第355話 誰もが納得する家族とは?

 小春の立場になって、初めてメグが求めている物が分かった私。メグの願いを叶えてあげるため、マリアにある相談をしていた。


「自分、何を言うとんの?頭がおかしなったんか?」


 相談内容を聞いてもらうと、彼女は頭がおかしいのでは?と言ってきた。


「本気だよ?今日から、ハルのママはマリアになるの。だから、娘のようにハルを愛してね?」


 そう言って、私はマリアの事をママと呼ぶようにした。それを見ていたメグは何も反応しないが、紫音はこの事に困惑していた。


「どうするつもりなの、小春…。お母さんが嫌いになったの?」


 マリアの事を母親と呼ぶ娘に困り果てた様子だが、一旦は反抗期の娘と距離を取る選択をして、離れるように去って行った。


「紫音の母親の本能が小春とメグに差を付けとるっちゅう事なんか?」


 立ち去った紫音には、小春への過保護な理由、それは…、


「そっ、悔しいけど…、紫音だった私は、小春を思うあまり、心の中で血の繋がらないメグを差別していた…。マリアが面倒を見てくれているから、メグの事を任せきりにして、かなり寂しい思いをさせていたの。」


 仕事や子育てに忙しい私の優先順位は、まだ4歳で手の掛かる小春の事が一番だった。小学生のメグは二の次。ある程度、自主性がある瑠奈たちの優先順位はもっと下だった。


「でも、しゃあないやん。もし、複数の子供がおるんやったら、一番年下の子や手の掛かる子を優先するのは…。」


 マリアは末の子供を優先するのは仕方ない事だと言っていたが、


「それが、複数の子供を持つ、紫音として過ごしていた、私の甘さだったの…。紫音だった私は、意志疎通が取りにくいメグの事を軽視していた。いつも甘えてくる小春ばかりを可愛がっていた。」


 そう言ったあと、


「小春になった私は紫音から嫌われる努力をして、親と子の依存関係を解消する。私が紫音に戻った時、そんな小春の事をマリアに任せたいの…。」


 紫音はどうしても、子供の願いに甘くなるから、それを辞めさせたい事を話した。


「まあ、紫音は考えも無しに子供を引き取ってくるような、甘ちゃんやからな。自分の力量以上を超えた事はしたら、あかんちゅう事や。反省せえよ。」


 彼女はメグを引き取った事は出過ぎた事をしていると言って、寂しい思いをさせたんやったら、反省をしろと言って、私を叱ったあと、


「まあ、ウチはあんたの事が好きやさかい、手伝ったるわ。ウチの娘になるんやったら…、容赦せえへんぞ?」


 そして、小春の私は、いつもマリアと一緒にいる事に決めた。そんな取り組みを始めて、約三ヶ月が過ぎたあと、小春だった私は母親の紫音と完全に距離を取り、マリアに関西人の生きざまをその体で学んだ。そして、妊娠でお腹が大きくなり、違和感が日に日に出始める頃、紫音の体に替わって、元に戻った。


 魂の移動は親子間限定だが、九尾の狐の能力を使えば、わりと簡単に出来てしまい、そこから…さらに二ヶ月が過ぎた。



「コハるんは変わったよね…色々と…。」


 瑠奈が妹の小春にそう聞くと、


「ん?ハルのどこら辺が変わったん?ルー姉?」


 マリアと一緒にいる小春の言葉使いは関西弁になってしまっていた。


「う~ん。姉としては複雑な気分だよ…。ルー姉って言われるのも、何だか、馴れないし…。」


 正直、変わり果てた妹の姿を見て、とても複雑そうな瑠奈に小春は、


「ルー姉はつまらんわ。そう言う時にはハルにな…、なんで関西弁になっとんね~ん!って言うわな。これやから、ルー姉の帰国子女気取りはつまらんねん。」


 小春は関西色に染まりきっていた。そんな小春は自立した母親の私に、


「オカンも言うたれや~、師匠の弟子なったら、笑いのすべてを教えてくれるから、ハルみたいに弟子入りしたらエエって…。」


(私、小春にオカン呼ばわりされてる…。マリアが師匠なの?)


 娘がこうなったのは、そう思い込ませた母親の私のせいなのだが、


(小春をマリアの娘にさせるって、決めたのは私の判断だったけど、ここまで人間性が変わるとは思わなかったよ…。)


 魂が自分の体に戻った小春は、母親から自立した関西人としての誇りこそが自分の生きざまと思い込み、こうして、ハデに明るい少しユルい性格と私の行いの結果で変わってしまった幼稚園でのトップの立場を得たのだ。



 でも、妊婦の紫音に戻った私には、


「紫音ママ!赤ちゃんはいつ生まれるの?メグはもうすぐお姉ちゃんになれるんだね!」


 ずっとメグが小春になりたい理由は、小春の立場が欲しかったからだった。小春をマリアに任せたあと、私は心に傷を持つメグを自分の娘のように甘えさせて、言葉を取り戻させた。


 最初は喋れなかったメグも考えが分かるようになった私が彼女の気持ちを理解して徐々に閉じた心を開かせた。そのあと、恵麻の時のように、本当の娘として彼女の存在を…、居場所がここにある事を分かってもらった。


「メグ。お腹の子が産まれたら、あなたはお姉ちゃんよ。私には恵麻たちもいるけど、私とお腹の子にはメグが必要なの。」


 姉になったら、他の姉たちと同様に赤ちゃんを見守って欲しい事を話したら、


「うん!紫音ママ。赤ちゃんはメグたちに任せてね。」


 どの子も私が育てると明るい前向きな子になってくれるらしい。小春のポジション、私の寵愛を受けた彼女は家族思いの優しい娘になった。


 子供の自立はなるべく早い方が良い。瑠奈は放置しても大人の美南や姉の恵麻が手綱を絞めてくれる。私は甘える小春の手を振りほどき、マリアに預けた。自立する年齢はそれぞれだが、ウチは特に早い。8歳の天才児恵麻はアメリカにいるうちに自立したし、瑠奈は小春の存在が増えた事で空気を読み、私から離れていった。そして、独占欲の強い小春とメグのうち、私は血の繋がらないメグを選択した。


「ルー姉、双子姉妹の漫才を練習しよ~や~。」


 さすがは双子。今の小春のウザい絡み方は少し前の瑠奈にそっくりだ。今までは絡む側だった瑠奈が私に向かって、


「お母さん!コハるんを元に戻してよ!」


 詰め寄って来るのだが、小春が瑠奈を羽交い締めしながら、


「ルー姉、オカンに何を言うとんねん!ハルのオカンは最高の女やで。昔のハルはつまらん女やった…。それを分からせてくれた最高の女や。つまらん事を言うてんと、ハルがツッコミするから、ルー姉はボケてな?さっ、師匠んとこで練習、練習。」


 そう言って、力ずくで瑠奈を連れて行ってしまった。


(瑠奈って、魂が狐だから、本当はメチャクチャ強いんだよね~。大丈夫…、瑠奈も私の娘だもん。)


 今回の事で一番、不幸な目に遭ったのは二女の瑠奈かもしれない…。

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