第377話 親子の程よい距離

 あの日以来、美空は一度も白河の家に戻っておらず、身重な体の私を妹として献身的に支えてくれていた。小春とメグは私や帰って来ない瑠奈に遠慮することなく、マリアを怒らせない程度の音量と行動で楽しそうに遊んでいる。


(小春は変身狐になった影響で子供っぽい態度を取ってくる所が少し変わったわね…。成長も人間らしく変化できるみたいだし。)


 キツネベースのため、良い意味で脳の発達が低下した小春は、おバカ姉妹の妹らしい行動を取るようになっていた。


(マリアに怒られる機会は断トツに増えたけど…。)


 小春がお調子者になったため、最近は瑠奈と同じくらい騒がしい。その態度の悪さをマリアにキレられる。元々、狐の臭いが嫌いなので、同じくらいの事をしても、瑠奈よりも小春が怒られるのだ。


「紫音お姉さま、お洗濯は済ませておきました。」


 本当に気の利く未央の娘の美空は私の行動を先回りして、手伝いをしてくれる。でも、恵麻の言うとおり、こう言う主張をしない子が一番…危ない。私の育ての母親でもある未央に物心付いた時から、厳しい指導を受けたのだろう。


 美空は瑠奈に滅法強いが、年上の恵麻には厳しくしてこないらしい。上下関係をわきまえていて、まともな人には文句を言わない賢い女の子だ。


 ところが、この間、優等生の彼女は弟や妹が欲しいと言った事で普段は逆らわない母親との話の拗れが起こり、親子関係が少しギクシャクしているので、現在、美空は義姉の私の家に滞在している。


 確かに未央の年齢を考えたら…妊娠するのは難しい。女の生殖活動は男性よりも短い。社会人になって、女の生活が安定した頃には、老いた事で男性に見向きもされなくなっていたり、長年の付き合いであったとしても、早い目に子供を作らないと、男性側のパートナーへの性行為する気持ちが離れていたりしてしまう。


(理性がある女性は余計に大変なんだよね…。私なんて…。)


 恵麻が私を人間扱いしない理由は、男性にされるがままで従順だからだ。子供が欲しいと言われて、最初は避妊を考えているけど、男性を求める気持ちが勝ってしまい、相手のすべてを許してしまう。


(心配なんだよね…。妹の美空の事は。)


「美空、いつもありがとう。瑠奈がいなくて寂しいよね。」


 私は親分子分関係でいつも一緒に遊んでいる二人が会えない事を話すと、


「いえ、園では会えますし、問題はありません。」


 彼女は答えてくれるが、やっぱり…元気がない。母親との距離が出来て、大人ぶっていた分、仲直りの方法が分からないようだ。私から声を掛けたとしても、余計に気を使うだけだろうと思ったため、よく私の作るご飯を目的に来るサラに声を掛けた。



「で、困った紫音様はわたくしにお話しなさったのですか?まあ、恩を着せておくのも、あの女に対抗するのに必要かもしれませんね。」


 小鈴の娘サラは恵麻への敵視がスゴいため、恵麻の母親を押さえておくべきだと判断し、


「いいですわ、今回は外様の親類者を立てて差し上げます。いいですか、紫音様…これは大きな貸しです、分かりましたか?」


 謎の貸しを作られたが、「分かりました」と答えると、「よろしい。」と言って、何故か、満足していた。私のような神里の家で影響力がある人間を従える事にご満悦のようだ。


(サラちゃんは全然、少しバカな小鈴に似てないね…。まあ、教育係はあの麻友だし、もしかすると本質は父さん似なのかな?)


 サラの父親は白人男性らしいが、母親の小鈴も一晩だけの相手だったらしいので、詳細はよく分かってはいない。だが、確実に桜子が遺伝子の血筋のみで用意した相手なのは確実だった。


(サラちゃんはお父さんに会いたいとか言わないのかな?)


 恵麻に匹敵するレベルのサラはませませ幼女のため、恵麻みたいに賢くて、色々と尖っている。しかし、そんな尖り彼女は上品な美空との相性がとても良い。そこで、今回は美空の心理を彼女に探ってもらうお願いをした。


 でも、私にはもう一人の心配な子がいる。我が屋の破天荒娘、瑠奈だ。


(白河家に行ってみよう。職場だから、ほぼ毎日姉の恵麻もいるから心配は無いんだけど、さすがに何日も帰って来ないのは心配。)



 早速、散歩すると言っていたマリアを連れて白河の家に行ってみると、案の定、瑠奈は私の代わりに家事をやらされていた。


「瑠奈、元気?」気さくな感じで声を掛けると、


「あっ、お母様。会いたかったです~。」


 言葉使いを強制されたのか、私をお母様呼ばわりしてきた。


(瑠奈の個性が消されてる…。)


「瑠奈、無理しなくていいよ?お母さんは偉くないし、気さくな感じで接しなよ。」


 母親なのだから、言葉使いは改めなくても良い事を伝えたのだが、


「お母様はいつもお優しいですね。瑠奈は気品あるお母様の娘です。いつものようにしているだけですわ。」


 瑠奈のキャラクターは完全に崩壊していた。困った私は瑠奈を連れて、恵麻の元へ行き、事情を聞くと、


「瑠奈がここにいるといつも邪魔しに来るし、ウルサイから、新しい能力を使ってみたのよ。」


 恵麻特有のモノマネ能力を使って、憎悪を植え付ける能力を改良し、人を敬える愛を植え付ける能力を瑠奈に使い、従順な人間へ変貌する能力を使ってみたらしい…。私が今すぐ止めてと言うと、恵麻は舌打ちしたあと、瑠奈に掛かっている能力を解いた。


「あっ、お母さん。なんでいるの~。瑠奈にご飯を作ってよ~。未央お婆ちゃんは作ってくれないのに、瑠奈の作るご飯にダメだしするの。」


 いつものマシンガントークの瑠奈に戻ったため、頭を撫でて、ご飯を作ってあげると約束した。


「二人とも、私は仕事中だから出て行ってよ。それから…瑠奈。次に私の邪魔をしたら、二度と姉に逆らえないようにしてやるからね?」


 恵麻が本気で怒っている所を見ると、悪いのは瑠奈のようだった。


「瑠奈は寂しいの!恵麻お姉ちゃんが大好きだもん!構って欲しいもん!」


 私が会わないうちに、前よりも姉への愛に溢れていた。瑠奈は寂しがりだから、いつも騒がしいのが分かった私は、


「でも、仕事中のお姉ちゃんの邪魔をしちゃあダメよ?家に帰って来なさい。未央お婆ちゃんにお母さんが頼んであげるから。」

 

 瑠奈は少し会わないとスゴく愛らしい娘だと分かり、距離を置く事の大切さを知った私は、未央に会って、美空の事を話してみようと感じた。


(甘えベタの美空、子供を決して甘やかさない未央お母さん。私も二人の家族なんだから、私は母親から、心意を聞いてみよう。)


 サラに美空を頼んだ私は、母親の未央から話を聞いてみようと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る