第360話 恵麻は心配症の長女

 瑠奈は小春のお陰で、無茶苦茶な事をあまりしなくなった。反対に今の小春は末っ子パワーを発揮し始めた結果、私は恵麻に呼び出された。


「最近、小春が無茶な行動をしているわね…。瑠奈がウザ絡みして来なくなったのは、私的には嬉しいけど、少しは小春を叱り付けた方が良いんじゃないの?」


 ため息を付いた恵麻は、


「お母さんの遺伝子はロクな子を産まないのね…。今度の子も心配だわ。」


 私と妹たちを遺伝子レベル批判した。瑠奈が大人しくなれば、小春がうるさくなる。前とは真逆の双子関係に姉として、対応に疲れるから、何とかしろと言われてしまった。


「元は瑠奈だけだったのが、二つの人間に別れたのが影響なんだと思うの。小春が陽気なキャラになれば、瑠奈は静かで落ち着いたキャラになる。瑠奈も以前のようにしてても、楽しくない自分にきっと、苦労していると思うの。」


 私は以前の瑠奈とは別人のようになった事を話すと、


「体の組織を能力で成長させたのも、かなり影響したみたいね。体を調べたら、成長した形跡と急激な細胞分裂をした影響で、脳が発達してしまったのよ、案外、私よりも早く初潮があるかも…ね。」


 以前から瑠奈を検査していた恵麻は、瑠奈の内臓組織や女性としての成長がかなり早い事を掴んでいた。それを踏まえて私に、


「取りあえず、あの子には早死にしたくないなら、能力を使わないように言っておいたから、お母さんからも釘を刺しておいてね。あとは小春だけど、アレの元は瑠奈とは違って人間じゃない。


 成長も早いし、2年もあれば、大人になるんじゃない?体は人間だけど、魂は神様に近い存在だから、人間の子を宿す事は無いと思うわ。アレは転生して別の入れ物に入る生き物だもん。」


 小春は瑠奈以上に成長が早いが老化は緩く、若い成人の期間が人間よりもはるかに長くなる事を話してくれた。


「うん、今度の誕生日で5歳になるばっかりなのにね。小春は出会って、半年ぐらいになるのかな?それを知っているのは私だけなんだけど…。」


 みんなの記憶は私以外、完全に改ざんされていて、小春は瑠奈と一緒に生まれた事となっていた。恵麻は身体チェックをしているため、記憶が無くとも、私の言うことは本当の事だと、理解してくれていた。


「これからはあらゆる所で、姉妹の差が出始めるわ。小春は背も伸びて、顔も大人になる。小春の自立を促したお母さんの判断は正しかったって事ね。」


 現在の小春はすでに成人となるステップを踏んでいて、心が強くなっている結果、明るく活発な瑠奈を上回った。


「恵麻、妹たちをいつも心配してくれてありがとう。寂しくなったら、いつでもお母さんに甘えてね?」


 そう言いながら、我が家の長女の頭を撫でて褒めていると、


「ま、もうすぐ…もう一人増えるし、産婦人科の検診結果も見せてもらったけど、男の子で特殊な能力の引き継ぎは弱いから、尻尾が生えてこなさそうなのが、幸いね。ただ…。」


 恵麻は口をつぐんだあと、


「あの激ヤバ女児との縁組だけは避けないと…。」


 恵麻はサラとの婚姻関係に持って行きそうな、祖母、桜子の動向に警戒をしていた。


「血が濃すぎるし、あり得ないでしょ?いとこの関係だよ?」


 血縁が濃すぎるから、まず、あり得ないと言ったモノの


(あり得ない事ばかりするもんね、あの人。私の魂だって…。)


 紫音の体で血族の子供を産まされている事実に気付いた私、


「サラをわざと私に対立するように人格教育をして、争わせるんだもの…。何度もいろんな勝負を挑まれて、あの家では、ゆっくりと過ごせないわ。」


 恵麻はオフでも、ここで仕事をしている方がマシだと言って、家出状態だ。


(二人で暴れて、神里家の武道場を破壊したんだよね。木材建築とはいえ、倒壊するほどの力って…。)


 サラは瑠奈より年下だが、同等…もしくは、それを上回る力を持っているようだった。どんな力をしているんだろうと考えていたら、


「大丈夫、サラはお母さんや瑠奈みたいな…腕力ゴリラじゃないわよ?忍者が持っているような短刀で私を殺そうとして、支柱を切っただけよ。」


 さりげなく、恵麻はサラに殺されかけた事を話していた。


(いや…、その方が怖くない?なんで、3歳の女の子が、母親譲りの剣術を持っているのよ。)


 刀と言えば、小鈴だ。その娘のサラが木の支柱を真っ二つにするほどの剣術を体得しているって事に驚いていたが、それを踏まえた条件で父親を選んだって事だろう。


「そう、お母さんの体が選ばれたのは偶然じゃないの。瑠奈の大人に成長した姿はお母さんよりも体格が良かったでしょ?継承型の能力の引き継ぎは血統がすべてなのよ…。」


 恵麻は私の考えを先読みして、そんな事を呟きながら、悲しそうな顔をしていた。


(橘のお母さんは娘の紫音の出生については語ってくれない…。転生継承の恵麻は普通の両親から生まれているし、両親の死がきっかけで彼女に強力な力が目覚めたあと、同等の力を持つ私と出会った。何か、嫌な事を思い出したのかもしれない。)


「前に瑠奈が言ってたの、恵麻お姉ちゃんは寂しがり屋だから、誰よりもお母さんが好きなんだ…って。」


 私はこの子との思い出を思い返すように彼女を優しく撫でると、いつもは照れて嫌がるはずの恵麻が、今日は素直に甘えてくれた。


 しばらくは大人しくしていた恵麻が急に思い出したかのように立ち上がり、


「あっ、そう言えば、美南のフィアンセとか言う奴がお母さんを尋ねて来たわ。橘の家に美南が住んでいる事は伝えていないから、美南は相手を嫌がってるし、あとを付けられたり、住んでいる家がバレないようにしてあげてね?」


 東京からやって来て、ストーカーみたいな状態になっているらしい。


「私がお腹が大きくなって、白河家へ来ないうちに色々な事があったのね…。分かってたわ、恵麻。美南と話しておく。」


 母親みたいな立場のため、話を聞かないといけない私は美南と会ったら聞いてみると告げて事務所を出た。


(恵麻は心配症なんだね…。妊婦で機動力が無い今の私は、家によくいるメグの面倒ばかり見ていたし、美南は大人だから、あんまり話せていなかったよね。)


 お腹が大きくなったから、暴れまわれない私にできるのは言葉で聞いてあげる事ぐらいだし、たまには母親らしい事をしなくちゃ…ね。

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