第374話 一番ヤバいのは誰?

 アジトっぽい、研究施設まで来た小春と麻友は侵入口を探っていた。そこで小春の提案で紫音のように扉を破壊すればどうか?と言われた麻友は、壊して侵入する事に成功した。


(あ~あ、やっちゃったよ…。正面突破している時点で、暗殺もへったくれもないね。)


 扉を壊すくらいの大きな音を立てても、人間の気配がしない建物の中。その中を無言で進む麻友、見慣れない物を触り倒して、テンションがおかしい小春は、奥にある頑丈そうな扉を見つけていた。


「ここも壊すの?ドカーンって。」


 超ご機嫌の小春と麻友が扉を触っていたら、普通に開いた。


「あら、開けてくれましたね。では、行きましょうか?」


 麻友と小春が開いた扉の先には、見覚えのある男性が…、


「あなたは誰ですか?」

 

 そう男性に問い掛けられた麻友は、

 

「いえいえ、名乗る者ではありませんが、紫音様に敵意を向けたからには、この世から消えてもらいますよ?桜川さんでしたっけ?」

 

 恵麻が始末して欲しいと行った相手は、美南を追いかけて京都へ来たイケメンの青年だった。

 

「あれ、なんで、分かったの?やっぱり、橘 紫音に接触したのが、マズかったのかな?それとも、わざと殺られて運ばれた施設から、コレを盗み出したのがマズかったのかな?」

 

 彼は黒子川さんの治療施設から、恵麻の忍ロボに関しての製作技術を盗み出していた。

 

(産業スパイ?)

 

「まあ、あなただけですから、紫音様の攻撃を受けて、意識が飛んでも動いていた化け物は。しかも、殺そうとした小鈴様の攻撃を交わしていた時点でアウトです。一般人の体術を向上させる、見えない物質がいくらスゴくても、あの剣術を初見で交わせません。」

 

 忍軍団と小春たちが今まで、操られた人を止めた時は気絶すると動けなかったはずなのに、彼だけが気絶後に手足を切られないように避けた。その時点で恵麻は彼に目を付けていたのかもしれない。

 

「恵麻が言ってましたよ?盗んだ所で、知能の低いサルにはそれを作れないって…。観念したらどうですか?」


 麻友は彼にもう諦めたらと尋ねると、


「なぜ、こっちが負ける感じになっているんですか?か細い女性と狐のコスプレをする子供に何が出来るのですか?」


 彼はそう言うとオリの中にいたヒグマとカバに黒い何かを与えたあと、オリを開けた。


「クマさんとカバさんだ~、可愛い!触っていい?」


 小春が不用意に近付くとクマの鋭いツメが小春に向けて飛んできた。


「その手…要らないのですか?なら、粉々に骨を砕いて差し上げますよ?」


 麻友はクマの背後に回り込み肩の間接を外そうとしたが、触った瞬間に異変に気付き、


「あらあら、本物では無くて、サイボーグですか。体がかなり強化されてますね。では、手足を分解して見ましょうか。」


 麻友は容赦なく、クマの手を人形のように引きちぎった。完全なロボットではないので、痛みがあったのか、悲鳴をあげながら、クマは倒れた。


「所詮は不完全品ですね、金属での体の強化程度では、恵麻の技術を活かせていませんよ。」


 容赦の無い彼女に、


「マユマユ、クマさんが痛そうだよ?可愛い動物には、ハルみたいに優しくしてあげないとダメだよ~。」


 残忍な行動をした麻友の横では、小春を襲ったカバが泡を吹いて倒れていた。しかし、小春を通して私は見ていた。この子がカバに何をしていたか…。


「小春、ダメよ。カバに突進されたからって、相手にして本気でじゃれたら、その子が死んじゃうじゃない。」


 麻友が無意識にカバの体を圧迫させて、失神させた小春を叱ると、


「え~、ママはハルが抱き付いても嬉しそうだよ?泡を吹かないよ?」


 同じ事をしても、母親なら平然としていると話した。


(やめて、私が強化された最強クラスの動物よりも強い怪物だって…バレるじゃない。)


 サイボーグたちを瞬殺された彼は、


「女子供に手をあげるのは、気が引けるんだが、コレばかりは仕方ないよね。」


 彼が小春たちに刃物を向けた瞬間に、


「ウチの優秀な養女と孫娘にそんな刃物を向けないで貰えないかしら?ねえ、人の心ってどこにあると思う?脳かな?それとも…ここかな?」


 突然、桜子が現れて、彼の持っていた刃物に対して、無刀取りしたあと、それを返すように彼の心臓に突き刺した。


「最近ね、能力者の力の源が分かってきたの。精神力、心の強さで力量が変わるの。なのに…なんで、あなたみたいなゴミにそんな強力な能力が備わっているのかを私に教えてくれないかな?」


 桜子はそう言いながら、彼の心臓に刺さったナイフを深く刺さるように押して問い掛けた。彼は何かを喋っているが、肺に到達した刃の影響で上手く喋れない。


「そう、分からないのは、残念ね…。能力者の能力解除には条件があるの。気絶もしくは死。あなたは気絶をしても能力の維持が出来る特殊な体みたいだし、摂理を守らないあなたはこの世にいてはいけない…、サヨウナラ。」


 桜子がそう言いながら微笑むと、


「お婆ちゃん、ちゃんとお腹に刺してよ、介錯するの私なんだからね。」


 刀を持った小鈴が現れて、彼の首を容赦なく跳ねた。しかし、小鈴の刀は肉体を切るものではなくて霊を切る刀。当然、肉体を残したまま、彼の魂は消滅した。


「麻友、警察を呼んだし、説明を頼むわね。」


 桜子はそれだけ麻友に告げると、あっという間にいなくなり、


「この子たちは、どうなるの?」


 片腕が取れて苦しむヒグマと気絶したカバを指して小春が小鈴に聞いてきた。


「マッドサイエンティストの改造を受けた被害動物。当の本人は自分で心臓にナイフを突き刺して自殺。奇行に走るイカれた人間の事件だから、きっと、自然にも動物園にも帰れないわね。最終的には恵麻が引き取るんじゃないかしら?」


 そう言っていると、黒子川さんが現れて、ヒグマに麻酔を打って眠らせたあと、すぐにその場の道具を使い、腕をくっ付ける手術を始めた。


「動物にこんな事をするなんて…酷い奴でござる。改造をした挙げ句、腕を取るなんて、極悪人の所業!」


 と言って、手術をしながら、キレる黒子川さん。


(クマのサイボーグの腕をもぎ取ったのは麻友だよね?全部、犯人の彼の仕業になってる…。)


 死人に口無しとは、この事なんだと思いながら、小春の目で現場を見ている私。警察の到着前に神里家が関わった事のすべての証拠隠滅を開始する麻友。小鈴と小春は楽しそうに黒子川さんのオペを見ていた。


(神里家の関係者は全員、激ヤバ一家だよ。)

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