第375話 少子化の流れは止まらない

 狂気に満ちた複数の事件は、犯人の死で終わる事になった。犯人の彼がなぜ、そんな強力な能力を授かり、奇行に走ったのかは分からない。学生時代はそんな人体研究とは無縁の彼がどこでそんな知識を得たのかも分からずじまい。


「彼は私と一緒。恐らく…過去が変わっても、忘れられない人間だったんだよ。」


 私は奇行に走った理由をこう推測した。理由は何個かある。まず、美南の元カレだったのはつい最近に変更された事象で、実際は私のように何らかの理由で別の記憶を得た人間だったのだろう。私の時みたいに、まともな記憶なら良かったが、人体研究を勤しむ危ない奴の記憶を持っていたから、美南の知っている彼は当の昔にいなくなっていたのだ。


「ねえ、紫音。私の孫はいつ産まれるのかしら?」


 早く孫に会いたい桜子が出産予定日を急かしてきた。


「まだ、先ですよ。妊婦に急かすと言う、変なプレッシャーを掛けないで下さい。それにしても、私へ会いに来るなんて珍しいですね。妊娠する前はもう、お義母さんって呼ばないでって、毛嫌いしてませんでしたか?」


 妊娠判明後に急に態度が変わった桜子へ告げると、


「あら、ウチは我が子を谷底に突き落とす教育方針なのは、よく知っているでしょ?私としては、子供さえ、たくさん作ってくれるのなら、立派な娘。あなたのドラマも好評だし、紫音ちゃんは国を救う救世主なのよ?」


 桜子はその後も、今の身籠った子を産んだら、次はいつ妊娠するの?と義母プレッシャーを掛けてくる。


「二人とも邪魔するなら、帰ってよ。産休中の妊婦や暗殺者のお婆ちゃんとは違って、私は後処理に忙しいの!」


 恵麻にくだらない親子会話をするなら、出ていけと言われてしまった。


「あら、正当防衛の末に相手の体へ刃物が刺さっただけで、私は何もしていないわ?そうよね?麻友。」


 桜子が証拠隠滅を計った麻友に尋ねると、恵麻に防犯カメラの映像を見せた。そこには、別の場所から侵入して、人体実験をするために拐った女性を助け出す桜子と小鈴、彼と対峙する小春に動物を使って襲わせようとする所、カメラの視角で揉み合う音のあと、救急車を呼ぶ麻友と傷付いた動物の腕を手術する黒子川さんが写っていた。


(本当に見えない所で上手くやってる。カメラの視角を使って、すべて殺しを行うなんて、その場にいた何も知らない小春とあとから来た黒子川さん以外は完全にプロの殺し屋だよ…。)


 本当は彼を殺害した暗殺者のクセに桜子は小鈴と共に女性を助け出した功労者みたいな扱いをされていた。話を聞いたら、助け出された女性は今ごろ…病院で神里グループの社員の優しい王子様が迎えに来ているらしい。


 この人は弱い女性を助けるフリをして、その弱った女性の前に理想の男性を登場させて縁組し、子供を作らせるヤバい人間だ。


「まあ、一組のカップルを成立させた所で、少子化の流れはもう…止まらないけどね。政府はウチのグループだけ独立国として認めてくれないかしら?」


 神里家ウチがどんなに頑張ろうとしても、社会全体の少子化は止まらないと言って、かなり、深いため息を吐いていた。


「ありがとう、恵麻。あなたのお陰で今回も上手く行ったわ。」


 そう言いながら、桜子は感謝の意味で恵麻の頭を撫でようとしたが、寄るなと言う、拒絶する強い殺気を放ったため、その代わりで横にいた私の頭を撫でて、私に対して笑顔で微笑んだあと、事務所を立ち去った。


(その撫で方…次いで感がスゴいよ?)


 素直に撫でられる私を見た恵麻は、


「本当に良い子ちゃんだよね、お母さんは、あんな殺し屋に体を触れさせるなんて…アリエナイ。でも、日本の国力が100年前と同様に削がれたのは事実。民主主義には限界があるの。このまま行くと日本は崩壊して、負のエネルギーが溜まり、あちこちで…戦争が起こるわ。それくらい、平和の象徴の子供が減ることは一大事なの。」


 誰よりも優秀な恵麻は将来の日本のビジョンが見えているため、気に食わないはずの桜子に協力していた。


「自分でも思うけど…私って、抵抗しないもん。妊娠するのが分かってて、男性のやる事を許しちゃうし、でも、その方が良い気もするんだ。私は見た目が人よりも良いから、あんまり努力していないけど…本来の女性は本能で良いパートナーを見つけるために色々と頑張るんだよね~。」


 男性も女性も本能的に争うのが好きなのが人間。今回の変な事件みたいに、イケメンで何もかもが恵まれた人間だからこそ、彼はあんなにも捻れてしまった。人、動物、しまいには霊を使った悪事にまで手を染めた。


「アイツは理解者を探してたんだよ…。美南は自分が唯一、落とせなかった相手だったから、自力で自分の者にしたかった。その裏ではルックスのみで寄ってくる女性に残忍な行動をして、実験台として扱っていた。


 そして…行動はエスカレートし、悪意に漬け込んで活動させる何かに取り込まれたアイツは人の気持ちが知りたくなり、ケンカ別れする夫婦や交際する男女に能力を使って、愛とは何かの実験を始めた。」


 能力者は基本的に知能が高い。恵麻、瑠奈、小春、サラ、美空の五人の子供は特に知能が高い。反対に霊は見えてもさほど能力が高くないメグや玲奈の娘たちの知能はそこそこだが、運動能力が高いくらいで日常生活に支障は出ない。


 知能の異常な発達が、今回の事件を招いた。理解者を得られない人間の奇行。瑠奈たちも一歩間違えた育て方をすれば、ああなる。そんな怖さを彼女たちは秘めているんだ。


「恵麻は自慢の娘だし、私は何も心配してないけど…、瑠奈と小春…それに美空辺りはマッドサイエンティストになりゆるような危うさを持ってるわね。」


 私は真っ先に犯罪者の予備軍になり得そうな、幼稚園児三人組を心配した。それを聞いた恵麻は、


「瑠奈はかなりのバカだし、小春は半分獣みたいなもんだし…、問題は優等生の美空ちゃんだね。ああいう、バカな事が出来ない子が一番、犯罪者の予備軍なの。お母さんは美空ちゃんの姉なんだから、未央さんだけに任せていないで、姉として導いてあげないとダメだよ?」


 恵麻はそこまで言うと、忙しいから、お母さんゴリラは出ていってと追い出されてしまった。


(すぐに茶化す桜子さんは邪魔だと思うけど…、私はいてもよくない?それに私と能力が変わらないはずの麻友をサポート戦力として重宝されると少しだけ…腹立つ。)


 母親ポジションを麻友に取られて、少し嫉妬した私は事務所をムスッとして出ていった。

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