第7話 もう……

 これまで春男と過ごしてきた日々を思い返してみる。ラインの文面を読み返し、私の存在は、ただ都合のいい女だった事も、春男にとって、私はただの財布でしかなかった事も、頭の片隅では分かっていた。それを受け止める事は出来なかったけど……。


 温泉から家に戻ると、いつも通りの喧嘩が始まった。今回は私が原因ではなく、亜美だった。

 お風呂に入ってサッパリしてるはずなのに、亜美の病気が出たのだろう。


「もーいい!もーいーよ!!」


 亜美は突然、そう言ってトイレに籠もった。

 この家に一つしかないトイレに籠もられるのも迷惑でしかない。

 春男と話していて、突然そうなったのだ。

 亜美の心も、こんな環境の中で壊れているのだろう。


「そんな風にトイレに籠もるような事をするなら、この家から出て行けば?!」


 暴れたくなる気持ちは私にもわかる。だけど、暴れるくらいなら、この家から出て行け!そう言いたい気持ちなのを堪えていたのに、もう私の我慢も限界だった……。


「亜美は家族だろ?なのに、何でそんな事を言うんだ?!お前は……」


 そう言って、突然、春男が私に殴りかかってきた。避ける間もなかった。


ーーこれで終わり。


 私の中の何かが急に冷めた……。もうこの男とは終わり。


 私の方がおかしくなりそうだ。

 ただでなくても、眠れなくて睡眠薬をもらって飲んでるくらいなのに……。


 こんな家、もう疲れた……。

 やっぱり春男とはもう別れるべきなのかな?!私はそう思っている。

 こんな男と、こんなワガママ娘の為に、私が働く意味はない。


 その夜、私は最後の手紙を残すために書いていた。私の名義であるこの家を解約すること。私にはもう関わらないでほしい、二人でくらせば……?と。


 もう戻ることはない。 

 私はそう覚悟を決めて、実家に帰った。


 その翌日、私は家を解約する旨を、大家さんに伝えた。


「今二人、その家に残ってるので、そのどちらかに契約させて下さい」


 そして私は、実家に戻りこれまでの地獄の様な日々を母に聞いてもらい、お正月以来の涙を流した。


「もう無理……春男とは別れる……」


「その方がいい」


 母も私の答えに賛成してくれた。 

 ケータイに残っている電話番号も、すべて消去した。

 私はもう戻らない……。



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