本作戦を指示、代わりに彼らと同等の戦力をこちらから増強する。皆!どうか力を貸してくれ。全てはこれからも続く平穏なセクバニアのために!」

 タタラの号令に全員が片膝をつき頭を下げる。

 暴徒の原因を探っていた3名は分かれてそれぞれの隊へつく事となった。

 ほどなくして解散し、王城から離れた人の気のない場所へユクトワールはいた。

「はぁ?!貴様…王妃と王女を連れていくなどできません。タタラ様からも強く言われています。第一、私の部隊長はルミリア様です。勝手な行動は部隊の士気を落とします」

 ローゼンに呼ばれた彼女は着くなり押し付けられる無理難題に怒号を飛ばしていた。事前にタタラから釘を刺された事もあり、ユクトワールは素直に首を縦に振る事はなかった。

「それがごめんなさいね。その隊長も承諾済みよ。」

「はぁぁ?!なんでルミリア隊長がここに…」

「幻術の更なる高みへ目指す修行を担保に、お前の隊長を買ったというわけだ」

 ユクトワールには理由が理解出来なかった。隊長であるノーネッツ卿もローゼンには嫌悪感を抱いていたはずなのにどうして、と。

「今の力のままじゃ守れないのよ。ソロモンとの戦いで思い知ったわ。あの魔神たちと同格の敵が龍族の中にもいるかもしれない。だから魔女として嫌悪を抱いていても私の魔術の師はこの人にしか頼めない。あなたがどう思っても私は皆を守りたいの。それに…魔女ローゼンが率いる部隊って負けるわけないじゃない。無論、部隊全員生還という条件もつけてあるわ。」

「騎士の1人、魔術師の1人もまた私の家族のようなものと思っている。全員生還は当たり前の条件だろう。だから副隊長殿の承認も得ておかねばなと思った次第だ。勝手な行動は部隊の士気を落とすからな?」

 ルミリアの意見ももっともで戦力としてはこの魔女以上の魔術師はいないだろう。しかし過去の出来事を許せないままの自分との間で彼女には酷い葛藤が生まれている。その感情を思うままに拳を握りしめる事で口にするのを留める。

「貴殿に施した術は私がした過ちの一つだ。全ては私のわがままによってしてしまった事だ。一生恨んでくれて構わない。されど、この国を、アルスレッドを守りたいという気持ちは今は私も同じだ。この戦いだけでいい。私に力を貸してはくれないか。デイドリック卿」

「タタラ様が溺愛している王女に何かあったらお前を八つ裂きにして火刑に処すからな…お前への憎悪は暫し龍神王への報復の力と代えよう…」

 ユクトワールはローゼンを許してはいない。されど、此度の相手は龍神王。

 セクバニアの存亡をかけた戦い。連なるところ、その後ろにあるアルスレッド王国を守る戦いでもある。その戦いに一個人の私怨は途端に不協和音となりうる。ユクトワールも歴戦を潜り抜けてきた聖騎士の一人、その程度の事は理解出来ている。

 ローゼンを見つめて決意する。彼女のためではなく、自分の憧れるタタラのために力を振るうと。度々見てしまった彼の悲しむ姿をもう見たくないのだ。

「では決まりだ。偵察隊が戻るのは1週間、ノーネッツ卿、お前をこの7日で最強の幻術士にしてやろう。覚悟しておけ、戦いの前に死んでくれるなよ?」

「上等よ。仲間のためならやってやるわ」

ルミリアもまた強い意志でローゼンを見つめ、ローゼンの用意する結界内の修練場へと移動するのだった。

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