第383話 男は恋人感覚、女は友達感覚

 私は真剣に仕事を取り組む若者が好きだ。でも、今の彼には複雑な思いを抱いている。


「瑠奈さんが、仕事を一生懸命頑張る僕が好きって、言ってくれたんです。だから、一生、紫音さんの役に立つって、決めたんです。」


 大人でイケメンの若者がバカなウチの娘(5歳)に熱を上げていた。


「圭司くん…、この間、私に麻友といちゃついているのを見られて恥ずかしくないかを聞いていたよね?君はまだ子供の瑠奈を相手に、恋をする自分の姿を人に見られて恥ずかしくないの?」


 昨日に言われた彼の発言をそっくり返してみた。


「瑠奈さんの中身は大人なんです。きっと、紫音さんの教育が良かったんだろうな~。性格も良いし、完璧過ぎる女性なんです。」


 恋は盲目らしい…。ここまで来ると少しアホな若者だ。


(圭司くん…、残念だけど、ウチの瑠奈は君に好かれる事を自分のステータス程度にしか、思ってないよ?まだ、5歳だけど…計算高い女なんだよ。)


 私の娘は悪い意味でも頭が良い。利で動くなと言っても、悪い大人まゆに利用されて、興味本意で今回のような事を引き起こしたりする。


(母親として、メチャクチャ叱ったから、反省したと思うが…。)


「ん?どうしたの大河。」


 抱っこしていたウチの息子が何故か、小さな狐耳をピクピク動かし始めた。すると…、


「橘さんですか?初めまして、連絡を頂いた、近松と言います。」


 彼女の方から声を掛けて来てくれた。


「初めまして、橘 紫音です。私の事がよく分かりましたね。」


 平日の昼休みのため、混み合う場所で待ち合わせしていたのに、すぐ私を見つけた彼女の洞察力に感心すると、


「私、ドラマを見てましたから…。本当に妊娠していたんですね。」


 彼女は私にそう言ったあと、生まれて約半年になる大河を優しい目で見ていた。大河は私より早く彼女の存在に気付き、反応したみたいだ。


(あのドラマはリアル過ぎだもんね…。素人の私が本人役で出演して、しかも…主役で妊婦っていうリアルなノンフィクションだもん。)


 いくら、私の見た目が良くても、離婚歴のある妊婦だし、男性から声を掛けてもらえる事はあまり無かった。まあ、私はその一本のドラマしか出てないから、恵令奈に比べると私の事を知らない人もかなり多い。


「本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。」


 あまり時間を取らせるわけにはいかないため、私は軽く自己紹介をしたあと、依頼人の彼が亡くなった事を知っているのかを聞いたり、どの程度の付き合いをしていたか…などを簡潔に聞くと、


「ええ、テレビのニュースで見て、驚きました。数日前に会った時は、元気だったのに、家で変死していたって…。私はドラマであなたの仕事の事を知ってますけど、探偵さんが動いているって事は、彼は誰かに殺されたんですか?」


 私のノンフィクションドラマを見ていた彼女は、白河家の仕事をただの探偵だと思っていた。その方がこう言う活動をしてても不思議では無いように見えるし、今後に都合が良いだろうと言う、恵麻の上手い脚本の持って行き方だった。


(霊のお仕事って、現場系だもんね。ドラマでは、私のバイト先として白河家の仕事が探偵業だって紹介されたけど、相も変わらず警察関係者の認知度はスゴいし、あの元人気タレントの恵令奈の前職としても、昔は有名だったからね。)


「いえ、そこまでは掴めていません。ただ、彼との付き合いが深い方にはこうして、お話を伺っています。彼の話を聞かせてもらえませんか?」


 私は早速、どういう人間だったのかを伺うと、


「私って、橘さんのように女らしく生きるのが嫌で前の夫とは離婚しました。相手が好きで結婚したのに…、親戚や家族が、相手のご両親が、子供はどうするのかを会えば聞いてくるし、全部が嫌になって逃げちゃったんです。


 それで、他の男性に関わりにくくするために、髪を短くしてメンズの服装で生活を始めたんですが、そんな男っぽい格好と性格をしている私を彼はそのままで良いって、むしろ、そのままが良いと言って、付き合おうと言われました。」


 彼女は男っぽく生きる事を認めてくれた依頼人に告白された事を話してくれた。


(いや、認めてくれたは少し違うと思います。彼はただ…そう言う女性が好きなだけで、女らしい人だったら、告白はされなかったと思います。)


 言葉も言いようだと、感じていた私に彼女が、


「でも、断りました。私は恋愛よりも仕事が良いからって彼に伝えると、笑顔で、なら、理解ある友達として接してくれると言ってくれたんです。そんな優しい彼が事件に巻き込まれるなんて、考えられないです。」


 彼女は彼の告白を断った事を話して、ただの仲の良い友達だと言っていた。


(えっ、付き合ってないの?依頼人は付き合ってるって言ってたよ?)


 私は声を出して、彼は付き合っていたと話したと言おうとしたら、


「紫音さん、言っちゃダメです。依頼人は妄想癖なんですよ。僕と瑠奈さんみたいな相思相愛の関係じゃ無かったんですよ。」


 彼は私の発言を止めようとしたけど、


(圭司くん…妄想癖なのは、君もだよ?瑠奈に遊ばれてるでしょ?)


 男は全体的に付き合っているのラインが低い事が分かったため、彼女にお礼を言って、他の男装女性もそうなのかを聞くと、


「さあ、よく分かりませんが、私は他の方と会うことはありませんでしたから…。でも、私のような悩みを持っている人はたくさんいるよって、言ってたし、同じような男装している方の中に付き合っている女性はいたのかもしれませんね。」


 当然、彼は付き合っていたと勘違いしていたため、複数で会うことはなかったらしい…。


(そう言えば、男はあんまり群れないもんね。私も昔は…と言うか、子供たちがいない時なんかは今も単独行動が多いかな?)


 神里 光の記憶を持っている私は男が少人数で行動する意味を知っていたため、彼女たちも複数人で会わず、群れる事をしない理由に納得いった。


(確かにツーショットしか、無かったし、彼は個別に会っていたのだろう。他の男装していた女性の方にも聞いてみよう。)


「お話をしてくださってありがとうございました。何か分かれば、報告しますね?」


 そう言って、彼女と分かれたあと、アポイントを取れそうな方に依頼人の事を聞きに行ったのだが、彼とは誰も付き合っていない、友達だとと言う人ばかりだった。


(う~ん、やっぱり…依頼人は付き合っていたと認識していたが、女性たちはみんな友達だと言っている。)


 私は依頼人の言っていた未練が違う方向へ向かっている事は理解を出来ていたが、色々としっくり来ない部分が多すぎた。

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