第7話 初デート!

 今度こそデート。間違いなくデート。しかもあの普段よりましましの美少女仕様。と言う訳で昨日が5分前ですでにいたので、待ちきれないのもあって15分前に到着した。

 さすがにまだ雅美もいなかったし、早く来ないよう言ったので15分の猶予があるはずだ。少し気持ちを落ち着けようと、美野里は周りを見渡す。


 時計台は待ち合わせ用シンボルとしてつくられたのだけど、実際目を引くし周りに軽く腰掛けられる手すりみたいなのがあるので、同じようにたくさん人がいる。


 本日は昨日購入した花柄のフレアスカート裾にフリル付き、そして上は手持ちの中でも比較的小綺麗でお気に入りのブルゾンと言う甘辛コーデである。

 店で買った時は揚々としていたが、いざ自宅で身につけるとガーリーナ雰囲気がちょっと恥ずかしくて、家族に見られないように家を出てしまった。今も少々落ち着かない。


 だけど周りを見渡せば、美野里よりもっと少女らしい服装はやまほどある。と言うか意識していなかったけど、昨日雅美に選んだよりももっとふわふわした如何にもロリータ系っぽい服装も普通に見かける。これなら雅美が服装で目立つことはないと自信を持って言えるだろう。まあ顔で台無しだが。

 昨日はテンションが上がってしまって、普段見ない可愛い戸惑いがちな雅美にときめいてしまったが、今日はもう二回目なのだし、そこまでではないだろう。初見殺し破れたり。もちろん可愛いだろうけど、昨日ほど我を忘れることはないはずだ。


 雅美と気持ちをそろえないといけないのだから、落ち着いていこう。と言うか、肝心のデートの内容はほぼ決めていない。昨日でお金もつかったので、デート気分でぶらぶらしよう。くらいだ。

 なんというか、形ばかりそろえて肝心の中身がスカスカな感はあるが仕方ない。


「お待たせしたわね」

「あ、雅美。おは、よ……」


 デート、結局どこ行くかもあいまなんだよなぁ。どうしよっかなぁ。とぼんやり考えていると、結果が出る前に雅美がやってきた。はっと振り向いて片手をあげながら、挨拶の言葉がとまってしまう。

 いや、可愛すぎる!! これは異常! 二回目なのに、昨日よりさらに可愛いのは何故!? と一瞬思ったがすぐに気が付いた。昨日は着替えやすいようポニテだったのだけど、今日は服に合わせて少し巻いてお嬢様っぽい髪形にしていて、化粧の雰囲気も変えていて、より服の可愛さを引き出し相乗効果でめちゃくちゃ可愛くなっていた。


