社会は産休明けの女性にとても厳しい

序章 新しい家族は待望のはずなのに

「赤ちゃんが産まれる時って、子宮口ってかなり広がるんだよね~。その前に子宮の収縮する時の陣痛がかなり痛いのよ。」


 陣痛がすでに起こっていて、激痛がしている私は付き添いの麻友に説明していた。


「紫音様、そのわりに余裕で喋ってますよね?」


 出産未経験の麻友は陣痛が来ているはずなのに、余裕の私に突っ込みを入れてくる。


「九尾の技に比べれば、痛みは耐えれるもん。妖術で息が出来なくしちゃうんだよ?さすがに首を絞められる時のような痛みと比べたら…ね。」


 非力な恵令奈の体で暮らしていた事がある私は、ゴリラ並みの強靭さを誇る紫音の体は毎月の生理すら…、さほどの痛みを感じない。瑠奈をすでに産んでいる私は、出産の経験の痛みは本人が受けた今までの痛みの量、つまり、場数の差だよと麻友に伝えると、


「なるほど…、丈夫過ぎる紫音様の体なら、もっと、たくさんの子供を産めそうですね。最低10人…いや、20人くらいは行けそうですね。」


 麻友はそう言うと、「次こそはよろしくお願いしますね?」と何気に怖いことを言って来た。


(あっ、麻友は体に魂を取り入れる事で、男性にもなれるんだったよ…。それに女を知り尽くしているので、女性の相手にはとても上手だ。)


 彼女は私にキスした。その光景をたまたま見てしまった女性の看護師さんが呆然と立ち尽くしたため、麻友は看護師さんに近付いて、


「あなたもそう言うのが、お好きなんですね。私のパートナーがあの状態なので、かなり溜まっていますんですよ。良かったら…どうですか?」


 そう言って、同じ趣味を持っていそうな彼女に連絡先を渡していた。 


(うわ、私はこれから子供を産むのに、堂々と女遊びする気だ。)


 麻友の性別を問わない食いっプリに呆れていた。彼女が溜まっているのは、性的な相手をしないから、仕方ないと感じた私は見て見ぬフリをした。


(お腹の子は瑠奈の時とは違って、大人しい子ね。今を思えば、産まれてくる前から、瑠奈の活力はスゴかったよ。)


 お腹の中で動き回り、早く出たがって、子宮口から元気よく飛び出して来た我が家の破天荒娘よりかは今回の子は元気では無い。


「あっ、もう、産まれる?麻友、先生を呼んでくれない?もうすぐみたい…。」


 そう言ってから、激しい痛みと共に分娩室で私は新しい命が産まれる状態を迎えた。二人目はそれほど痛くないと聞いてはいたが、年を取らなくなったこの若い体は初産のような痛みがあった。まあ、爪の患部を焼いて無理に剥がした感じの痛みで、我が子が産まれる瞬間はよく覚えていない。


「元気な男の子ですね。」


 と誰かに言われた気がするが、それすら曖昧な意識の中、新しい家族の誕生に報告を聞いた未央や瑠奈たちがすぐに駆け付けて、私が産んだ男の子の名前を誰が決めるのかで争いを始めた。


(私の心配はゼロなの?私への労いの言葉は?)


 丈夫な体と知っている彼女たちは、私に声を掛けることなく、我が長男ばかりを見て、テンションが上がっていた。


(えっ…産んだのは私だよ?みんな、無視?)


 こう言う人たちだとは、分かってはいたが、なんか、悲しい気持ちになっていた所へ、


「紫音、おめでとう。来年も新しい孫の誕生を楽しみにしているわ。」


 桜子が私に一番乗りで声を掛けてきたが、それは今、産んだばかりの私へ掛ける言葉ではない。


「能力はどの程度?蓮よりも光の精子の方が良い子供が産まれるかしら?」


 それも今に相応しい言葉では無い。


「傾奇者になって欲しいから、絶対に慶次けいじだよ!今の時代に必要なのは豪快な男らしさよ!」


 美南が謎の戦国時代?の名前の案を出すと、


「ダメ。瑠奈みたいなのが増えたら、この世もウチの家も傾くわ。凛音りおんよ。カッコいいし、世はジェンダーレスの時代なんだから。」


 恵麻は自分の案こそ、時代に相応しいと自慢気に言った。


「二人とも…まだ、幼いわね。私の孫は知的じゃないとダメ。美空の弟なんだから、蒼空そらに決まりよ。」


 未央と美空の親子は自分たちに似た名前を提案していた。


「え~、瑠奈は冬馬とうまが良いと思う。コハるんと一緒に考えたんだ。小春は春生まれで、今は冬だもん。」


 変な名前を考えそうな瑠奈は案外、まともな事を言い出した。一番ヤバい名前を付けそうな桜子は…と言うと、


「私は能力が高くて優秀なら、何でも良いわ。出来れば、呼びやすいのにしてね。」


 名付け親になるつもりは無くて、「決まったら私へ報告をしなさい、紫音」と告げたあと、病院から立ち去って行った。


(グループ会社の総帥の桜子さんは忙しいんもん。それでも、わざわざ来るって事は、あの義母プレッシャーの言葉は彼女なりのおめでとうの言葉だったのね…。)


 どのみち、出生届を出さないとダメなので、名前は早いうちに決めないといけない。ああだこうだと言っても、決定権は産んだ私に託される。


(う~ん。誰かの案を採用すると、方々に角が立っちゃうよね。お互いの妥協点と言うか、なんと言うか…。)


「私、実はこの子の名前を決めてあるんだ。えっとね…。」



 少子化の本当の理由は産休後の社会復帰にあると私は考えている。一般の会社でキャリアを積んでいた女性は後輩の男性や女性に仕事を引き継いだ結果、忙しい子育てに追われて、時代の流れに付いていけず、戻った会社には後が育っており、すでに用済み扱いを受ける。それは男性目線からすると一生掛かっても、理解できない事案なのだろう。覚えたはずの仕事をすべて忘れるくらい…小さな子供は手が掛かる。


 世間は、共働きの金銭面ばかりがクローズアップされがちなのだが、実は女性側からすると、子育てに精神的なダメージを受けている所に、出産前と同様のパフォーマンスを求められる事が難しい事に社会は気付かない。例え、仕事の勘を取り戻しても、落ちた実績だけ見られて、会社に気を使われ、仕事を減らされたりする。


(仕事が好きで、キャリアを積みたい人はきっと、男になりたいだろうな。)


 男女差別は確かに良くないが、中小企業だと、どちらかを採用しろと言われて将来を見ると、男性を優遇するのは当然だ。つまり、中小企業に就職して、結婚したあと出産して復帰した。女性に待っている末路は…、


 繋ぎの仕事だけしか回されない不遇な環境…なんだ。


 具体的に言うと…、


「紫音、お洗濯のあとは、買い物をお願いね~。」


 私は長男を産んだあと、繁忙期になる前の半年間は子育てに専念していた。そして、白河家の仕事に復帰をしたのだが、現場担当の圭司君や陽葵ちゃんは麻友先輩の指導のお陰で、そこそこ成長していたため、今の私の仕事は、霊の御用聞きではなく…、


(扱い酷くない?仕事場に来て、毎日、家事をやらせるなんて…。)


 仕事復帰をした私に、鬼母の未央は白河家の家事をやらせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る