第362話 ハイスペックな彼氏

 忍の組織化、そんな事を考えていると、玄関のドアが空いて、


「紫音、まだいる?私の彼が紫音に挨拶をしたいって言うから、待ち合わせは家にしたんだけど…。」


 彼氏とやらが、私に挨拶をしたいと言ったため、待ち合わせ場所を変更する事にした美南がすぐに帰って来た。私はそんな彼女に、

 

「ねえ、美南。恵麻に好きな動物は何かを聞かれなかった?」

 

 そう聞くと、

 

「ああ、年上のダンディーな執事みたいな人が好きって言ったわ。それが何?」

 

 美南は好きな動物を聞かれて、年上の人間の男と答える。そんなヤバい答えを言う奴だった…。


(もしかして、メグの言っていた、ニンニンって…。)


「遅れて申し訳ござらぬ、美南殿。」


 彼氏とやらが玄関の扉を開けずに入ってきた。


(扉を開けずにどうやって入ってきたの?それに何故、着物?)


 着物を着た若い男性がどこから入ったのか知らないが目の前に現れた。そんな忍者っぽい行動を取る彼は、


「紫音様、御初にお目に掛かります。拙者は黒子川くろこがわ しのぶと申します。」


 彼は自己紹介してくれた。


(偽名だ!絶対に偽名だ!)


 明らかに不自然な名前のため、


「え~と、本名は?」と思わず、聞き返した。


「いえ、神里家より頂戴した名前ゆえ、そう名乗らせていただいております。」


 そう言って、彼は本名を名乗ろうとしなかった。


(怪しすぎるよ~。よし、質問を変えよう。)


「あの~、失礼ですが、何をしている方ですか?」


 怪しすぎる彼の職業を聞くと、


「拙者は忍術を極めし者ゆえ、忍をしております。」


 私が求める物と、質問の答えがまったく違っていた。呆れた私は、


「美南、この人のどこが良いの?私…全然、分からないんだけど…。」


 服装、言葉使い、コミュ力不足。すべてにおいて、基準とかけ離れている人のどこが良いのかを聞くと、


「彼は寡黙なの。でも、いっつも側に居てくれるし、何かがあれば、助けてくれるの。」


 美南は答えてくれたが、


(他の忍ロボと同様だね。主従関係だから…そうなるんだよ?)


 結局の所、美南は都合の良い男を求めている事が分かった。


「あなた…恵麻に雇われているのね?月いくらで美南の彼氏を始めたの?」


 雇われ忍者の彼に尋ねると、


「紫音様、拙者は美南殿が眠りしあと、恵麻殿のからくりたちと共に諜報活動及び、からくりたちの整備を請け負って、働いております。」


 彼は恵麻の作ったロボたちのメンテナンス業で生計を立てているらしい。


(まさかのメカニック?なのに忍者?)


 意味の分からない人に言葉を失っていると、


「紫音様、申し上げたい義があります!海丸に菓子を与えぬよう、瑠奈殿にお伝え下さらぬか?あやつは何でも食すが、これ以外を食べさせてはならぬゆえ、よろしくおたの申し上げまする。」


(海丸?ああ、シャチね。やっぱり…お菓子を食べさせたらダメなんだ。)


 彼は私に瑠奈のロボにエサを与える、アホな行動を止めさせて欲しいと言って来た。そのあと、彼が変なカプセル錠薬を取り出すとメグが、


「ママ、そのお薬、ジュリアン君のおやつだよ?恵麻お姉ちゃんが定期的にくれるの。お薬以外は好きじゃないから、食べさせたらダメって、お姉ちゃんとニンニンに言われたもん…。瑠奈ちゃんにも同じ事、言ってるはずだよ?」


 メグは姉に言われたとおり、ロボには食べ物は与えていない事を話した。


(メグと小春はちゃんと守ってるのに、瑠奈は言い付けを守らないって事?飼い主が瑠奈なら、従者ロボも少しおバカなんだ…。)


 瑠奈は、色々な部分でおバカだから仕方ない。けど、高級なシャチが壊れて、修理代を私に請求されると困るので、


「分かった、瑠奈にはキツく言っておくわ、あなたがロボを統括する人ね。まあ、主従関係の恋愛は自由だと思うし、私は構わないけど…。」


(私と麻友も拗れてるし、私は人の事を言えない。)


 美南との交際に関しては、本人に任せているため、関与しない事を話すと、彼は首を振って、美南の方から一方的に言い寄られてしまっている事を話してくれた。


(そんな事だろうと思ったよ…。主の方は尽くしてくれる行為を恋心と勘違いしちゃうし。)


 私も美南と一緒。すぐに人を好きになっちゃうタイプだから、好きな人に関係を迫られたら、OKしちゃう。でも、彼は本物の忍っぽいし、仕事人間って感じを出してるし…、万が一は無さそう。


「ねえ、美南。彼は仕事であなたやメグたちを守ってるの。だから、自分だけが特別って事じゃ無いのよ?分かったなら、普通の男を好きになりなさい。」


 私は美南に、彼から好きになることは無いから、それが嫌なら、諦めなさいと告げた。しかし、


「嫌よ!彼は私のすべてを把握して、食べたい物は用意してくれるし、欲しい物はプレゼントしてくれる。足りない物もすぐに手配してくれるの。」


 すべてが理想な彼の事を好き過ぎて、周りが見えない美南は心酔していた。


「これは責任を取らないとね…、君の上司は恵麻でしょ?私は恵麻の母親だから、君にこうやって圧力を掛ける事も出来るんだけど…どうする?」


 私がそう言って彼に圧力を掛けると、彼は「御意。」と一言だけ答えた。


(交際は成立したけど…、彼にとっては任務の一つなんだよね~。)


 ドット疲れた私は、「あとは二人で話し合いなさい」と告げて、自宅へ帰ろうと応接部屋を出ると、小春と小鈴に抱えられた瑠奈が勢揃いでこっちに歩いてきた。


(瑠奈、もう、捕まってるよ、メグのカメレオンは出来る忍なのね…。)


「ちょっと、紫音。鷹が瑠奈ちゃんを連れてきたけど、どういう事?」


 どうやら、瑠奈は恵麻の鷹に捕らえられて、近くにいた小鈴の元に届けられたらしい。


「お母さん、任務!一緒に来てよ!」


 捕まっても懲りない瑠奈は私に任務と告げてきたため、


「そんなのは恵麻に頼みなさい。ドラマを撮り終えたお母さんはこれから、産休で休みよ。」


 出産予定日まで、あと数ヵ月に迫った私は明日から産休だと告げると、


「む~、仕方ない。コハるん!姉妹で事件を解決だよ!」


 私に協力を断られた瑠奈は小春に声を掛けると、


「かまへんで、ルー姉。やったろやないか。」


 瑠奈は妹とハイタッチしたあと、小鈴の元へ行き、


「小鈴ちゃんも来てね?保護者がいないと忍軍団に拐われちゃうから。」


 小鈴まで、任務とやらに抱き込んで三人でどこかへ向かおうとしたため、私は止めようとしたが、


「私に任せておいてよ、紫音。名探偵の小鈴様が事件の謎を一瞬で解いてあげるわ!」


 私の言う事を完全に無視して、三人で女子会みたいなノリで、そのまま出ていってしまった。


(まったく、どいつもこいつも…。)

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