第17話 雅美の誕生日2
「……」
「えっ、めっちゃ似合う! え、可愛すぎる。私、天才かもしれない」
「う、うるさいわね。私なんだから、似合うなんて当然だわ」
晩御飯を食べた。家族も一緒にわいわい食べた。久しぶりの雅美のお泊りに、美野里の家族も楽しんでいた。何やら母親だけはちょっと意味ありげな顔をしていたけれど、それは大した問題ではない。
そして順番にお風呂にはいり、後に出てきた雅美はおずおずと、美野里が先ほどプレゼントしたウサ耳もこもこパジャマを着て姿を現した。めちゃくちゃ可愛い。
可愛い。とても可愛い。似合っている。こんなに似合っていていいのか。短いワンピースタイプで生足がかなり見えているのもポイントが高い。
そしてもちろんすっぴんだ。きりっとした美人度が減り、ほんわか可愛さがまして今の服装とよく合っている。
「まじで、可愛い。ていうか、久しぶりにすっぴん見たけど、いやー、すっぴんもデラ別嬪じゃーん」
「なんなのよそのテンションは」
夕食前に撤去したぬいぐるみのいないベッドに、雅美は呆れたようにしながら腰かける。雅美がお泊りするため、一応布団は持ってきているし、ミニテーブルをどけて普通に敷いて入る。だけどまあ、別れるのはまだあとでいい。
見た瞬間テンションあがったものの、普通に隣に座られて、いい匂いするし、温度もふわっと感じられて、美野里はドギマギして今度は別の意味でテンションがあがってしまい頬を掻いた。
「あー、まあ、なんていうか……ちょっと、テンションあがっちゃったけど。でもほんと、似合ってるよ」
「……ん。ありがとう。愛用するわ。着心地もいいし」
「でしょ。えへへ。飾り付けはちょっと滑ったかもだけど、基本的にお誕生日会は成功ってことでいい? 何点?」
「……まだ、点数なんてつけられないに決まってるでしょ」
「んーと……あの、メインがまだだから、とか?」
ぺし、と太ももを叩かれた。いやまあ、今のはちょっと無粋だった気がしないでもないけれど、だけど美野里だって照れくさいのだ。普段散々恥ずかしがってキレて誤魔化すくせに、美野里がおちゃらけると物理攻撃になるのはずるい。
でも何がいちばんずるいって、そうやって理不尽に睨み付けてくる照れ顔がめちゃくちゃ可愛くて、魅力的でたまらないことだ。
「雅美、誕生日おめでとう。これでまた同い年だね」
「ちょっと誕生日が早いくらいでお姉さんぶるのはやめなさい」
「はいはい。目、閉じてくれる?」
「……今のは、80点をあげてもいいわ」
夕食前にキスの始め方で文句を言われたので、ちょっとだけ遠回しに誘ってみたところ、高評価をいただけた。でもそもそもその答えが上から目線だし、雅美こそもう少し素直に雰囲気に乗ってくれてもいいと思うのだけど。
という不満は、目を閉じた雅美の美しさに免じて不問にすることして、美野里はそっと雅美の頬に触れて角度を調整して、右手で雅美の手を握って唇を触れさせた。
ぐっと唇を押し付ける力を強くすると、かすかに唇が開いて隙間からお互いの吐息がもれる。熱い呼気にどんどん胸が熱くなる。しっとりした雅美の手をそっと撫でながら、絡める様に指をひとつずついれていって、恋人つなぎにしてみる。
「んっ」
その状態で強く握ると、深く繋がれているような気持ちになってくる。こんなに人を好きになるんだ、と思うと自分のこの気持ちすらおかしな気になる。
顔を一度離す。雅美と見つめ合う。されるままだった手を握り返してくれて、雅美は空いている手でそっと美野里の寝間着の裾をひいた。
その子供みたいな挙動に、いつも自信満々で強気なギャップと相まって、可愛さで胸が苦しくなる。
その苦しみから逃れるように雅美に抱き着いた。繋いだままの右手も雅美の後ろに回して、ベッドに押し倒すようにして乗りあがったぎゅっと抱きしめる。
