第348話 今日は小春と一緒
「瑠奈、一人で帰れる?」
昨晩にあんな事があったため、疲れて眠った瑠奈を連れて帰るのを止めて、エミリの家に泊まった私と瑠奈は作った朝食を食べながら、起きた瑠奈に一人で帰れるかを聞いていると、家のチャイムが鳴った。催眠術の効果なのか、まだ眠り続けるエミリの代わりに出ると、
「紫音、お前…育児放棄すんなや。ほら。」
大阪に泊まると告げていたが、朝イチの電車でマリアが小春を連れて来た。
「ママ!」
小春は私を見るなり、抱き付いて来て甘え始めた。
「朝に起きて、お前がおらへんから、泣いとってんぞ。瑠奈や他の子らも大事やとは思うけど、一番精神的に幼い小春を泣かせんなや。」
マリアは私を叱ったあと、「朝メシ貰うで」と言って家の中に入って行った。
「ゴメン、小春。今日は一緒に過ごそうね。」
私を小春を抱えたあと、そのまま家の中に入った。
「朝から上手いもん食っとるな。」
マリアはテーブルにあるフレンチトーストを口へ頬張ると、
「それ、瑠奈のなの、返して!」
瑠奈が食べていた皿の物をマリアに奪われたらしく、会って10秒も経たないうちに、二人は揉めていた。
「どうせ、お前が紫音を困らせたんやろ。メシ食ったら、はよ帰れや。」
食べ物の取り合いを始めた二人は口ゲンカも始めてしまった。
(朝から人の家でケンカしないでよ。)
「ハルもママのご飯が食べたい~。」
小春が朝食の争いに参戦するとマリアが、
「紫音、メシの量が足りひんぞ。他になんか作れや。」
と言うので、
「人の家だから、備蓄があるわけ無いじゃない。買い物にいかないと…。」
何かを買ってこないとダメだと言った。
「足りないよ~、ひもじいよ~。」
瑠奈が駄々をこね始めた。すると、窓が空いて瑠奈の王子様シャチが生きてるカツオを投げ込んで来て、去っていった。
(まさかの魚!しかもカツオって…、大阪湾じゃあ採れないし、早朝から太平洋にでも行ってたの?)
新鮮にピチピチ跳ねるカツオを見ながら、お姫さまのために新鮮なカツオを持ってくる海のハンターに引きつつも、ウチの猫が大好きな魚を前にギュルルルって言っていたので、捌くことにした。マリアには生の刺し身にして提供し、瑠奈と小春に生はアレなので、土佐造りとして提供したが…、
(さすがに一匹はこの人数では、食べきれないな~。)
骨や頭は出汁にして野菜と煮込み、味噌汁を作ってなるべく食べやすいようにしてから、貧乏アイドルたちのために持っていく事にした。
「アイツ、知っとるで、恵麻んとこのサイボーグやろ?瑠奈に興味があるなんて…趣味の悪いやっちゃ。」
そんな事を言いながらも、猫のマリアは大好きな魚を食べれて満足そうな顔をしている。
「ママの作ったお魚美味しいの~。」
小春は始めて食べる新鮮な土佐造りに大満足している。京都では生きてるカツオなんて、手に入らない代物だ。細かく切って叩いて塩を馴染ませて、炙っただけだが、かなり美味しいだろう。余った身はツナにして加工すれば、保存が効くし、せっかくの頂き物だから余さずに食べようと考えていた。
「ウチは帰るわ。小春を届けに来ただけやしな。コイツは邪魔やろうし、持って帰るわ。」
マリアは魚を食べ終わると、4歳児の姿に戻っていた瑠奈を脇に抱えて、さっさと帰って行った。
「先生。何故、可愛い子を連れていて、学生服を着て、ダンス練習に寸胴鍋を持ってきてるんですか~?」
ダンスレッスンを受けている所へ、ドラマ撮影用の制服を纏い、小春を連れた私がカツオを出汁にして作った味噌汁を持って来た私にアイドルたちが尋ねて来たので、
「気にしないで…、それから、昼御飯はこれを食べてね。」
目を覚ましたエミリは別の仕事で日向と関西のテレビ局へ向かったので、部屋で待っているわけにもいかない私はアイドルの劇場に来ていた。
(制服は契約上、着てないとお金が貰えないもん。)
制服を着るだけで、神里家からスポンサー料を貰える私は、本業の仕事が貰えず失職している状態に近いため、従わざる得ない。
「ワンピース型の変わった制服ですね、でも可愛い。京都の高校か~、私…その高校に進路変更しよっかな。」
研究生の若い子が、普段着のように着ている私の制服を気に入ったらしく、触って肌触りを確かめていた。
(う~ん、オススメしないとか言っちゃうと…契約違反って言われて、賠償金とか請求されそうだし…、下手な事は話せないな~。)
アイドルグループの中には研究生の中学生も数人いる。そう言う子を学校へ勧誘するのも、仕事のうちだと、日向には言われた。
桜子が理事長を務める私の母校は、妊娠中の私が身に付け易いように、マタニティドレスみたいなワンピース型も用意している。当然、それは来年度から採用予定の新しい制服のうちの一つで、妊婦じゃなくても着れる可愛さだ。
制服は大きく分けて上は三種類。ブレザー、セーラー服、ワンピース。下も三種類。スカート、スカートパンツ、パンツ、ジェンダーレスを意識した仕様になっているため、私は外出時にはそれらを組み合わせて、着こなす契約だ。
豊富な資金力を使い、制服は卒業時などにほぼ新品のようにリユースされ、人によっては新品の高い制服を買わなくて済んだりするなど、貧困家庭にも優しい。私がアメリカに行っていたこの5年半のうちに桜子の手腕で、あらゆる学生を獲得する学校に生まれ変わった。
(神里の母さんは子供たちのためなら、儲け度外視だし、イイ人っぽく見えるんだよね~。逆らう奴は強制労働施設に入れて、性格を更生させちゃうけど…。)
完全な善人など、この世には存在しない。もし、存在しているなら、桜子によって、人格を変えられてリユースされた人間なのだ…。
「ハルも踊る~。」
アイドルのダンスを見よう見まねで踊る小春の姿に私は、
(可愛いけど、並の運動神経しかないから、音とズレてる。小春はアイドルにはなれそうに無い。)
狐っ子の小春は尻尾をフリフリしながら、完全に音とズレていたため、アイドルたちの練習の邪魔になると感じた私は、小春を抱えて、すぐに止めさせた。
(可愛いだけじゃ、アイドルは務まらないって事だね…。)
ぬいぐるみのように抱っこすると小春は大人しく甘えて始めたため、そのままで、彼女の練習風景を眺める事にした。
(しかし、真面目に練習もこなしているし、この子たち、ダンスだけは良いんだよね…。売れるにはメインボーカルの歌唱力か…。)
私はメインボーカルのシェリの練習風景を見に行くため、別メニューでボイストレーニングをする彼女の元に向かった。
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