第351話 幼児の私に近付く者

 小春の体で美空と瑠奈よりも人気者になった私。私の体で紫音として暮らす小春。大人になった彼女はさぞかし苦労があると思いきや、脳は紫音の物のため、平気そうだった。むしろ、私が娘を抱えていたい、抱きつき魔だった事を知った。


「小春、なんで最近…お母さんに甘えてくれないの?お母さんが嫌いになった?」


 ものすごく、寂しそうな感じでへこんでいたので、メンタルが小春なのだと理解した。おまけに、若返り現象が無くなり、22歳の体に母親ボディーに戻っていた。


(私の魂では無くなったため、若返り現象が元に戻ったのは良かったけど、中身が違うんだよね…。)


 自分に甘えるのが嫌な私の代わりを務めてくれるのは…、


「お母さん、瑠奈も好きだよ~。」


 瑠奈は嫌がる私の代わりに、娘としてメチャクチャ甘えている。しかし、瑠奈は特徴があるあの巨乳に抱き締められる時の柔らかい弾力性を楽しんでいるように見えるのは、私だけだろうか?


(まっ、どっちも幸せそうだし、しばらくはあのままでいっか…。)


 あの紫音の中では、突然、甘えて来なくなった反抗期の小春と抱き枕のようにいつも一緒に居て安心させてくれる、可愛い瑠奈という構図に様変わりした。そう思っているのだろう。


(紫音に抱き付かれると自我を失って、記憶を失いそうになる。それくらいこの体は母親に飢えている。でも、過度に彼女と接触して、紫音であった事を忘れたくないため、わざと距離を取っているのだ。)


「小春ちゃん、会いに来たよ~。可愛い。」


 最近、ほぼ毎日、日向が小春目的で橘の家か白河家の事務所に現れる。全国区のタレントが減ったため、マネージャーとしての東京での仕事が減り、関西を中心に活動するタレントさんのマネージャーをしているらしい。


「ああ、可愛い~。小春ちゃん。」


 日向も小春からすれば、かなりの抱き付き魔だ。でも、愛でる事が目的だし、あの紫音ボディに比べて、心が揺れ動く事が無くて、記憶が飛んだりしないため、私は日向が来ても、場合によって紫音の体にくっつかれないようにするため、わざと抱き付かせていたりもしている。


「ママが寂しがるから、あんまりくっつかないでね?」


 過度にされるとうっとおしいため、やんわり嫌がる。それに…、


「ひなちゃん!私の小春に触らないで!」


 娘を守ろうと言う防衛反応で、紫音がメチャクチャ怒るのだ。そして、私を取り返して、


「小春は私の可愛い娘なの!」


 と言って、抱き付き、離してくれなくなる。


 魂の幼さが補えていない状態の彼女は妊娠中の影響もあり、非常に不安定だが、小春の体を抱き締めるだけで、落ち着くのか、しばらくすると解放されて、普段通りの紫音に戻る。


 分かった事は、不老不死の呪いが紫音の体では無くて、何故か私の魂に移っている事と、小春の魂では、紫音の記憶に引っ張られ過ぎて、心が不安定になる事だ。


(あの体は、かなり操縦が難しい器って事だよね。なるべく早く、小春に自分の体を返してあげたいんだけど…。)



「今のコハるんは歩いているだけで可愛いから、仕方ないよ。」


 瑠奈にそう言われたが、多くの大人たちが私を愛でるためにやって来る。そして、今日は…、


「小春、何か欲しい物はある?お婆ちゃんが何でも買ってあげるわよ。」


 私が小春になってからは神里 桜子もやって来るようになった。桜子は小さな私を抱えたあと、


「あのビルにする?それとも、あの複合施設にする?」


 いつものように、イカれた成金発言をしている。


(4歳の孫にビルを買おうとするバカな富豪がこんな所にいたよ…。)


「紫音の体に戻りたいです。」


 慣れている体に戻りたい事を話すと、


「ダメ。私の血を引くこの体で良いじゃない。狐の耳も可愛いわよ?」


 そう言って、小春の体に常備ある狐の耳を触っていた。


(みんな、この耳が好きだよね…。触り心地が良いらしいけど、この耳の感度は鈍感だから、この耳はマリアみたいな事にはならないんだよね~。)


 子供の体だから、鈍感なのか…耳を触られても、くすぐったいが、気にならない。紫音の体に戻りたいのだが、狐がどうやって魂を移動させたか?そのやり方が分からない。


「いい加減にしないと…。」


 桜子がうっとおしくなった私は大人の姿に変身すると、


「母親似で美人ね。子供は作れるの?」


 ヤバい彼女は孫の体の私にも、子供を要求し始める。恵麻の言うとおり、成長できるのは外見のみで中の臓器類は子供のままのため、まだ、子宮で卵子が作られる事が無い。


 瑠奈があんまり強くないのは、魂を含めた中身がまだ、子供だからなのだ。それでも、私の子供だけあって、長女の恵麻よりも力はあるし、運動能力は高いため、一般人には力で圧倒できる。しかし、何故か、未央の娘、美空の方が腕力では上回ってるらしい…。


(未央お母さんの遺伝子と霊力を持つ男性の相性が良いから、美空みたいな怪物が生まれたのかな?)


「ねえ、桜子お婆ちゃん。私が光の体のままで未央お婆ちゃんの子を作れば、スゴい孫に出会えたんじゃないの?」


 あくまで可能性だが、美空を見ているとそう言う可能性があったのでは?無いのかと言ってみると、


「あなた…、昔、私が連れてきた女たちを犯す事をしなかったじゃない…。あんなに繁殖力の高い体を使わないあなたに男は向かないわ。それに繁殖力が高い紫音の体にあなたの魂があるのも、何だかもったいないし、このまま、元に戻らないのなら、紫音と蓮との復縁も視野に考えるわよ?」


 彼女は繁殖力が高い体に私の魂がいるのが無駄な事だと言い始めた。


「今の話を聞くと、私が孫になったから喜んでいるのでは無くて、紫音の体を明け渡したから、喜んでいるって聞こえるんだけど…、紫音の体にいる小春と蓮を復縁させるために、私が邪魔をしないか…監視してるの?」


 この桜子と言う女は孫の小春になった私を可愛がりに来たわけではなかった。


「小春ちゃん、何を言ってるの?あなたの母親は紫音で、あなたは私の孫の小春でしょ?饒舌な親に似て、頭の良い子ね。」


 この人を弄ぶ悪魔は核心を突くとすぐにとぼけてしまう。


 確かに私は本物の紫音では無い。私の体と言い張っても、違うと言えば違う。小春本人は、自分が紫音だと思っている。普通は使っている体に記憶が植え付けられるから、紫音だった今の恵令奈は死んだ頃の記憶を取り戻して、恵令奈として生活をしているし、杏奈は杏奈の母親だった事を忘れて、本人として生きている。


 私はそんな彼女たちを見て、記憶を忘れて、本人として生きるのが一番幸せで楽なのだろうと考えてしまうけど…、桜子の思い通りになりたくないため、紫音の体を取り戻す方法を考えていた。

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