第381話 依頼人の好きなタイプの女性

「紫音さん、気になる事を聞いてもいいですか?」


 入社二年目ですでにベテランの雰囲気を出す、若宮兄妹の兄の圭司が私へ質問してきた。いいよと告げると、


「なんで、小春ちゃんも大河くんも狐なんですか?紫音さんの産んだ子供、瑠奈ちゃん以外は狐の耳と尻尾が付いてますよね?それに、どうして、女同士なのに、麻友さんとラブラブなんすか?」


 狐っ子率が高い私の子供と圭司が好きだった先輩の麻友との関係をメチャクチャ詰めてきた。


(麻友を奪った形になったから、私の事を敵視してる?)


「元夫も狐も、責任を取らない無責任な人間だからね。圭司くんはそんな男になっちゃダメだよ?それから、麻友は少し魂が特殊だから…恋愛対象はどっちでも良い女性なの。もちろん私もね。だから、あなたの恋愛の価値観を相手に押し付ける行為を止めない限り、あなたはその程度のまま、人生を終わるわよ?」


 片寄った意見を持つ彼へ私がかなり強めに威嚇すると、


「僕は紫音さんのそう言う所が苦手なんです。強すぎるって言うか、正しい所をなんで…貫けるんですか?狐みたいな子供が生まれたら、普通は動じますよね?麻友さんと仲良く歩いていたら、周囲の声が気になりませんか?あなたこそ、正しい事ばかりを人に押し付けないでください。」


 昔のように彼の本質はやはり一年程度では、変わらない事を知った私は、


「あなたがそれで良いなら、もっと、発言に自信を持ちなさい。物事を良いか悪いか考えるのは、人の感覚次第なのよ、それを忘れないで。ただ…、今のあなたでは、依頼を強引に終わらせる事は出来ても、解決するのは無理よ。」


 私が圭司くんの片寄った見方では物事の本質を見抜けないと言うと、


「じゃあ、僕は降ります。紫音さん一人で解決まで導いてあげて下さい。」


 説教されて、私を敵視する彼は怒って、そのまま帰ってしまった。


(また、未央お母さんに叱られるね、私。)


 彼のサポートを頼まれたのに彼を怒らせた。仕事にならないと感じた私が白河の家に戻って、事情を話すと、


「紫音、あなた…見た目よりも遥かに気の強い性格だから、男性にモテないのよ?それから…今回は全部の責任を取りなさい。」


 分かっていたが、未央はかなりキレていた。


「未央お母さん、ごめんなさい。それから…仕事をしても、良いの?」


 仲間割れを起こした私が未央に仕事をしても良いのかを聞くと、


「あなたの言い分は何も間違っていない。あの子、入社して一年経って、慣れたのは分かるけど、少しこの仕事を軽んじてるし、紫音が嫌で依頼を投げたのなら、かなりの罰を与えないといけなくなったわ。あなたへのペナルティは依頼の完遂よ。分かったわね?」


 未央はそう言うと、仕事へ戻りなさいと告げて、事務仕事を再開した。


「大河は寝ちゃったね…。これじゃあ、連れて歩けないな。」


 この子を置いて行って、何かがあると困る任されなく私は、事務仕事中の麻友を呼んで、


「紫音様、大河はお任せください。あと…圭司さんへの処分はどうなさいますか?二度と逆らわないように、縛って拷問しますか?それとも…殺しますか?」


 私の事になると物騒な発言をする彼女に、


(なんで…その二択?あなたの頭には、彼を許すと言う選択肢は無いの?)


「何もしないで。彼と私の問題だから…。今日は大河を見てくれるだけで良いんだから。」


 圭司くんの事は保留だと伝えて、大河を渡すと、


「紫音様は甘いですね。逆らうの者をすべて言い聞かせるでは、世の中、まかり通りませんよ?まあ、いいです。主に反抗する勢力を事前に排除しなかった私にも責任がありますから…。」


 物騒な事を言っていた彼女も大河を受け取ると、


「すぐに兄弟を作って差し上げますね、大河。何人が良いですか?お父さんは15人以上が目標です。」


 と笑顔になり、蓮の魂を取り入れた彼女は私を妊娠させる気満々だった。


(ある意味…ヤバいよね、この子。桜子さんから私を手に入れるなら、そうしろって、言われたのかも。)


 確実にあの悪魔がバックで麻友をコントロールしていると確信した。


「紫音様、護衛をするでござる。麻友殿より、近付く男はすべて捕らえよとの命を受け申した。」


 雇われ忍者の黒子川さんが付いていくと言ってくれたが、語尾に彼が言った男性の捕縛行動は行わないようにと、命令を修正させた。


「御意。それならば、この狼煙玉を使い、お呼び下され。拙者は本日、外勤ゆえ、外での活動をしておりますが、それを見れば、すぐに駆け付けます。」


 彼は手の平サイズの丸い玉を渡してきた。


(呼び出し方が古いよ!戦国時代?)


 と突っ込む間もなく、彼は去って行った。


(とりあえず、依頼人の裏アカを見つけないと…。本人に聞いた方が早そうだね。)


 私は依頼人の元へ戻り、話を聞いてみると…、


「裏アカウント?そんな物はありませんよ。それに恋人たちはちゃんと写っていますよ。」


 依頼人の彼はそう言って、私のスマホに写った恋人との写真を指差した。


(ん?この男性の隣に写っている男性が恋人?いや、よく見ると…女の人に見えなくもない。)


 やけにキレイな顔をしている男性とばかり写っているって気がしたが、これはすべて男装している女性なの?と感じた私は、


「あなた…男装する女性ばかりと付き合っていたの?性癖?彼女たちに強要していたの?」


 私がそう聞き返すと、


「僕は紫音さんみたいな、普通の女の子には興味ありません。胸が小さくて背が高い女性こそが至高の存在なんです。イケメン風の女性といちゃついている感覚こそが最高のBLなんですよ。」


 依頼人の彼は私のような如何にも女性っぽい人や男性が好きなのでは無くて、男装が出来るくらいの体型を持った女性が好きと言う、少し変わった性的な思考を持っていた。


(ああ、麻友みたいな子が好きなのね…。)


 それを聞いた私は、私よりも背が高くて、胸があまり大きくない麻友の事を思い浮かべた。


(なんだ、好きなタイプで言うと、圭司くんの仲間みたいなもんだね。)


「えっと…、あなたのタイプって、こういう子みたいの人の事?」


 私は麻友と小春と瑠奈の四人で撮った写真を見せて聞くと、


「ああ、紫音さんの隣の女性はスゴくタイプです。もしかして恋人ですか?」


 彼にそう尋ねられたので、今の夫みたいな人ですと答えた。それから、私も麻友も、好きな人の性別はどっちでも良いバイセクシャルみたいなものだと明かすと、


「ああ、僕は理解者に会えたんですね。感動しました!良かったら、話を聞いてもらえますか?」


 テンションが上がった彼は、特に男装女性がピンポイントで好きと言うわけではない私に、背が高くて男性っぽい女性の素晴らしさを語り始めてしまった。

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