第352話 メグの欠けた感情
私は4歳の小春になったため、空き時間が増えた。白河の家にいても未央には紫音がこなしてくれるし、子供らしく遊んでいなさいと言われて、家事を頼まれない。瑠奈のようにどこかに出掛けて外出してなかなか帰って来ない事もしなければ、面倒見の良い美空のように紫音にベッタリ引っ付いて、家事を手伝う事もしない。
(料理を手伝いたいんだけど、母親にキッチンから追い出されるんだよね…。)
未央の娘の美空はキッチンに入れても、小春は危ないからダメと言って、超過保護の母親に追い出されてしまうのだ。私が紫音の時は自主性を尊重して行動させるのだが、今の紫音は小春の私に対してだけは超過保護。私に日向が近付くだけでも激怒する。その繊細過ぎる性格のため、あの未央でさえ、小春の魂が入った紫音には泣かれた影響で叱る事をしなくなった。
他にも、瑠奈はOKだけど、小春はダメが多い。トイレは付いてくるし、外出は保護者になる人物が同伴しないと絶対に許してくれないし、離れても30分おきぐらいに安否確認をしてくる。今の紫音は小春の体が近くにいないと不安になるようだ。これには他の保護者はもちろん、幼稚園の先生も困ってしまうくらいらしい…。
家で何もさせてくれない私は仕方ないため、白河の家や橘の実家でメグと一緒に過ごす事が多くなった。メグの感情は相変わらず…無い。しかし、小学生のため、トイレなどは自分で済ませるし、お風呂はマリアと入る事が多い。食事は出した物を嫌がらずに食べてくれる。
「メグちゃんはお母さん達と過ごしてて、何か辛い事はない?」
心配なため、紫音の時からのクセで時間がある時に声を掛けるようにはしているが、答えてもらえた事は一度も無い。嫌な思いはしていないが、楽しいと言う感情も無いのか、無表情で心を閉ざしているような状態だ。
(魂が真っ白な人間でも、赤ちゃんのように泣いたり、笑ったりして喜怒哀楽を出してくれるけど…、この子の魂は透明に近い白色の魂。心を閉ざす期間が長過ぎたため、感情が無くなってしまったのかも…。)
私はウサギロボにどういう事なのかを聞いてみると、
「えっと…、私が出会った時にはもう、感情が無かったのですが、悪かった頃の私が、メグの代わりに代弁する事を始めたんです。」
彼女は感情を読み取れるため、メグの言いたそうな事を代弁していただけだった事を話してくれた。
(あくまで代弁…か。心意の所は分からずって事なのかな…。)
私は小春の体でやれる事の一つとして、このメグの欠けた感情を取り戻す事が出来れば…と考えていた。
(小春は一緒に遊んで、心を開かせようとアプローチしてたみたいだけど…、効果がなかった。この子にはなにかを楽しむ感情がない証拠だった。)
感情を無理矢理引き出そうとしても、無いものは無い。なら、新しい感情を芽生えさせる事しか無い。
喜怒哀楽の基本ベースは覚えさせないといけない。おままごとが楽しいと感じない彼女に何が楽しいと感じるのだろうか…。まずは二人で家出して、紫音やマリアたちを心配させて、思いっきり怒らせてみる事にした。
「さあ、冒険に行こっか!」
私は大人の姿に変身して、この体は尻尾があるため、勝手にマリアの服を拝借したあと、屋根の上で寝ているマリアの隙を伺い、メグと二人で脱走した。
「コハるん、そんなに面白い事をするなら、瑠奈も混ぜてよ。」
しかし、双子の姉の瑠奈には筒抜けだったらしい。恵麻辺りにチクられると忍に捜索されて厄介なため、仲間に入れると言ったら、
「イルカちゃん、いるんでしょ?」
瑠奈が川に向かってそう言うと、シャチロボが顔を出した。
「瑠奈…、シャチ君が瑠奈に味方したのがバレると恵麻は怒るよ?」
主人よりも瑠奈を優先した事がバレると怒られるので無いのかを話すと、
「コハるんのうさちゃんも、コハるんの言うことを優先で聞くんだよね?瑠奈のイルカちゃんも、恵麻お姉ちゃんより魅力的な瑠奈にLOVEだから、一緒にいるだけなの。」
これはただのペットだから、全然、問題が無いとアピールしていた。
(シャチは瑠奈のペットなの?それに…)
瑠奈はカバンの中から、クッキーを取り出して餌付けをし出した。
「そんなものあげて大丈夫なの?」
絶対にあげちゃダメな気がするため、止めようとすると、シャチは何だか嬉しそうに食べていた。
(瑠奈のくれるものなら、何でも嬉しいのね…。本当はいらないはずなのに喜んで受け取るなんて…。健気過ぎだよ。)
餌付け買収されたシャチはクッキーを食べると川の中に潜ってしまった。
「あの子は何でも食べるの、コハるんのうさちゃんにもあげるね。」
瑠奈は私の側にいるウサギロボにもあげようとしたが、
「いえ、私たちは構造上、お腹が減らないので、お気持ちだけ頂戴します。」
新生ウサギロボの人格は真面目女子のため、丁寧に断った。それの対応に彼女は、
「コハるん、瑠奈は前のうさちゃんの方が好きだったな~。クッキーあげたら、テメェ、舐めてんのかってキレるんだよ?だから、無理矢理口の中に入れたら、さらに怒るんだよ?そんな反抗心バリバリな所が可愛いかったな~。」
口の悪いの彼の反乱理由には、瑠奈の過激な煽り行動にあったようだ。
(ほんと、ロクな事をしないよね…。良い行いと、悪い素行の差が激しいよ。)
瑠奈は人を怒らせる行動が好きなのか、姉の恵麻はもちろん、マリア、未央辺りにいつも怒られている。瑠奈の事が好きだから、彼女たちは自分を怒るんだと勘違いしている。
クッキーのプレゼントを断られた瑠奈は、無言で私たちの近くにいるメグへあげると言ってクッキーを渡すと、それを無言で食べ始めた。
(もらっているって事は、不快な思いはしていないって事だよね?)
ムシャムシャ食べているがお礼はもちろん、感想も何も言わない。感情が欠けているためらしいが、このままではこの子の将来に不安しか残らなくなってしまう。
(そう言えば、キモいぬいぐるみがメグの代弁者をしていたんだよね…。)
私はウサギロボを捕まえると、首からチョーカーを外して、メグに付けてみた。すると、
「小春さん、これでは私がメグちゃんの体で喋るだけで、本人が話している訳じゃないので、効果がありません。あっ、でも…何を思っているのかは代弁出来ますよ?」
しばらく声を出していないため、メグ本人の少しか細い声でチョーカーの人格の彼女が答えてきた。
(う~ん、メグの心はあるけど、本人は話せないみたい。)
解決するには、彼女の心のキズを治すことが重要なのだと私は理解した。
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