第5話 金貸して!

 私の家には居候がいる。

 まだ高校生で、保護者が逮捕されている亜美というハタから見れば可哀想な子だ。

 私が関わっていなければ、純粋にそう思えただろう。だけどこんな状況じゃそんな風にも思えない。


「行ってきまーす」


 私は仕事に行くために、家を出ようとしたその時、奥の部屋から春男の声が聞こえてきた。


「なぁ、亜美ーー俺、これから遊びに行くからさ。金貸してくんない?!」


 ーーはぁ?

 ーー相手はまだ未成年の高校生にたかる?!

 ーーウソでしょ?!


 私は耳を疑った。

 それじゃ助けたんじゃなくて、これまで亜美の事を考え、親はお金を貯めてきたはずだ。

 その金を利用する為に連れてきただけじゃん。ぜんぜん、守れてない……。

 ただ、ムダにこんなもめ事作ってさぁ……。


 私は家を出た。もうギリギリだ。会社に間に合わない……。

 亜美もイヤならイヤだと答えるだろう。それに私は今他人事ではないのだ。自分の気持ちを守らなくては……。


 ーー随分と長い時間が流れた様な気がする。関係のない女とも、それとストレスになるだけの男ーーもう知らない。

 随分と我慢を強いられてきた。それなのに、私の心はまだ迷っている。


 春男との別れが決められない。

 どうやら、私の方が春男に惚れているらしい。これまでの私は、アッサリとした生き方をしてきた。別れる事になれば、すぐに次を探せた。

 今思うとそれはつまり、本気じゃなかったーーそう言う事なんだろう。

 これまでの男と違って、春男の場合は離れられないーー人を好きになる事が、こんなに苦しい事だったなんて……。


 亜美は群馬の方の調理学校に行っている為、私と春男の住む家から、元々、亜美が済んでいた家に戻っていった。


「サヨウナラ」


 亜美が手を振って帰って行く。


「今までごめんね」


 最後だからという思いで、私は納得いかない事を飲み込んで、そう言った。

 その笑顔の裏側で、亜美に舌ベロを出している。


ーーもー二度と帰ってくんじゃねーぞ!!


 私は本心でそう思っていた。

 この家にもう二度と帰ってくるな、と……その気持ちにウソはなかった。


 それから1週間後、仕事が終わって私が帰ってくると、何もなかったかのように、亜美が迎え入れた。


「おかえりなさい」


 私は一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに言った。


「亜美……何でお前がいんだよ?!」


「春男さんにまた呼ばれて……」


「何だよ?!それ……聞いてねーよ!!」


 また私の知らないとこで、春男が勝手に話を進めていた事を知り、無性に腹が立った。


「ーーで……春男は?!」


「寝てます」


「わかった……」

 

 春男が眠っている寝室のドアを、私は勢いよく開けた。


「おい、てめー!!起きろよ!何勝手な事をしてやがるんだ?ーーちゃんと説明しろよ!」


 女であるとは信じがたいほどの、言葉を連ねて私は春男を叩き起こした。


「なんだよ?!うるせーな」


 春男が不機嫌そうに、体を起こし座った。







 


 


 

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