第4話:聞き込み

 セクバニア全土における暴動の数は他国と比べて極端に少ない。数にして1年を通して2~3件ほど。他国はその倍から数十倍といえる。

 アルスレッド王国とセクバニアを除く二国、ムシガ公国とキリエル大司教国は目に見える圧政によって、貧富の差があまりに大きいため暴動が起きやすい。内政改革なども行ったとされるがその実、貧困層の待遇はほぼ変化がない。

 それに対してセクバニアは度重なる国民の代表を交えた民議会みんぎかいによって国民の要望に応えている。国民の満足度はかなり高い国といえる。

 つい先日民議会が行われた際にも不満は1件とソロモンの反乱以降で最低件数となっていた。

 にも関わらず、暴動が各地で起こっている。

 そんな中ユクトワール、ギルバート、アスベニウスの3名は早速セクバニアの中心街で聞き込み調査を行っていた。

「なるほど…それで友人さんが突然暴れ出したと…。他に何か予兆のようなものはありませんでしたか?例えば…イライラしやすかったとか」

「いやいやそんな…むしろ普段は気の小さいやつで心配性なくらいですよ。怒りの感情を誰かにぶつけた事ないんじゃないかな…」

 と一人一人聞き込みを行っているギルバートの先にはアスベニウスがあたりの住人たちを集めていた。

「この中にご家族、ご友人が急に暴れ出した事がある方はいらっしゃいませんか?いましたらどうか我らの調査にご協力いただきたい。その問題、このアスベニウス・クロロマリウスが力になります」

 セクバニアに来て住人の認知を急に上げたアスベニウスだからこそ出来るやり方にギルバートは関心の目を向けながらも聞き込みを続ける。

「あの…ちょっとよろしいか。旅の者なんだが…最近この国で暴動が起きているという噂を聞いたのでちょっと不安で…何か知っていたら教えていただけないか?」

 ユクトワールは認知が全くない事を利用し、鎧を着ない旅人のような状態で民たちに質問を投げかけていた。ふと横目でユクトワールを見たギルバートとアスベニウスはふとある事に気がつく。この辺りの聞き込みを終えると共に足早でその場を立ち去り、合流地点である酒場の裏手に集まる。

「女だったのかお前」「女性だったんですか?!」

 この集合場所に車で二人は聞き込みの成果よりもその真相を確かめる事に重点をおいていたようだった。

 ユクトワールはジトっとした目を向けて大きくため息をつく。

「そんな事はどうでもいい。聞き込みの結果は?」

 ユクトワールは二人の疑問をバッサリと切り伏せると本題へ入る。

「あ、あぁ…俺のほうは顔見知りも多いから大衆から聞き込みを行った。暴動を起こした人物たちは皆突然怒りっぽくなったり、好戦的になったりしたそうだ。加えてあちこちを旅している探検家にも話を聞いたがボスらしき扇動者はいないらしい」

「こちらも扇動者がいない、という話は聞きました。そして暴動を起こした人に共通点があるのではないかと思い、そちらも聞き込みをしてみましたが共通点の予想としましては小心者の方、不安がりや心配性の方が挙げられるかと。むしろ元々気の強い方で暴動に参加している方は今のところ見ていないそうです」

 アスベニウス、ギルバートの順番で聞き込みの結果を話し、ユクトワールは自身の聞き込みの結果と照らし合わせている。

「外部の人間に扮してみたが私も二人と似たような話ばかりだった。そもそもこの暴動がいつ、なぜ起こったのかは定かではないからな。それだけでは龍の咆哮の影響があるかどうかも分からない。積もり積もった不安が爆発して暴動が起こった可能性だって十分にある。次の場所ではいつ・なぜ起こったのかという事を重点的に聞いてみよう。だがしかし…お前たちは次に行く準備がなされていないようだ」

 ユクトワールがそういうと二人は首を大きく傾げる。

「もう夜も近い。元々それぞれ道の違う仲だからな…この酒場でちょっと話そうじゃないか。もちろん私の事も話そう。お前たちの視線が時折顔から下がるのを感じるからな…」

 真面目なユクトワールだからこその提案かもしれない。任務でのチームアップといえど、この先いつ起こるか分からない龍族との戦いで背中を預ける事になるのかもしれないのだから。

「あっいやその…面目ありません」

 一番女性耐性のないギルバートは顔を真っ赤にしてユクトワールから顔を背ける。

「いやすまんな。無意識に向いていたらしい」

 アスベニウスもまた頬を指先でかくと目線をそらす。

「ねぇねぇ何してるの~?」

「おいユクトワール、そんな声も出せるの…か…?」

 ユクトワールの後ろにいたのはまるで町娘のような恰好をしたミレハだった。

「ミレハ王女?!なぜこのようなところに…それにそのお召し物は一体…」

「ん?一体って…今日はお仕事の日だから…」

 カシャンと音を立てて置かれた木箱の中には大量の空き瓶が入っていて、ミレハが酒場の裏口から出てきたのを見ればどこで働いているかは明白だった。

「王女!?いけませんよ?!酒場で働くのは公務でもなんでもありません!王国の騎士として御身をこの場にいさせるわけにはいきません!」

「え?ギルバートさん何を言ってるの…?これ…だよ?」

 三人はミレハの言葉に目が点にならざるを得なかった。



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