第345話 瑠奈の長所

 特に手掛かりなく、瑠奈と一緒にエミリの住んでいるマンションに行くと、三十路なのにJKの制服を着こなす日向が来ていた。


「先生、お帰りなさい。ダメですよ~、番宣中は制服を身に付けて歩き回らないと…。」


 日向は契約を守る律儀な人間だった。


(ひなちゃんには恥ずかしいと言う、概念が無いよね…。)


 出会ってから、見た目がまったく変わらない日向にはいい年のクセにJKの制服を着る事に対して、抵抗が無い。


「ん~、大丈夫。今は瑠奈が着てるから…。」


 4歳児から14歳の体に変化させた瑠奈はオタクになるため、地味服に着替えた私の代わりに何故か、ドラマ用の制服を着ていた。聞いてみたら、可愛いから着て遠出をしてみたかったらしい…。


「ひなちゃん、みてみて~、可愛いでしょ~。」


 スカートをフリフリしながら、ポーズを取ったりしていた。


「瑠奈ちゃんは先生の娘さんだし、体を成長させたら、かなり似てますね~。成長姿を初めて見ましたけど、先生の家系ってどんな体をしているんですか?はっ!小春ちゃんのケモミミも成長するって事ですか!」


 小春の中学生姿を所望してきたが、あの子にはこんな器用な事は出来ないと伝えると、かなりショックを受けていた。


「ひなちゃんはコハるんが好きだよね~。こんな感じじゃない?」


 瑠奈はそう言って、持ってきた狐耳型のカチューシャを付けると、


「こっ、小春ちゃん!可愛い!ケモミミだ~。」


 ただの狐耳を着けた瑠奈だと知っているはずの日向が小春と勘違いして、壊れた。その壊れた姿を見た瑠奈は、


「ハルは、ひなちゃんが好き~。」


 似てるようで似てない小春のマネをしながら、ケモミミに反応しながら、壊れる日向をからかい出した。


「私も小春ちゃんが好き~、小春ちゃん、一緒にお風呂入ろ?私がその可愛い耳を洗ってあげるよ。」


 アホの子がアホな大人を弄り始めたので、私にもその効果があるのかを試すため、九尾モードに変身して、私に本物の耳を生やして見ると、


「先生に!ケモミミが~、これは夢?」


 そう言って、興奮がピークに来たのか…日向は気絶した。


(刺激が強すぎた?アイドルのコンサートで推しが好き過ぎて、失神する子みたいになっちゃったよ。)


 私は九尾の魅力でうるさい日向を黙らせる事に成功した。


「あ~、瑠奈のおもちゃを取らないでよ~。本物の耳を生やすなんて…反則だよ。」


 瑠奈には九尾の力のコントロール出来ないため、尻尾が九本にならず二又になり、中途半端な状態に陥って力の浪費が激しくなるから、瑠奈は小春の九尾の力を使わない。だから…狐耳カチューシャで日向を弄んでいたが、本家の狐姿のインパクトには勝てなかったみたいだ。


(瑠奈の能力はやっぱり母親の私の半分も満たない。愛華の所がそうだったように、遺伝での能力継承が劣化しやすいのは本当のようね。)


 とはいえ、神里家と私の血を引く瑠奈は高い知能と身体能力を保有する、ハイブリットガールなのは間違い無い。


「先生のケモミミ…最高。お風呂で洗い合いっこしましょ~。」


 気絶したはずの日向がヨダレを垂らしながら、とても幸せそうな寝言を言っていたら、家の主のエミリが買い物から帰って来た。


「ちょっと!日向さん!床をヨダレで汚さないで下さい。」


 幸せな顔をして爆睡する日向を叱り、狐耳とフワフワ尻尾が生えている私とJK制服の狐耳カチューシャの瑠奈を見て、


「紫音先生、その耳はなんですか!それに隣の子は誰?」


 情報過多のエミリはパニックに陥っていた。彼女が過呼吸になりそうだったので、取りあえず落ち着かせた。そのあと、幸せ気絶した日向を瑠奈にベッドまで連れて行ってもらっている間に、私は床を拭いて、エミリが買ってきた食材で夕食作りを始めた。


「お母さん、瑠奈も手伝うよ。」


 瑠奈は手足が長い14歳の姿を気に入っている。24歳の姿だと、私より10㎝は高いモデル並みの高身長になるため、お気に召さない。私よりも少し低い姿の方が可愛くて、私と目線を合わせて喋れるため、私といる時はこの14歳の姿でいる事が多い。


(小春や美空といる時は通常の4歳児の姿だけど、変身するのは、私と恵麻といる時だけに留めている。たぶん、彼女なりの配慮だよね。)


 母親の私や姉の恵麻以外と過ごす時はわりと空気を読める事が分かった、我が次女の精神年齢は大人なのか?それとも子供なのか?分からなくなる。ちなみに34歳以降の姿は肩凝りと少し腰が痛いから、変身しないらしい…。


(体が変身する能力が10歳刻みなのは、コントロールが出来る限界範囲だと聞いたけど…。)


「きっと、幽霊もビックリしますよ。紫音さんも22歳の姿から今の姿に若返ったんですよね?永遠に老けないって言う人間がいるのにも驚きですが、まったく老けずに老衰や病気で死ぬ可能性があるのは…、少し怖いと私も思います。」


 エミリは不思議な体になるのは、やっぱり怖いと言っていた。


 そう、瑠奈は怖いはずだ。老けさせる事が出来るため、自分の寿命がある程度、分かる。賢い子だから、すべてを理解して悔いなく毎日を生きている。私は普通の体に生んであげれなかった事を申し訳なく思っているが、それすら、気を使って察知してくるはずだし、絶対に言葉にはしないようにしている。


「お母さんは恵麻お姉ちゃんやコハるんより、一番似ている瑠奈の事が好きだよね~。」


 私は色々と察知する次女の瑠奈へはあまりベタベタしない。小春の嫉妬や恵麻たちも平等に愛さないといけない使命があるからだ。


 他にも、ウチには美南やメグもいるから、家で血の繋がるこの子を優遇するわけにいかない。他人と自分の子供と私の距離には、いつも神経を尖らせたりしている。


「私は瑠奈が好きだよ。本当はお母さんに甘えたいはずなのに、いつも他の子たちにお母さんを譲ってあげるような優しい子に育ってくれているもん。ありがとう、瑠奈。」


 隣にいる瑠奈を手繰り寄せて、ギュッと抱き締めてあげると、


「むっすりあまのじゃくのお姉ちゃんやママっ子のコハるんがいるし、お母さんは大変だよね。甘えたい気持ち…分かるよ~。」


 そう言って、娘の瑠奈は母親の私をヨシヨシと優しく頭を撫でていた。


(たった5年ほどしか生きていない瑠奈には誰よりも女らしい母性が溢れている。本当にスゴい子だよ…。)


 私の分身に近い、血の繋がる娘、次女の瑠奈には…姉や妹を遥かに上回る母性がある。私に似て、将来は結婚が早そうだ 

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