「おはよう。待たせちゃったかしら」

「いや、全然。むしろ、だから早いって。遅く来いって言ったじゃん」


 いつも通りのにこやかさで挨拶されて、はっとして慌てて時計を見てから取り繕うように文句を言う。まだ約束5分前だ。


「なによ。あなただって昨日五分前だったから合わせたのに。と言うか、自分はもっと早く来るってどういうことなの?」

「いやだから、雅美は顔がいいからだっつの。もう、こういうのめんどいから家で合流が手っ取り早いのに」


 雅美は一方的に怒られたことにむっとしているが、いやー、そんな顔もその服だと可愛い。美野里はドキドキしてしまう心臓を抑えつつ、なんとか立ち上がる。


「なによ。文句が多いわね。ちゃんとあなたのご指名の服を着てきたのに、何もないわけ?」

「ん。あー、可愛い。すっごい可愛いよ。髪型変えたのもめっちゃマッチしてて最高じゃん。素敵―」


 嘘を言うのもよくないけど、だからって真面目に言うのはさすがに恥ずかしくて、つい目をそらしながら言ってしまう。

 だけどそれを察しているはずなのに、雅美はぐっと上体を曲げて顔を覗き込んでくる。悪戯っぽい、でもいつもよりどこかはにかんだ愛らしい顔で。


「ときめいてるの?」

「……そこまで言わなきゃわかんない?」

「ふふっ。ふふ。もう、どうしたのよ、昨日から変よ」

「うっさいばーか。昨日から恋人なんだから、今までと違うのは当たり前だろーが」

「……ふふ。あのね、美野里の服装も素敵よ。似合っているし、可愛いわ。ときめいてしまうわね」

「ちっ」


 悔しい。何が悔しいって、とってつけたようにときめいたとか言われているのに、ちょっと本気で嬉しいって思ってしまうところが。

 落ち着け。まだこんなのは、ようは雅美の顔にときめいているにすぎない。言ってしまえば前から雅美の顔に見惚れるのはよくあることなのだから、これはまだ恋ではない。ここまで動揺する必要もないのだ。


「ふぅ……ありがと。とにかく、行くよ」

「はーい」


 雅美の手を取って歩き出す。いつまでもここにいたら、雅美の可愛さを見せつけるようなものだ。さっさと移動しよう。まずは駅前のストリートを道なりに歩く。


「……」


 すごく、当たり前に手を繋いでしまった。美野里の体はなぜこうも自然に恋人ムーブをしてしまうのか。繋いでから、あ、恋人とつないでるじゃんってなるから、やめてほしい。

 と自分で自分に突っ込みをいれつつ、今更離せないのでそのまま行く。空いている手で頭をかいて照れくさいのを誤魔化しながら口を開く。


「とりあえず、向こうの公園ぐるっとする感じでいい?」

「ええ。あ、そう言えば、今週って第三週だったかしら」

「え? えー、そうかも? それがどうしたの?」

「第三週末って、もしかしてフリマの日じゃなかったかしら」

「お……? そう言えばそんなこともあったかも。お、じゃあちょうどいいじゃん。見てこーよ」


 大きな公園で散歩はもちろん、遊具の広場やイベントもできるスペースもあり、毎月一回、大きなフリーマーケットもしている。今までにも何度か行ったことがあったけど、そう遠くないのもあってわざわざ狙っていくことも少ないのですっかり忘れていた。


「おー、やってるやってる」

「普段は見ないお店とかあるのよね。端から見ていかない?」

「おっけ」


 そこそこの人込みなのでぶつからないよう、つないだ手を強く握って肘当たりで距離をロックするように絡めながら歩く。親友のノリで絡んでしまったけど、恋人でやると予想外の距離で一瞬自分でドキッとしてしまった。


「あ、あの小物とか、可愛くない?」

「そうね。美野里の今の服にも合うと思うわ」

「雅美にもね」

「てかいい匂いするよね。何だろ」

「香ばしい……おせんべいとみたわ」

「甘い匂いもしない? イモモチとか?」

「混ざっているからじゃないかしら? でも主な匂いは近いわね」

「ちょっと先に探そ」

「私が当たっていたら奢ってね」

「え、ずるい、じゃあ私は、団子とみた!」

「ちょっと、変えるのずるくないかしら。じゃあ、私は……たい焼きよ」

「む。確かに洋っぽい生地系の匂いもするんだよね。フリマと言う場所を考えると、うーん」

「あ、もう駄目よ。答えが出るから。答えはー……」

「えっ。バームクーヘンって屋台で焼けるんだ。えぐ」


 恋人同士、いつもより気合を入れて、距離も近め、とは言ってやっぱり相手は長年連れ添ってきた幼馴染だ。

 気楽な会話の口火を切れば途切れることはなくて、話すほど緊張も解けて自然体で楽しめた。

 外れだったので一旦食べ物を買うのは我慢して、手作り小物の店を見たり、はちみつ専門店で味見したり、皮専門店で色の移り変わりを教えてもらったり、実際に船でつかった帆布でつくったバックの手触りを堪能したり、大きなぬいぐるみが並ぶのにテンションがあがってつい店主に写真をとってもらったり、そんな感じでフリーマーケットを堪能した。