ドキドキドキ、お互いの心音がぶつかり合って反響するようだ。胸もお腹もぶつかり、雅美の足を挟むように乗っかっているので、密着度がすごい。顔はぶつからないよう避けているけど、その分耳元に顔をうずめるような状態で、雅美の匂いを直に感じられた。
「お……重いわよ」
「あぁ、ごめん。なんか、でも重なってるのも気持ちよくない?」
「……ずっと、こうしてるつもり?」
「ん」
それもいいような気がした。こうして真正面から抱き合うと、エッチな気分もあるけれどそれ以上にお互いを心から許し合っているような心地よさもあって、とても気持ちがよかった。
だけど今日はそれがメインではない。抱擁の心地よさはまたいつでも感じられる。今日という、雅美の誕生日という特別な日じゃないとなかなか一歩踏み出せない関係を、もう少し進めたいのだ。
ゆっくりと手をだす。二人分の体重でつぶれていた繋いでた右手は少ししびれていて、腰の後ろに回していた腕は抜いた流れで少し服をひっぱってしまった。
そしてベッドに手をついて体を持ち上げる。すぐ下に、数時間前の巻き戻しのように雅美がいる。
その表情を見ると、心の奥から何かが湧き上がってくる。雅美をじろじろと観察する。雅美は肩も華奢で、上から見ても女性らしい。
こうして見ると、どうして今まで恋愛対象として意識しなかったのか不思議なくらい、めちゃくちゃ魅力的だ。ドギマギしてしまう。
「雅美、好きだよ。生まれてきてくれてありがとう」
「……それはさすがに、大げさでしょう」
大げさなものか。恋を自覚する前だって、美野里の日常に雅美は必要不可欠だった。雅美がいない生活なんて、考えたこともない。
でもさすがに、生まれてきてくれたことを感謝したりはしてなかった。だって隣にいてくれることが当たり前だったから。
でもそうじゃないと今は思う。恋愛感情を持って、特別な存在だと改めて思ったからこそ、今までのことも全部特別なことだったなと思えた。当たり前みたいに傍にいた幼馴染の関係だって、凄く特別で大切なものだったんだ。
「ううん、本気で言ったよ。雅美が生まれてくれて、私と出会ってくれて、恋人になってくれて、ありがとう」
「っ……うぅ……わ、私だって、同じ気持ちよっ」
心からの気持ちを伝えたところ、今までと違う意味で真っ赤になった雅美は目をぐるぐるさせながら怒鳴るように言い返してきた。普通にキレてて笑ってしまう。
「はは、めっちゃキレるじゃん」
「キレてないわよっ。もう、よく真顔でそんなこと言えるわね」
「本心なんだからいいでしょ」
雅美の反応にはもう慣れたし普通に可愛がれるけど、なんでキレちゃうのかはわからない。確かに恥ずかしいけど、照れ隠しにしてもちゃかすとかならともかく、別に怒ることはないだろう。独特の照れ隠しに笑ってしまう。
「でも、そんな素直じゃない雅美のことも好きだよ」
軽く鼻の頭にキスをして、次に目元にキスをする。そうすると自然と雅美も目を閉じたので、そのままの勢いで声をかけずに唇にキスをして自分も目を閉じた。
「んっ」
押し付けてその柔らかさを感じながら、繋いでいる手は顔の横でベッドに押し付け、左手で体重を支えて今度は雅美に重いと言わせないようにしつつ、ゆっくりと唇の隙間から舌をだした。
触れたその唇の柔らかさと、雅美からもれたその吐息に興奮がさらに高まり力が入ってしまう。
「んんっ」
興奮に背中を押されるようにして、雅美の唇を割りいって中に入る。
むっとするほど熱い中。固い前歯がつるつるしている。下から撫でるとつられるように上に開いた。
「んぅ」
じゅっ、と音がしたかと思うほど、舌同士がぶつかった衝撃は激しくて、その快楽で目を閉じていて何も見えないはずの視界がちかちかした。
「んっ、んっ」
ぐちゅと唾が派手な音をたてて唇の端からもれているのが、いかにもないやらしい雰囲気をつくっていて、頭がどうにかなりそうなくらい気持ちいいのをさらに盛り立てる。
「ぁっ」
ぐりぐりとお互い舌を押し付け合うようにして、いつのまにか美野里の左手は雅美の肩をつかみ、雅美の右手は美野里の腰に回されてまた上にのりかかるようにして体を密着させていた。
