園児生活も大変
序章 2強時代から1強へ
小春になった私は当然、平日は幼稚園児として生活をする。同じ組には増せてる二大人物が存在する。未央の娘、美空と小春…私の姉になった瑠奈がいた。この二人の派閥争い対決は幼稚園児が揃って乗るバスからすでに始まっている…。
美空は朝から上品な物腰で男子園児たちに大人気で囲まれている。一方、瑠奈は持ち前の明るさで、女子園児たちとワイワイと盛り上がっている。美空派は瑠奈の事を下品と言って罵り、瑠奈派は美空が大人顔負けの色目で男を誘惑するため、かなりの女子園児から文句が上がっていた。
(男の子と女の子、仲が悪すぎだよ…。)
美空と瑠奈は普通に話す仲良しなのだが、取り巻きたちの対立が何故かスゴい。というか、男子と女子の代理戦争みたいな状態なのだ。ただ、小春の立場はいつも美空と一緒にいるため、男子グループにいる少し特殊な立場だった。
気になった私がやんちゃそうな男の子に、
「なんで、女の子たちと仲良く遊ばないの?」
そう尋ねてみると、
「だって、アイツら…影で美空ちゃんの悪口を言ってるんだぜ。美空ちゃんは可愛くて、優しくて、こんなに良いヤツはいないのに酷いと思わないのか?暴れ回って友達のいない俺に優しく叱ってくれたのは美空ちゃんだけなんだよ。」
美空は母親譲りの厳しい態度で彼を叱りつけたらしい…。
「俺がケンカで負けたのは、美空ちゃんと瑠奈だけだ。美空ちゃんが可愛いから、俺のモノになれって言ったら、はしたない殿方は嫌いってぶたれて、ぶっ飛ばされてよ~、気が付いたら、優しく介抱してくれてたんだ。最高だろ、天使だろ?」
彼は美空に言い寄り、倒されてしまったが、美空の介抱する優しさに心を打たれた事を話してくれた。
(ん?記憶を失うくらいぶたれて、一撃で倒されたんだよね?美空は責任を取って介抱していただけで、君が好きになる要因はゼロじゃない?)
このやんちゃボーイはドMなのかな?と感じた私は、大人しい感じの男の子に同様の質問をすると、
「美空ちゃんは男らしくないって、組の男の子や女の子たちにいつもからかわれてた僕を助けてくれたんだ~。男の子なら弱者を守るのが紳士の務めと言って叱ってくれて、女の子なら弱き男性を支えるのが淑女の務めと言って叱ってくれたから、僕はからかわれなくなったんだよ。いつも優しくて、可愛い女の子で憧れなんだ~。」
正義感が強く、母親の未央に厳しく躾を受けた美空はイジメみたいな事を見過ごさない女の子だ。良いことをしているのに、何故か気になる私は、
「注意だけじゃあ、からかうのは止まらないと思うんだけど…。」
さらに深く聞いてみると、
「うん!美空ちゃんは僕がからかわれてる映像を録ったあと、からかった男の子の服を脱がせて、写真をばら蒔くって言ってたよ?次に女の子にも同じ目に遭わすって叱ってくれると、僕は誰にもからかわれなくなったの~。優しくて良い子だよね~、美空ちゃん。」
証拠を撮影後、男子を裸にさせて揺すり、同様に女子も裸にすると脅した事でイジメられてる男子へのからかいが収まった事を話してくれた。
(うん、決して、淑女のやる行為では無いね…。まずは男を力で黙らせて、女を恐怖で支配する。母親が見てみたいとはこう言う事を言うんだね…。)
瑠奈を超える過激派が存在していた事に驚いていたが、未央の娘なら、やりかねないと感じた私は美空派が尊敬と恐怖で支配された男性のみの派閥組織だと言う事を理解した。
(怖いよね~、男子とはいえ、逆らうと全裸にされて晒されるのは…。)
そして…、その一部の女子が美空のやり方に反乱するかのように、この組に転入してきたもう一人のカリスマ、瑠奈の元へ集まった。
(でも、何故、瑠奈?あの子は、必殺技シリーズ以外で、人に恐怖を与えるような行動を取らないはずだけど…。それと、すでに上下関係は決していて、瑠奈は美空に頭が上がらない。そんな瑠奈には美空と対抗するだけの力があるとは思えないんだけど…。)
小春の立場になってみて、瑠奈を見ているとその理由がすぐに分かった。中間子の彼女は気遣い上手だからだ。他人の愚痴を聞いても、咎めもせず、一緒に愚痴を言うわけでもなく立ち振る舞う。私や美空なら、叱り付けるような事でも、わりと平気に聞き流せる。彼女たちの愚痴の度合が過ぎた場合は話題を変えたりするのだ。
(瑠奈は新たな一面性だよね…。)
家では嫌われ者を買って出て、家族間が揉めないようにしているし、天才ならではの物言いをしてしまう恵麻の嫌みな態度にもめげずに接しているから、外で女子からの支持を受けるような人気者になるのは必然だった。
男はここまでの女性の裏を見ないから、瑠奈はゲラゲラ笑う下品な子に見えるのだろう。女性が大きな声でなかなか笑えない事を知らないのだ。瑠奈が大きな声で笑うのは、場を和ませたり、他人の恥を隠すためで、自分が必ずしも楽しいからでは無かったりするのだ。
「瑠奈はいつも、頑張ってるね。」
私は自分が小春の姿である事を忘れて、瑠奈を褒めたあと、優しく頭を撫でていた。
「萌えます…。もっと、もっと、私に見せて下さい!お姉さま!」
それを見ていた、美空が突然、小春の姿の私を大きい声で姉と呼んでしまったため、そこにいる他の人たちが静まり返ってしまった。
「あ~あ、コハるんの時代が来ちゃったよ。知らないよ~、元に戻った時にコハるんが困っても…。」
瑠奈に小春の時代が来たと言われて、私の姿が小春だった事を思い出した。
シャイな小春は同い年の子たちがいる集団の中では、喋ったり、動き回る事もしないのを聞いていたにも関わらず、小春の姿の私が男の子に喋りかけたり、瑠奈の頭を母親のように撫でた。その流れは美空と瑠奈の二強の体勢を崩して、小春の1強時代に変えてしまったのだ。
「コハるんってよく見ると可愛いね。特にこの大きめの耳が可愛い。」
今まで注目もされなかった狐耳がクローズアップされて、女子園児たちが変態の日向みたいに私の狐耳を触り始めた。
「やっぱり、お姉さまには年齢も体も関係ない魅力がそこにあるんですね。ああ、お姉さま…その全部が好きです。」
完全に姉呼ばわりして壊れた、美空のせいで、男の子たちは私の事を「小春姉さん」と呼び始めてしまった。
(紫音の時も揉みくちゃにされて、小春の時も触り倒されてる私って何?)
本物の狐耳を触られるとかなりくすぐったいため、ピクピクと耳が自分の意思とは関係なく動き出す。それを見て、女子たちがさらに肌触りが良い耳を触りたがる。瑠奈の言う、まさに時代がやって来た事を感じた瞬間に私の幼稚園児生活が始まった。
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