第384話 恋愛価値観が違えば、交際とは言わない

 厄介な依頼に遭遇した私たちは彼に恋人たちは付き合っているつもりは無かったと言う、事実を伝えると、


「そんな事は無いです。彼女は一緒にいたいから泊まって行ってもいいとか、一緒にいると落ち着くから側にいて欲しいとか、言ってくれたんです。好意が無ければ、そんな事を言われませんよね?」


 彼は彼女たちとは恋人だったと私へ猛抗議するのだが、性的な接触の話になると、


「それは無いです。口内や体への接触なんて言う行為は美しくありません。完璧な存在の女性にはそんなものは必要ないんですよ。」


 彼はどの辺までが交際範囲なのかを分からなくする発言をしてきた。


(この人…男装女性を芸術品か何かだと思ってるのかな?まあ、多様性の社会において、ペッティングまでを恋人交際と考える人もいるし、それより発展しない関係でも、交際していると考える人もいるよね~。)


 今の時代は平成育ちの光の時代なら、考えられない男女交際が存在している。もっとも、令和育ちの我が家の子供たちは私が考えてもいない男女交際の形を作るかもしれない。


「あの~失礼な事を言ってしまうんですけど…、恋愛の価値観が合っていない時点で、男女交際があったとは言えないんじゃないのかな?って感じませんか?」


 依頼人の彼は男女交際の基本が一般的に違う事を話すと、


「そう言う事なので、あの世でその価値観の合う方を見つけて下さい。門の近くまで、我々がお送り致しますから…。」


 圭司はめんどくさくなったのか、さっさと依頼を終わらせようとしていた。そんな彼の投げやりの態度に、


「君たちの恋愛の価値観を押し付けないでもらえないかな?まだ、納得が言ってないから、成仏しないよ?」


 これでは、依頼人への完了報告にならないので、第三者の意見を聞きたい私は狼煙玉を取り出して、古き時代を愛する男を呼び出す事にした。


(これ…叩きつけたらいいのかな?それとも火を付けるのかな?あっ、なんか…指紋照合ボタンがある。)


 もらった時はすぐに自分のバッグへ閉まったため、あんまり詳しく見なかったのだが、狼煙玉は意外とメカニックな代物だった。私の手をかざすと指紋照合が行われて、煙が出始めた。しばらくすると忍者のように私の元へ黒子川さんが現れて、


「紫音様、お呼びでござるか?」


 彼は私へ忠誠心ある態度を取ったので、忍者の恋愛価値観を聞いてみると、


「紫音様…、そんな事で拙者を呼び出さないで欲しいでござる。」


 明らかに不機嫌な感じになったが、


「そうでござるね~。拙者の前の主は一夫多妻で多数の側室がおりましたゆえ、性的な交わりが男女交際かと存じまする。」


 普通に最も遠い価値観を話し始めた。


「黒子川さんは美南とHしないの?ああいう真面目っ子って、メチャクチャ求めてくるでしょ?」


 美南との交際話について、突っ込むと、


「拙者は忙しいでござる…。これにて。」


 そう言うと、彼は私に美南との交際関係を問い詰められて、捕まえられないようにわざわざ煙玉を使って逃げた。


(これはかなりやってるな…隠れエロ忍者め。)


 都合が悪い事を聞かれた忍者が逃げてしまい、性的な交わり認めたと認識した私は、


「古風な男の恋愛は性的な接触までの事を言うみたいよ。時代で違うのかもしれないように、男女交際はお互いの価値観の相違が無いと認められないものよ?分かった?」


 片想いや一方的な恋愛感情は全般的に交際とは認められない事を依頼人に話すと、


「彼女たちはみんな、僕とは交際していないと答えたんですよね?でも、彼女たちと過ごす日々はとても幸せでした。なのに…どうして僕は、この世に未練があるのでしょうか?」


 死んだ彼は何故か、幸せだった事しか覚えていない。世の中、生きていれば、それなりに辛い事や悲しい事があるはずなのに…。


「う~ん、君はこのままじゃあ…納得してもらえなさそうだよね。君、両親との関係はどうだったの?兄弟は?」


 依頼人のSNSには家族らしい人たちが写っていなかったので、尋ねてみると、


「男は群れないし、好きな女しか興味がない、孤高の生き物なのさ。」


 彼は私の質問を意味が分からない理由を付けられて、答えてくれなかった。


「分かりますよ、その気持ち。僕も瑠奈さんの事で頭がいっぱいだ。」


 ウチの次女を好きになり、圭司は、バカな男へと成り下がった。


「う~ん、おバカな二人は放っておいて、これ以上の収穫は無いから帰りますか?大河。」


 抱っこされる私の元で、大人しくしてくれていたウチの子が急に動き始めたので、そう聞くと、お尻の尻尾を振って答えてくれたので、好きな女のウマが合う依頼人と盛り上がる圭司を置き去りにして帰る事にした。



「大河はああなっちゃダメだからね。お姉ちゃんがまっすぐ育ててあげる。」


 白河家に戻ると、休憩中の恵麻が私から大河を奪い、彼に言い聞かせていた。大河は長女の恵麻の前ではあまり泣かない。彼は小さな尻尾を振っている所を見ると機嫌が良いみたいだ。


 恵麻は男の子の扱いが本当に上手い。それに瑠奈の時よりも本人の体も大きく成長しているから、色々と手慣れたものだ。次女が瑠奈アレのため、私の子育てを信用していないから、ちょくちょく私から大河を取り上げて、言い聞かせ教育を怠らない。


(瑠奈が変なのは母親の私のせいになってるけど…、アレは赤ちゃんの時からメチャクチャ活発な女の子だったもん。子育て教育じゃなくて、血筋なんだよ。)


 瑠奈と小春を見る限り…私の血を引くと、個が強くなる。蓮の性格には似てないから、より、私の血の影響を受けているのだろう。


「今日の紫音様はフリーですね。では、早速。」


 私を後ろから抱えあげた麻友が床の間に連れていこうとしたので、


「それは仕事中の主へする行動じゃないでしょ?サボると未央お母さんに怒られるから、離してよ。」


 強者の麻友に羽交い締めされると、さすがの私も抵抗が困難だ。それに本気で抵抗すると白河家の建物自体がどうなるか分からないため、建物内での力技は制限している。


「すぐ済みますよ。紫音様の子宮に2回ほど子種を注ぐだけですから、このまま、後ろから差し込みますね。」


 下着をずらされ、襲われそうになった私は、性交時に麻友の拘束が緩む瞬間を狙って、背負い投げするように投げ飛ばした。立場を逆転させた私は、


「あなたも女なら分かるでしょ?いくら、相手が好きで好意を持っていても、女は気分が大事。最近の若い子はHの仕方すら、知らないのかしら?」


 職場で襲われて、かなりキレた私は彼女の体に似つかわないアレに向けてそのまま蹴り上げようとしたが、瞬時に体の組織を女性に切り替えたのか、そこにはアレが無かったため、今日は寸止めで攻撃を止めた。


(本当に便利な体だね。男女を切り替えられる体って…。)

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