第373話 発生源の元を絶て

 事件はあらゆる範囲にまで広がってしまった。殺人に至るまでは来ていないが、夫婦ゲンカや交際相手との揉め事が警察沙汰になる事が増えたらしい…。


(やっぱり…、全部、男女関連だ。)


「確実にコレが加害者の理性を無くさせて、暴力沙汰になってるのは間違いない。でも、なんでそこまでして夫婦や恋人の仲を引き裂こうとしているのかが分からない。」


 恋人への恨みの気持ちは分からないでもないが、他人の恋仲を引き裂き続けている犯行理由が分からないと恵麻が話したので、


「いや、理由は無いと思う。幸せな姿に激しい怒りを覚える人間も少なからず存在しているし、取り憑かれた状態の人を行動不能にすることで解除されるくらいの意識洗脳みたいだから、対象者の悪意を増幅する危ない薬物のつもりでそれを産み出し続けてるんだよ。」


 恵麻の作ったペットボトルの中で動いている不気味な何かを産み出している奴は、無差別に他人の人生を平然とぶち壊している。


「思いの強さと狂暴さが比例しているから、片想いに相手の事が好きなほど、事件の大きさが変わる。小春が止めた彼女は、浮気された彼に仕返ししたい思いが、取り憑かれる原因で、未遂で終わったが、電車の線路へ突き落とす凶行へ気持ちを向かわせた。屋根で何をしていたのか?は分からないけどね…。」


 彼女が屋根の上にいた理由は不明だったが、人混みだと、対象者を見つけられないと踏んだのだろうか?それとも…、別の理由があったのかは分からないが、小春たちが駅の屋根で戦闘をしたのが、ウワサになってしまった。


「キツネとウサギが女性を襲ったって…、オカルト記事が出てるし。シャチの超音波ジャミングで屋根の上の音は周囲から遮断したらしいけど、多くの人の視覚は奪えないからね。きっと、高い建物の上から、見ていた人間がいるみたい。」


 電子機器は使用不可にできるため、動画は撮られていないけど、肉眼で見た目撃者の記憶を弄れるわけではない。


「あのシャチは何気にサポート能力が充実しているわ。最初から、暴走する瑠奈のために作られたのよね?」


 製作者の恵麻に尋ねると、


「今回の件で小春もかなりのおバカだと、知ったわ。お母さんの血縁者は親に似て、脳みそ筋肉のゴリラって分かったから、そんな妹を持つ姉の配慮よ。」


 恵麻は文句を言いながらも、手の掛かる妹たちが大好きそう。


「でも、私は賢いゴリラよ?武力制圧は手っ取り早いから、そうしているだけで、本当は話し合いをしたいの。でも、こう言う業界の悪い奴に話し合いって…無理じゃない?」


 最後は腕力制圧の世界だと話した。


「そうね。堕ちた人間に不憫な境遇がある事は認めるわ…。お母さんのやり方は正しいと思う。恵まれなかった環境で育った人は、努力を出来ない人間じゃないの。犯罪者の更正なんて…恵まれた私たちみたいな人間が恵まれなかった人間に言ってるだけの上から目線の気に食わない綺麗事…。人が目標に向かって、努力しようと思えるのは周りの人に助けられて初めて出来る物なの。」


 うちの長女は誰よりも社会的な弱者に寄り添える立派な人間だった。


「恵麻はえらい子ね。お母さんの自慢の娘。これからも弱き人に暖かい手を差し伸べてね。その力で過ちを犯す前に救い出せるような素敵な世の中にしてね。」


 そう言って、娘の頭を優しく撫でると、


「お母さん、いつまでも私を子供扱いしないでよ。私は今回の黒幕を絶対に許さない。使える物はすべて使って、地獄に送ってやる。」


 恵麻は私の手をそっと振り払い、元凶を倒す決意の言葉を込めていた。



 恵麻の言うとおり、多くの不幸な人間を作り出した元凶は生かしておくべきではない。私が身重な体じゃなければ、すぐにでも、恵麻の手足として一緒に追い詰めてやるのに…。



「今日はマユマユなの?」


 小春は抱っこされてる麻友へ問い掛けた。


「私でご不満ですか?小春。」


 彼女はそう言って、小春の頭を撫でていると、


「ううん、マユマユはハルのお父さんだもん。嬉しいの!」


 小春は麻友をお父さんと言って、とてもなついていた。


「女の姿をしているのに、お父さんと呼んでくれるんですね。ふふ、小春はとても、素直で良い子です。紫音様に似て、可愛い。」


 麻友はそう告げると、不敵な笑みで笑っていた。


(怖いよ!麻友。小春を通して、私も見ているんだからね?)


 色々と拗らせた麻友は私が好き過ぎる。私に近付く男は全員殺すって言ってる、怖すぎる女なのだ。そんな、怖すぎる彼女にも普通になつく小春は彼女に抱き締められて、気持ち良さそうにずっと甘えていた。


「見えない相手…ね。姿が見えない相手にどうしようと考えてるの?恵麻。」


 麻友は小春を甘えさせながら、恵麻に聞くと、


「私の知り合いで、お母さん並みに強いのは、麻友の姿をしたお父さんでしょ?なんでも一番を主人に譲る、最強の次席なんでしょ?」


 麻友を最強と知っている恵麻がそう尋ねると、


「いえいえ、従者の私ごとき人間は、主の紫音様には何も敵いませんよ。ただ、他よりかは…少しだけ、強いかもしれませんけど。」


 彼女は謙遜しながらも、腕っぷしにはかなりの自信がありそうだ。


「神里家の女忍なら、暗殺は得意でしょ?この人を始末してね。」


 麻友はその名前を聞いて、何故か、納得していた。そして、麻友は小春を連れて、その人のいるはずと言われた場所へ向かって行った。



 彼女は研究所っぽい施設に着くなり、侵入方法を少し考えたあと、


「紫音様はこう言う時…いつも、どうなさっているのでしょう?」


 彼女は私がやりそうな事を考えたあと、正面の頑丈そうなドアを触ったり、見ていたら、


「紫音ママなら、ドアを壊しちゃうよ?」


 小春は私がやりそうな事をアドバイスしていた。


(ねえ、小春。お母さん…そんな事をしないよ?)


 私がいないからと言って、言いたい放題の状態に、


「そうですね、紫音様はいつもシンプルですよね。」


 麻友は普通にチャイムを鳴らしたり、忍のように屋根などからも侵入したりせず、正面の扉を蹴り破って入って行った。


「マユマユ、スゴ~い。お母さんみた~い。」


 小春はゴリラパワーの母親みたいだと言っていたが、


(麻友、あなたの主人はそんな事をしないのを知っててやったよね?まあ、母親みたいって、小春は喜んでいるけど…。)


 紫音ははおやが大好きな激ヤバ双子(今回は妹)のせいで、悪評がこうして広がっていくんだと実感していた。

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