気持ちよくて、もっと気持ちよくなりたくて、お互い痛いくらい指先に力を込め合いながら抱き合い、むさぼるように舌をあわせた。
「んんっ、はっ、はぁっ。はぁ」
永遠にそうしていたい気がしたが、さすがにそう言う訳にはいかない。激しく鼻呼吸をしていても夢中になりすぎて酸素がたりず、くらくらしながら唇を離すと本能が勝手に大きく呼吸をしだす。
「ま、雅美……めっちゃ好き。はー、好き」
「ふー、はぁ。あのねぇ。今、そんなの言わなくたって、伝わってるわよ」
鼻先が触れ合いながら目をあけて、蕩けたような表情で、輝く瞳を見せる雅美に思いがあふれて伝えると、雅美は他の誰にも見せられないくらい美野里に惚れてる顔をしているくせに、またそんな生意気で素直じゃないことを言う。
おかしくって、ちょっと笑ってしまう。
「ふはっ、ったく。それでも言いたくなるくらい、好きってこと」
「なによぉ。……もう、私だって、好きなんだから」
拗ねたように眉を寄せる雅美に、美野里はたまらなく愛おしくてもう一度キスをした。
そうしてぐちゃぐちゃになるくらいキスをして、舌がつかれてようやくやめた。
途中雅美を抱えたり、お互い上になったり下になったりしながらキスをしていたので服装もシーツも乱れに乱れてしまった。
お互いにがっつきすぎたのが恥ずかしくて、二人でベッドに転がって天井を見てしばし休憩する。
「……あのさ」
「なによ……」
「今日、何点だった?」
「馬鹿。だから、いちいち言わそうとしないで」
ちらっとだけ視線が向けられたのを感じ、それでも天井をみあげたまま美野里は繋いだままの手汗でぬれている手を軽く引く。
「いいじゃん。いちいち聞きたいの。恋人になって最初の雅美の誕生日、百点にしたいじゃん」
「百点なわけないでしょ」
「えー、やっぱりぬいぐるみいた方がよかった?」
この流れなら普通に百点満点と満足してもらえると思ったのに、普通に否定されてしまった。思わず顔を雅美に向けると、雅美はじとーっとした目を向けていた。
「……馬鹿。減点するわよ。百点じゃなくて……ひゃ、百二十点、に、決まってるでしょっ」
「雅美ぃ、もー、ほんと可愛いなぁ!」
自分で言いながら恥ずかしくなってしまって、言いよどみつつ最後キレ気味になっているのが可愛すぎて、もう一度抱き着いて雅美をよしよしと撫でた。
「ね、抱きしめ合って寝ようよ」
「……別に、美野里がそうしたいならいいわよ」
「したーい」
という訳で、ちょっと火照りすぎた体を冷やすために順番にトイレにいったりして寝支度を整えてから、再度ベッドに入る。
「おいでー」
「……」
掛布団をひろげて誘うと雅美は無言ではいってきた。またさっきので照れているらしい。可愛い。
「はい、ぎゅー」
抱きしめると、さっきまで混ざり合ってたのが嘘みたいないいにおいがして、またドキドキしてきてしまう。
「雅美、柔らかくてほんと、くっついてるだけで気持ちいい体してるよね」
「うるさいわね。……美野里だって、おんなじよ」
「そ、そっか」
お互いの心臓がうるさい。真正面から見つめ合っているので、やっぱり照れてしまう。
「ん」
舌はださずに優しくキスをする。雅美は突然のキスにちょっとだけ驚いて、それからむっとして、無言でやり返してきた。
「ん、ん」
小鳥のような可愛らしいキスに、もう一度したくなるのを耐えて、ぎゅっと顔が見えないくらい抱きしめる。どくどくとお互いの心臓の音が聞こえる。
「……んふー……んふふ。寝よっか」
「……おやすみ」
「おやすみ」
うるさいほどの心臓すら楽しんでそのまま抱擁していると、少しずつゆっくりになって、疲れも相まって心地よく眠りについた。
こうして恋人になって最初の雅美の誕生日は、満点越えの大成功だった。
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