第358話 良家のプライド
ドラマ撮影を終えた私が麻友の元へ行くと小春がいなくなっていた。どうやら、小鈴と意気投合して、娘のサラちゃんを麻友に任せて、久々の日本を楽しみたいらしい。
(小鈴はまだ22歳だもん。自分の子供と距離を置く時も必要だから…ね。)
もちろん、10代後半での出産は細胞が若い関係で、健康な子供が生まれやすい。それに今の若い女性の精神が付いてくるかが、最大の課題だ。小鈴みたいな精神が強い女性は早期の出産に向いているが、男性に寄りすがった結果で妊娠をしてしまったような、出来ちゃった妊娠はかなり危険性を伴う。
児童遺棄の事件の大半が、酒に酔って覚えてないうちにほぼレイプみたいな形で、相手が分からないとか言う事件もよくある。それくらい、男女間での性行為のリスクが違うのだ。
(瑠奈が出来た時、私も寝ている間に夫から求められて、成り行き任せにした結果だった。つまり、私的に子供はまだ先の予定だった。そして…、お腹の子も。)
私の二度の妊娠はどちらも子供が欲しいと望んでいたわけではなくて、相手の行動に断る事が出来ずに…そのまま、行為に至った。
「ねえ、麻友はなんで…許してくれるの?」
押しに弱い私の事を責めないのかと彼女に聞くと、
「紫音様はお忘れになってます、私はあなたに忠誠を誓ったんです。主の責はすべて私の不徳の至らない点にあります。だから…、更なる修行を経て、再び、あなたに支える事に致しました。」
彼女は覚悟を決めたかのように私に告げた。
「なるほど…、恵麻の忍好きはあなたの影響ね、麻友。私以外の家族全員に忍ロボを与えて、支えさせているもの。」
恵麻は麻友の忠誠心ある態度や私と麻友の主従関係に本気で憧れていた。そして、恵麻の近くには家族全体の伝達係をする猛禽類の鷹っぽい鳥ロボがいる。次女の瑠奈には筋トレ好きのシャチ、三女の小春には喋るウサギと言ったようにそれぞれに見合った護衛が付いている。きっと、美南やメグにも、まだ見ぬ、新たなロボを作って配備させているだろう…。
(それぞれに好きな動物を聞いて、作ったのかな?)
私と麻友の関係は主と忍のような主従関係。例えそうでも、私はいつも見てくれている麻友の事が好き。そんな気持ちを込めながら、私より少し背の高い彼女に優しく微笑むと、
「可愛いですよ、紫音様。やっぱり、禁断の恋ほど、萌えるモノは存在しません。今後、浮気は許しません。あなたに男がすり寄ってきたら、全員を殺します。」
物凄い事を宣言して、彼女はほっぺにキスをしてくれた。
「なぜ、わたくしのお母様は紫音様に負けたのでしょうか?」
私と麻友のイチャイチャした関係を見ていた、小鈴の娘のサラが急に流暢な日本語で喋りだした。
(この子…、こんなに喋れるの?今、3歳だよね?最近、5歳になった瑠奈や私が知識を与えた小春よりも上って事?)
女の子は父親に似るとはよく言うが、彼女は小鈴よりも優秀な人間なのは確定だった。
「小鈴様やサラ様は神里の正統な血筋なので、私みたいな紛い物の養女が叶うはず、ありません。実際に体術では小鈴様に上回る者は…紫音様以外、存在しません。」
さりげなく小鈴を立てる麻友を見て私は、
(よく言うよ、昔、小鈴が私に刀を向けた時、着物姿のままで羽交い締めにして骨を折ろうとしたくせに…。)
底知れない実力を持っているのにそれを隠す、そんな麻友に目を合わせると私の事は言うなと圧を掛けてきた。その後、サラの母親がかなり優秀な事を話したが、この世界では、上には上がいる事実がある事もキチンとサラには対して話していた。
(最早、麻友が母親だよね。小鈴は遊びに行っちゃったし…。)
それを聞いたサラは、
「だいたいの力関係が分かりました。では、紫音様の養女で跡取り候補の恵麻様から、仕留める事に致します。決闘はどのくらいの時期にすれば良いかしら?」
私たちに向かっては何故か、好戦的な3歳のサラの発言に麻友は、
「そうですね…、12年後なら、サラ様も元服なされますし、その時期でよろしいのでは、無いのでしょうか?」
(麻友…、元服って、いつの時代の話なの?それから、なんで、さりげなく決闘する事を許しているの?)
麻友は15歳になるまでは実力的に決闘をするべきではないとサラに話すと、
「では、麻友、12年後に場を作ってもらえますか?曽祖母さまの…本流のわたくしが外様の嫁、紫音様の娘たちに負けるなんて、あってはならない事ですもの。三姉妹を順番に仕留めて差し上げますわ。」
サラは直流の血を引く自分が養女の恵麻や娘の瑠奈たちよりも優れている事を証明したいらしく、12年後に決闘をすると言い出した。
(本流?外様の嫁?さっきから、いつの時代の事を言ってるんだろ、二人とも…。)
サラは娘の代で私の娘の瑠奈に勝って、母親としては小鈴の方が優秀だと、直流の本家として、世間に知らしめたいらしい…。
(サラちゃんは悪魔の曽祖母に似て、とてもプライドが高いのね…。でも、頭が良いから、少しだけ、ウチの恵麻に似てるわ。)
彼女の言い方をすると、何の血の繋がりを持たない恵麻は跡取りには論外だろう…。
「では、紫音様。ごきげんよう。」
私へ別れの挨拶をしたサラは、麻友に抱っこを要求したあと、二人で神里家実家の方へ帰って行った。
(3歳の女の子に我が家は宣戦布告されたよ…。)
見た目も中身も気品に溢れる、小鈴の娘はまったく母親に似ていないので、子育ては、麻友に教育を任せていた事は明白だった。
(さすが、お嬢様。自らの子育てはしないのね…。)
自身は出産するだけで、海外へ行ってしまい、サラは日本育ちのようだった。小鈴の子供なのに、異常なくらい麻友になついている。これでは、麻友がすべて育てたようなモノだ。
(だから、麻友は神里家に住んでいなかったのね…。)
私はもちろん、桜子以外の神里家のメンバーはサラの存在は誰も知らなかった。小鈴は母親の鈴花にすら、サラ産んだ事、その存在を知らせていなかったようだ。
(闇過ぎるよ、サラみたいな知らない血族者がいたり、養子とか…次々と新事実を知ってしまう。)
今回の事で神里の家は、優秀な血族者の輩出するために手段を選ばない部分があって、そのトップ桜子の闇は深い…、その事を改めて知った出来事だった。
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