第347話 最強ハンターは瑠奈が好き

 強力な霊力を保持する何者かが、私たちに近付いてくる…。


「お母さん、やっぱり…こっちに向かって来ているね。でも、離れている距離から、ひなちゃんたちを眠らせる事が出来る奴って、スゴくない?」


 瑠奈はこのレベルの何かに出会うの初めてなのだろう…。少し震えているように見えるが、武者震いなのか、単に怖いのかは分からないけど、私は母親として瑠奈の手を握りながら、


「大丈夫。お母さんが付いているよ。奴が来るまでに日向たちをベッドに運んでしまおう。」


 そう告げると、うんと頷いた瑠奈はエミリを抱えてベッドに寝かせた。私も日向を運ぼうとしていたら、目の前に仮面を付けた変な奴が何かが現れて、

 

「むっ、貴様たち…、何故、眠っていないのだ?……まあいい、その娘を置いて立ち去るなら、危害を加えない事を約束しよう。」

 

 そう言って、私と瑠奈に話し掛けて来たので、

 

「あなたね、強力な催眠能力でウチのアイドルたちの性格や思考を変えたのは…。もちろん、その要求は呑めないわ。灰になりたくなければ、それ以上は近付かない事をオススメするわ。」

 

 奴が何かをするなら、私はクラゲを丸焼きにした九尾の能力を使おうと考えていた。

 

「その娘の願いを叶えてやるだけだ。人間ごときが口答えをするな。」


 仮面の奴は日向の歪んだ思考を願望と捉えたらしく、願いを叶えると言って、私たちへ逆に警告をしてきたため、


「交渉決裂ね、業火に焼かれてしまいなさい。」


 私が九尾の能力を使おうとしたら、奴の後ろから恵麻のシャチが忍び寄り、


「貴様!いつの間に!」


 奴がそう叫ぶと同時にシャチが奴の上半身を食べてしまった。


(あっ、焼くよりも、生が好きなのね…。)


 水陸両用…恵麻のシャチの超音波はエゲツない。音波で空間の狭間に身を隠し、忍び寄って、気付かれずに獲物を丸飲みにしてしまう。さっきは敵の動きを止めて無力化させたし、今回は隙を狙うまで、私以外には感知されず、ずっと身を潜めていた。


「あっ、イルカさんだ~。仮面の奴は美味しかった?」


 残った奴の下半身をムシャムシャ食べているシャチに瑠奈が声を掛けると、残りを丸飲みにして食べ終えたシャチが瑠奈の前でヒレ腕立てを始めていた。


(あのシャチ、ずっと近くに居たのは知っていたけど、私たちの護衛ってよりは…、瑠奈に良い所を見せたいみたい。性別はオスなのかな?)


 まるでお姫さまを救う王子さまのように、シャチは瑠奈への敬愛の意思が止まらない。


(瑠奈にホレたの?それから、私の事を完全に無視しているよね。)


 シャチの目線には、何故か瑠奈しか見えていない。一通りの筋トレメニューをこなしたあと、ヒレで瑠奈に握手をしたあと、窓を開けてロケットのように飛んで行った。


(飛べるの!あのシャチって、ヒーローに憧れ過ぎてるよね?)


 敵を倒すと何も言わず去っていく姿はまさにヒーローだった。


(かなりのハイスペックだね…、恵麻が瑠奈相手に3億円で譲るって言っていた意味が分かったよ。ほんとはいくらの製作費が掛かったんだろ?)


 ハイスペック忍ロボは陸海空を制覇して、しかも悪霊?っぽい変な奴を本物のシャチのように問答無用で噛み砕いた。その姿はハンターと呼ぶにふさわしい行動だった。でも…、


「何者かを吐かせるまでに殺しちゃあ…だめだよ。結局、奴の能力も分からないままだったし。死んだら、催眠が解けたのかも分からないから…困ったよね。」


 倒すのは構わないが、何者なのかが分からないまま、やっつけてしまった事にさらに謎が深まった。


「きっと、お母さんに危機が迫ったら、問答無用で相手を殺せとプログラミングされているんだよ…。恵麻お姉ちゃんのロボは単純指示でしか真価を発揮しないもん。」


 人の感情は持たないロボットならではの解決方法に仕方なしと言う内容を話していた。


(これ以上の被害を減らせたってだけでもよしとするしか無いよね。人間ごときって言っていたし、アレが人に成らざる者って事は分かった。問題はどうして、あんな化け物が発生したか…だ。)


 霊体でシャチに噛み殺される。悪霊でも無いが、とんでもない圧があった事を考えると、あの世から来た何者かだと考えられる。奴を呼び寄せるスイッチがある。


(それは恐らく…彼女だ。)


 エミリを見て、彼女の周りですべての事象が起こってる事を理解した。彼女も眠らされているって事は、潜在的な思いに答えて、売れないアイドルたちがキャラ立ちするように催眠術を掛けた。結果、プロダンサーもビックリするくらいのダンスを踊る結愛や歌の上手くなったシェリと言う才能を見出だした。元々、テレビに出るようなレベルに達していない実力の無いグループだったし、リーダーの重圧が、負の思いが、あのような霊を呼び寄せたのだろう。


「シャチ君はヒーローに憧れてるからね。弱いお姫さまを守るナイトになりたいんだよ…、きっと。」


 私を助けに来たと言うよりかは、瑠奈のピンチに助けに来たって感じだ。私はシャチロボがいなくても、余裕で相手を圧倒できたし、シャチも強い私には興味が無しだった。むしろ、私が相手を倒そうとした事に対して、手柄を取られたくないから、先に手を打ってきた感じだ。


「イルカさんは可愛いのに、カッコいいよね~。瑠奈、あの子が大好き。」


 瑠奈とシャチのヒーロー好きと言う条件が合うため、相思相愛だった。


「瑠奈は程よく弱いから、お姫さま物語が大好きなあのシャチに惚れられちゃったよね…。ムキムキアピールしたあとに去っていく所が、あざとさを感じる。」


 物語のお姫さまは弱い事が大前提。怪力で圧倒的な霊力を保持する私には務まらない。反対に瑠奈は一般人には圧倒出来るけど、一線級の相手には勝てない。猪突猛進で危なっかしく、程よく弱い所がお姫さま条件にピッタリだ。


「瑠奈はみんなのヒロインだもん。」


 自意識過剰娘の瑠奈は、お姫さま役に抜擢されるのは仕方ないと言い切っていた。


 しかし、本当に訳の分からない事が起こっている。仮面の奴は超音波で行動を封じられたとはいえ、恵麻のシャチに一撃で殺られてしまった。こんなにアッサリと終わるのかな?それに霊力を持たないエミリになんで、あのような化け物が憑いていたのか…。


「エミリちゃんの周りの理想をすべて叶える催眠術師って感じかしら?」


 私はこう結論付けたが、もちろん…すべて、納得が行くわけなかった。

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