第359話 ムードメーカーの娘

 私は念のため、白河家の職場に行き、恵麻に小鈴の娘、サラの事を話した。


「ああ、瑠奈より100倍生意気な小娘の事ね。私も挨拶をするなり、わたくしはあなたを認めないって、キレられたわ。神里家の血を引かない私やお母さんにはそう言う態度を取るのね…。アレと挨拶を済ませた瞬間、私は親類なのに断絶状態よ。」


 恵麻はすでにサラからの宣戦布告を受け取っていたが、ガキの相手はしないと言って、無視したら、彼女に断絶宣言されたらしい。


「あのばあばの息が掛かった人間が育てると性根が腐るのよ。それを伝えたら、急に怒り出して、武道場部屋が全壊したわ。私のお金で建て直したけど、アレはかなりヤバい女よ。」


 我が家の長女とサラはすでに交戦済みだった。結果は暴れたサラのせいで部屋が倒壊したので、引き分けらしい…。


(明らかに二人は性格の相性が良くないもんね…。恵麻の上から目線が絶対、気に食わなかったのよ。)


 怒り出すと制御が効かない辺りは、まだ子供だって事だろう。そんな事を考えていた私に、


「アイツ、来てるわよ。私の事が嫌いだから事務所には入って来ないけど…。瑠奈やメグに挨拶しに来たんじゃない?白河家を壊されたく無いなら、行ってみれば?」


 サラが瑠奈に会っている事を聞いたので、心配になり会いに行くと、


「そうか、我が妹の小春がそなたにそのような事を申したのか?さすがは我が妹よ。」


 チョンマゲのカツラを被った瑠奈は殿様のような喋り方をしながら、サラと話していた。そして、浴衣を着て引っ付くメグに対して、


「やはり、良いおなごじゃ。良い尻をしておる。」


 そう言って、お尻を触るエロ殿様をしていた。


(変わった、おままごとだね…。流行ってるのかな?)


 悪ノリで楽しそうな瑠奈とメグ、最近の小春がお笑いに目覚めたため、瑠奈は常にボケる事を強要されて、完全に迷走していた。


「まあ、お殿様!お戯れを。」


 メグもノリノリでお尻を触られながら、遊女役を演じていた。


(瑠奈たちが、アホな遊びをしているよ…。小春の漫才を断って逃げたくせに何をしているの?初めて会う、3歳の親戚の前で何してんのよ、瑠奈…。)


 サラの前でテンションがオカシイ殿様を演じる瑠奈。そんな姿を見せられたため、


「…。」サラは無言を貫いた。


(確実に反応するかどうか困ってるよ…。)


 私も見ていて、どうしようって思うため、不憫な彼女たちに、


「瑠奈、メグ。サラちゃんが困ってるじゃない。やるなら、現代風のおままごとをして遊びなさい。」


 私はバカな行動を取る瑠奈とそれに付き合うメグに普通にしなさいと叱った。


「紫音ママ!お帰り~。」


 甘えん坊のメグは私の近くに来て、着ていた浴衣を見せびらかして来た。


「メグ、可愛いけど…、今は冬だから着替えて来なさい。それから、バカな瑠奈の相手をしてくれてありがとう。」


 メグの頭を撫でて褒めたあと、着替えを促すと、


「うん!分かった~。戻って来たら、メグのお話しを聞いてね、ママ。」


 メグは大満足して、部屋を出ていった。それから、私がサラに謝罪したら、彼女は無言で瑠奈のチョンマゲを見たあと、


「フッ」と少し笑いながら、走って部屋を出ていった。


(もしかして、ウケた?サラちゃん…笑いを堪えてたの?)


 明らかにセンスの無い、瑠奈のお殿様遊びは親戚のサラにはハマったようだ。二人きりになった部屋で瑠奈はカツラを取ったあと、


「恵麻お姉ちゃんにヤバい親戚の女の子がいると聞いたんだけど、本当にヤバいのは、瑠奈にこんなモノを渡して困らせる、コハるんだよ。」


 チョンマゲのカツラを渡された瑠奈は小春に笑いを強要された結果、この寸劇で親戚の女の子と挨拶をする事にしたらしい。


(私から手が離れた小春がどんどんおかしくなって来ている…。)


「強要されたからって、ノリノリで楽しそうにお殿様をしている、瑠奈も十分、ヤバいと思うよ?」


 私の産んだ娘は変な子になりやすい傾向にある。きっと、遺伝子レベルの問題なのだ。


「瑠奈から見たら、お母さんもヤバいよ?恵麻お姉ちゃんの言うことは正しいって、すぐに信じちゃうもん。人が良いから、すぐに家族を増やしちゃうし、変な所は全部、お母さん似なの。」


 瑠奈は私の血を引いているから、小春がああなったと言って、自分だけがまともだと思っている私に抗議してきた。


(うん?そのニュアンスだと、恵麻が何か隠している事があるって聞こえるけど…。なんだろ?)


 神里家に残った恵麻はあの桜子に後継者だと言われていた。私に無くて恵麻にある、何かを見出だしたからだ。あの子はウソを付くのが上手い。世渡り下手な私とは段違いだ。


「ま、恵麻が何を考えていたとしても、構わない。悪いことをしたら、未然に防ぐような過剰な事をせずに、叱ってそれ以上を止めさせるのが本来の親の役割だよ?瑠奈、あなたも過ちを犯せば…分かってるわね。」


 私は5歳の瑠奈に対して、脅すように話すと、


「お母さんの魂は桜子お婆ちゃんの子だもんね…、だから、血の繋がる瑠奈には超厳しいもん。」


 間違えた事をすれば、母親に殺される可能性もある瑠奈は子供たちの中では一番、母親を恐れている。瑠奈が甘えて来ない理由は誰よりも私が怖いからだ。


 私の教育方針は過剰な手を差し伸べない事。確かに子を守る親は美談になる。でも、それでは子は育たないからだ。衣食住は用意するが、私は物を買い与えたりしない。未央の子育てを真似ている。


 だから、瑠奈は自分で恵麻の手伝いをしてお駄賃をもらっているし、小春はそもそも、一銭も持っていない。私はそれぞれの親から、金銭援助を断っている。


(余分な金があると人は弱く育つからね。)


 瑠奈は私の指示通り、必要以外のお金をすべて恵まれない子供たちへ寄付をしていた。大金持ちから一転して貧乏なウチの子になったため、おやつを作れと言って、いつもウルサイ。


「良いな~、コハるんはサラちゃんのお母さんとお出掛けしたんでしょ?瑠奈は大人しく、ここで遊んでるのに…ズルい。」


 橘の実家で笑いを要求し続ける小春から逃げた瑠奈は、白河家へ避難していた。チョンマゲを被ったままで白河家に来ると、そこには小学校帰りのメグがいたので、二人で仲良く遊び始めた。


 そこに恵麻と家督を争う、危険人物のサラが現れたため、気が狂っていたお殿様演技をして、無益な争いを避けたらしい。


(弱者は大変だね、瑠奈。)


 人に優しくて、いつも損をしている我が家の次女は最も私似なのかもしれない。

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