第3話:チームアップ

 ユクトワールとその配下3000人が新生セクバニア王国の戦力へと加わり、およそ一カ月が経った日の事。

 ユクトワールとアスベニウスが王城へ招集された。そこではプロメタルとハインツエムを除いてセクバニア王下騎士団が集まっているのを二人が目にするとその錚々たるメンバーに感激すると同時に重苦しい緊迫感で押しつぶされそうになった。

「王下騎士団所属アスベニウス・クロロマリウス、アルスレッド派遣兵団団長ユクトワール・デイドリック、王の招集に応じ参上致しました」

 アスベニウスが二人分の挨拶をタタラへとすると王下騎士団の面々の中でも反応が分かれた。真面目な態度に頷く者、堅苦しさにそっぽを向いては肩を震わせる者。

「あ、ベニーそういう堅ッ苦しいの面倒だからいいよ」

「は!?お前は形式というのを知らんのか!そんなんだからお前は王っぽくねぇんだよ!もっとシャキッとしろ!へらへらするな!おい笑いすぎだろ!王下騎士団の皆さんも王に少しは厳しくしてください!」

 自分の挨拶にヘラヘラしながら意見するタタラにアスベニウスが素が出る速度はコンマ1秒にも満たなかった。それが更なる着火剤となったのだろう、タタラは腹を抱えて笑い出し、肩を震わせていた王下騎士団の面々は表立って笑うようになった。

「全くです。タタラ王、いい加減そのラフさはご勘弁願いたいものです。笑っている王下騎士団の皆さんも同じくです。同じ位にいる人間として情けなさを感じます。あのルトアンナ卿でさえ笑っていないというのに!!」

 アスベニウスの意見に共感し、真っ先に声をあげたのはセクバニア全土から軍神と崇められるほどの軍師としての才を持ち合わせているマルス・セクバニアだ。

「ちょっと待って?”あの”って何、あのって。私本人いる前で心外なのですがセクバニア卿?喧嘩売ってるならこの場で買いますが…よろしくて?」

「二人ともあたしたちに憧れているベニーちゃんとユクちゃんの前で喧嘩はよしなさい。あたしのように美しく気品あふれる振る舞いを―――」

「モンバットさんは黙っていてください」「うるさいわね筋肉バカ」

 制止にかかったモンバットもさすがに冷淡な言い返しと素直な暴言を吐かれ二人に向かって拳を放つ。

 3人の間に入った陰によって拳はいなされ、その場は沈黙と化した。

「無礼をお許しください。モンバット様、ルトアンナ卿、セクバニア卿。ここでお三方が争われれば王城のほうが持ちません。そこで働いている方々にも被害が及びます…。私の小さな命で代えになるかは分かりませんが、どうか私の非礼にだけ怒りの矛先を向けていただくようお願い申し上げます…どうか…」

 間に入った男の名はギルバート・メトリアス。1年前、アステラーナの下で近衛兵をしていた騎士である。

「全く…あたしも本気で殴ろうとしたわけじゃないわ。それでも受け流しきったあなたの技量に敬意を称してこの辺にしておくわね。タタラちゃんにも怒られそうだし」

「いつでも受け返す準備はあったのですが…ルトアンナ卿に鍛えられたメトリアス卿に制止を促されては返す言葉がありませんね。私のほうこそ、ルトアンナ卿への非礼はお詫びします」

「ギルバート…せっかくいいところだったのに邪魔するなんて…本当律儀よ。律儀すぎて…もうほとぼりは冷めた…いやそもそもほとぼりなんてなかったのだけど…もう下がっていいわ」

 ギルバートはアステラーナに言われると頭を大きく下げ、王城執務室の入り口に移動した。

「お~…なかなかやるね。彼。さすがはアステラーナの近衛をやっていただけある。さて、歳も経歴の下の人間に諭されて3人も自分たちの未熟さを糧に…って僕が言えた義理もないね。さて―――」

 突如、タタラの纏う雰囲気が変わった。

 先ほどまでタタラの緩い雰囲気を発端に言い争っていた3人もタタラの変貌に薄ら微笑みを浮かべながら片膝をつく。

 その光景を初めてみるユクトワールとアスベニウスは呆気に取られていた。

「ひとまず王国内で暴動が起きているという情報をメローナたちから受けている。その原因について現在調査中ではある。けど、隠密部隊だけでは聞き及べる事に限界があるため、この国の民たちに慣れ親しんでいるギルバート、セクバニアの中にあって、この国の外の目にもなりえるアスベニウス、そして完全に国外の目としてユクトワール。3人をチームアップし、国民たちの暴動の原因を探ってほしい。暴動はちらほらとあるけれど、発生後に鎮圧した事件だけで15件。例年からいうとあまりに多い。例の咆哮に関連づけられなくもないから油断はしないように。何か少しでも異変を見つけたり、感じたりしたらすぐ王下騎士団の誰かか、僕に報告してくれ。よろしく頼むよ」

 実際は何が原因かはハッキリと分かっていない。多方面で考えられる原因を模索していくしかないとタタラと王下騎士団は考えている。自分たちのような古くからセクバニアを知るからこそ深まった知識による先入観ではなく、若い世代かつ外部からの意見こそがこの原因究明の活路を見出すのではないかと。

「僕とメローナ以外の王下騎士団は北の龍族の警戒を解く事が出来ない。龍族との火蓋がいつ切って落とされてもいいようにしておく。だから頼んだよ。3人とも」

 タタラに命を受けた3人は片膝をつき深く頭を下げる。

「イエス・マイロード」

 セクバニアの暴動を早急に解決すべく、3名の若者が足早に駆けてゆくと共にタタラたちは北の山脈側へと顔を向けるのだった。

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