 そして一周してからおやつに何を食べるかじゃんけんして決め、結局バームクーヘンを食べることにした。


「いやー、久しぶりに来たけど、お店の配置とかめちゃくちゃだから楽しいよね」


 色んなお店が入っているモールとかでも楽しいけど、ある程度何があってとか区分けもあるし、チェーン店だったりでわりとパターン化しているところある。でもここは当たり前みたいに専門店もいっぱいだし、実際の店舗とかなしで通販かフリマだけってしてるお店とか、ココじゃなきゃ出会えないのもあってテンション上がるし楽しい。

 ちょっと喧騒から離れたベンチに座り、飲み物片手に上がったテンションを落ち着かせながらそう雅美に笑いかける。


「そうね。ていうか、バナナジュースってこんなに美味しいのね」

「ねー。家で飲むのとちょっと違うよね。あ、バームクーヘンほかほかで柔らかくて、うまっ。しっとりのイメージだったから、これはこれでマジで美味しいね」

「そうね。ふふふ」


 カップをベンチに置いて、鞄に一旦いれたバームクーヘンを取り出して紙テープをはがして中身をだし、一口頬張る。と言う動作を何も疑問を持たずにしたけど、雅美も同じようにしているのを見て、いやおかしいな。と気付いた。


「ふっ、あははは」

「え、なによ?」


 おかしすぎて普通に声に出して笑ってしまった。だって、デートだから普通に手を繋いでいたけど、買い物して飲み物買う時も持てないから普通に鞄にいれてまで手繋いだままにしていて、ベンチに座ってもまじそのままとか、手がくっついて離れないのかってレベル。


「てかさ、今気づいたこと言っていい?」

「なに?」

「私ら手繋いだまま食べてるの馬鹿っぽくない?」

「え、あぁ……そう、ね。美野里ったら、よっぽど私の事大好きなのね」

「いや、雅美でしょ。手一回も離さないじゃん」


 おかしくって笑ってしまったし、ほんとにずっと繋いでたからこの季節でもわりと手汗かいている感じがあるし、まだ半分も食べてないし食べにくい。

 だけど不思議と、離す気にはなれなかった。それは雅美も同じようで、繋いでいる手をゆるめることすらない。


 当たり前みたいにつながっていて、何だかそれが心地よく感じられた。恋人のドキドキではないけど、幼馴染よりは近い距離が意外と落ち着く。


「……」


 こうしてじっと見ると、いつも通り上品に食べてるだけで、でもこいつは恋人なんだな。と思うとじわじわと、照れくさいけど嬉しいような楽しいような気がする。


「何、じっと見て。冷めないうちに食べた方がいいわよ」

「ん。食べるよ。はー、結構歩いたし、疲れたよね」

「そうね。当初の予定では、公園の奥の紅葉しているウォーキングエリアをまわって、奥から抜けて、タワーあたりから回ってーって思ってたけど、そこまで時間ないかしら」


 予定と言っても、とりあえずそんな感じでーと雑に言ったことで余裕で予定変更可能だったのだけど、まだその通りにするつもりだったらしい。真面目か。

 ちょっと呆れつつ、最後のバームクーヘンを口に放り込み、バナナジュースも吸い込む。美味しい。


「疲れたし、休憩してから考えればよくない?」

「そうね……ねぇ、ちょっと、質問してもいいかしら?」

「ん? めっちゃ前置きするね。どしたの?」

「ええと、ね」


 雅美も同じように食べ終わり、ジュースを手に持ったまま恥ずかしそうにもじもじしている。

 またしても普段見ないしおらしいムーブだ。ちょっとときめいてしまった。いや、しまったと言う言い方はよくない。ときめくべきなのだし。

 だけどあまりに今日はドキドキしすぎだ。自分がするだけではなく、雅美も美野里にドキドキしてもらわないといけない。どうすればドキドキするのか。


「……えっと、うーん」

「ねぇ雅美。ちょっと私も質問あるんだけど、雅美ってどういうのが好みのタイプなの?」


 質問がある、と言いつつ中々言い出さないので、とりあえず自分が気になったことを先に聞くことにした。ストレートな美野里の物言いに、雅美は顔をあげてぽかんと間の抜けた驚き顔になった。

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