第361話 忍は完全な縦社会

 恵麻との話を終えた私が事務所を出ると、美南がいて、

 

「あんたも大変ね、血の繋がりの無い子供をたくさん育てるなんて…。まあ、私もあなた抜きでは不安で仕方ないし、恵麻やメグの気持ちが分かるわ。子供を産めば…変われるのかしら?でもな~、実家に戻っても、好きでも無い男と結婚させられるし…。」

 

 良家の娘で結婚が嫌で、母親と慕う私の元へ逃げてきた彼女。私たちと暮らす事で、そんな彼女にも何かの変化があったらしい。

 

「美南の結婚相手だった人って、どんな人だったの?ここに来たんでしょ?」

 

 試しに聞いてみると、

 

「年下の大学生の子よ。私は年上の大人が良いの。」

 

(大学生?そんな子と何故、政略結婚なの?宮司の息子とか、そんな人なのかな?)

 

 精神的に幼くなった彼女は年上の男性を求めていたため、政略結婚から逃げ出して来た。それにしても、何故か…怒っている。

 

「本当にしつこいのよ、ちょっとカッコいいからって、好きだって、こんな所まで来るんだもん。紫音の家は教えて無いから、最近、休みの日はいっつもここで待ってるの。終いには、結婚して一緒に遠くへ逃げようって言ってくるの。」


 カッコいいのは認めるが、大人の安定感を求める彼女の理想とは程遠いタイプの男性らしい…。


(逃避行はダメだよ…。全部を捨てて、みんなを困らせる交際に未来は無いんじゃないのかな?)


 美南の話を聞いて、若者に現実を分からせてやるのも、私の務めだと思ったので、


「うん、分かった。彼が来たら、バッチリと叱って追い返してあげる。」


 美南を安心させるために追い返す約束をすると、彼女は


「助かる~、それじゃあ、私は彼氏の所に遊びに行くから、ヨロシクね~。」


 そう言いながら、手を振って仕事終わりのプライベートを楽しむために白河家を出ていった。


「ちょっと!他に彼氏がいるって、一言も聞いてないよ!」


 妊娠後期の私は急な動きをしてはいけないため、彼女を止める事が出来なかった。


(自分勝手な子だ。恋愛は自由だが、昔の男とのケジメは自分で付けないとダメに決まってるじゃない…。)


 美南は私の説教コースが決定した。


 子供のように戻って、情緒が安定しなかった美南も、私たちと半年以上も暮らせば、体は大人だし、元の美南に戻りつつあったが、あの状態を見る限り、精神はまだ中高生辺りで戻りきっていない事が分かる。


 幼児化の影響は大きく、刑事をしていた頃に培った鋭い動きや大人としての自制の仕方などをすべて失っている状態。体は恵麻の特効薬で戻したが、脳の状態が記憶以外の部分をリセットされていて、あの年齢のわりにはかなり落ち着きが無い。


(う~ん、叱っても…体と記憶は完全な大人だから、あまり効果が無いんだよね~。精神年齢を元に戻す方法があれば…良いんだけど。)


 半年前は子供たちと遊んでいた彼女も、今は男女交際に夢中。着実に大人に戻るステップを踏んで来ていた。


「仕方ない…、瑠奈とメグを連れて帰ろう。」


 すぐにメグは見つかったが、瑠奈が見つからないため、


「メグ、瑠奈がいないんだけど…。」


 我が家で一番の従順な娘に聞くと、


「瑠奈ちゃんならオバケと会話したあと、家を飛び出して行ったよ?」


 メグが言うには、見えない誰かと会話したあと、急に外へ出ていったと話してくれた。


(瑠奈、ちょっとは大人になったと思ってたのに…。また、お母さんが誰かに怒られるじゃない。)


 私が困った顔をしていると、


「紫音ママ、メグのペットが探してくれるよ。ジュリアンく~ん。」


 メグが聞いた事の無い名前を呼ぶと、天井から透明な何かが落下して来た。


「カメレオンって言うんだって~、恵麻お姉ちゃんがくれたの。壁と同じ色に変身する忍者って言ってた。可愛いでしょ?」


 そう言って、メグが見えない何かを抱っこすると、ブツブツしている爬虫類が姿を見せた。それを可愛いとメグは言っているが、私はその生き物を可愛いとは思わない。


(メグは爬虫類が好きなの?確かにシャチやウサギよりも、忍ロボっぽいけど、かなり動きが鈍そうだし…役に立つのかな?)


 姉の恵麻は妹の好みに合わせたロボを側に居させている。小春はウサギ、メグは爬虫類、瑠奈は姉に好きな動物を聞かれて、あの子の発想はアホな子だから、世界で一番強い生き物とか言ったのだろう…。


(一番強いのは、天敵がいない海の王者のシャチって事?)


 猛禽類は木の上や空にいる、ウサギは草に隠れる夜行性、シャチは普段は水の中、カメレオンは変色して溶け込めるし、全部が忍向き?な傾向にある事を考えて、美南の専属忍が何かを気にしていると、


「ジュリアン君、瑠奈ちゃんを捕まえて来てね。」


 潜入捜査専門っぽい忍ロボ4号にメグがお願いして、地面に置くと、器用な舌で庭の扉を空けて、隣の家の屋根にジャンプして、夕暮れ色に同化し消えていった。


(今までの変な奴らに比べると意外に普通だ…。それにかなりの跳躍力もあるし、とても忍者っぽい。)


 筋トレシャチや喋るウサギに比べると普通に忍らしい事をするカメレオンのジュリアンに驚きつつ、瑠奈を捕まえる指示を出したら、シャチが怒るのでは無いのかを聞いてみると、


「う~ん、何かね、恵麻お姉ちゃんが言ってたけど、あの子たちには不戦契約があるから、命令がかち合ってしまうと、マスターか、グランドマスターに従うらしいよ?」


 メグはカメレオンのジュリアンを渡された時に説明を受けて、争わないように意見の相違があれば、マスター?って言う人たちに忍ロボたちは付くらしい。


「紫音ママがグランドマスターで、マスターはニンニンさん。」


 メグは最終的にはロボが私に従うようになっている事を話してくれたが、


(私がグランドマスターで、マスターのニンニンって誰?)


 ニンニンって言う人物が私がいない時などには指令を与えているそうだが、それは恵麻では無いらしい。


(取りあえず、今の忍ロボは4号まで増えたため、縦社会にしたって事ね。そして、私の命令には逆らわないようにプログラミングするようにした。)


 ウサギに一度、反乱されて恵麻が対策を打った。ニンニンと呼ばれる、統率する人物を雇い、ある条件が重なると母親の私が最優先になるという組織化を実施した。


(私が命じる事も出来るんだけど、それは意見の相違が起こった時で、普段は子供たちの命令を聞くのかな?う~ん、よく分からん。)

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