第344話 瑠奈と海のハンター

 まさかの仲間内に反乱を起こされた私は恵麻に報告すると…、珍しく怒りを露にして、京都から大阪まで瞬間移動を駆使して瑠奈を引き連れて現れた。


(不良青年たちは瑠奈が一掃したけど…、問題はシェリちゃんの体を使うアイツだ。私なら…勝てるけど、瑠奈では少し苦戦するかも。)


 恵麻は妊婦の私に気を使って瑠奈を連れて来た。でも、瑠奈では…適合するシェリの体を駆使するアイツには勝てないかもしれない。


「お姉ちゃん、ウサちゃんの魂入りのあの子もやっつけるの?」


 当然、瑠奈はやる気満々だ。


「あんたは美少女のアレが自分より可愛いから、ムカついてるだけでしょ?アイドルの体だし、やるなら、顔以外にしなさいよ。」


 恵麻はまるでイジメっ子が言いそうなセリフを吐き捨てている。


「え~、顔が良いな~。瑠奈より可愛い生き物はお母さん以外に存在してはいけないもん。」


 自分よりも可愛い生き物は認めないから、顔を狙うって言った。


(二人とも…、さっきから、怖いよ。私たち親子が完全に悪い方の立場みたいじゃない。)


「お前ら、紫音ならともかく、そのガキじゃあ、物足りないな…。」


 瑠奈では物足りないと宣言したため、


「じゃあ、その綺麗な顔をボコボコにしてあげるよ。」


 先制攻撃と言わんばかりに飛び蹴りを食らわせようとしたが、奴はアッサリと交わしたあと、瑠奈の足を掴んで、海に向かって放り投げてしまった。私が助けるために動こうとすると、恵麻は、


「お母さんは動かないで。あの子が助けてくれるから…。」


 そう言うと、海に落ちそうな瑠奈をイルカっぽい奴が海から出てきて救いだしたが、ヒレを手のように動かしている、ちょっと変なイルカだった。


「優秀な忍は水陸両用よ。」


 新たなロボはイルカ風の変な奴で、瑠奈を陸に降ろすとヒレで腕立て伏せ?みたいな事を始めてしまった。


「ねぇ、恵麻。あのイルカ…、なんで筋トレを始めたの?」


 あまりの異様な光景にその理由を聞いてみると、


「アレは海のハンター、シャチよ。少女を窮地から救い出すヒーローは強いって事をアピールしてるみたい。入れた魂に難アリ…ね。」


 恵麻は変なロボを連れて来ていた。


(海のハンター、助け出すまではカッコいいけど、あとの行動は変態だよね?)


 シャチは瑠奈を助けたあと、陸上に上がって、腕立て伏せや腹筋を始めてしまった。


「それくらい、瑠奈だって出来るよ、見てて。」


 アホの子の瑠奈はシャチと一緒に腕立て伏せと腹筋を始めて、回数?で張り合っていた。目的を忘れた脳筋ロボと瑠奈を見てた恵麻は、


「馬鹿は放っておいて、アイツにはより嫌がるような、屈辱的な罰を与えたいわね…。何が一番、堪えるかしら?」


 恵麻は少し考えたあと、乗っ取られたシェリを見て、


「あなた、そのシェリって女の代わりにアイドル活動をしなさい。意識を保ったまま、真面目な子に支配され、暮らすなんて…、あなたにとっては最高の屈辱になりそうだもの。」


 恵麻は私からチョーカーを受け取るとノートパソコンと同期させて繋ぎ、何かを入力し始めた。そして、


「さあ、シェリちゃん。私から新しい首輪をプレゼントしてあげる。」


 恵麻がシェリにチョーカーを渡そうと近付いたため、


「そんな手には乗らねえよ。お前らの復讐は後日にしてやる。あばよ。」


 当然、チョーカーを填めると、どうなるか分かった奴がシェリの体ごと逃走を図ろうとした。いつも冷静な恵麻はシャチに向かって、


「筋トレなんかをしてないで、そろそろ、やりなさい。」


 恵麻が命令すると、牙の鋭い大きな口から謎の超音波を出し始めた。


「対裏切り忍ロボ用のこの子は憑依系の能力者に滅法強いの。超音波で同調する者を操り、無抵抗にさせたあと、普通は相手の魂を食すんだけど…、意識を残したまま、動かす事も出来る。」


 音波攻撃を受けたシェリの体は動かなくなり、恵麻は無抵抗の彼女にチョーカーを付けると、目的を終えたシャチは音波攻撃を止めて、瑠奈と握手的な事をした。そのあとは海へ飛び込んで、どこかへ泳ぎ去って行った。


(シャチ君、目的を完了したら、サッと帰っていく去り方がとても忍っぽいよ。あと、瑠奈と分かり合えて良かったね…。)


 恵麻は何の苦労もなく、私たちとは違う方法で制圧してしまった。


「お姉ちゃん、あのイルカ、カッコいい。瑠奈のペットにするから、ちょ~だい。」


 瑠奈は相当、脳筋シャチを気に入ったらしく、姉におねだりすると、


「イルカじゃない、シャチ。可愛い妹のお願いだから、値引きしてあげる。3億円を持ってきたら、瑠奈の専用ペットとして譲るわ。」


 姉が4歳の妹に3億円を要求していた。


「え~、そんなに持ってないよ~。そうだ!お母さん、代わりに出してよ。」


 今度は買い取り価格の3億円を母親の私におねだりしてきた。


「瑠奈、お母さんの貯金額を知ってて、おねだりするつもり?お母さんはついこの間まで、大学生で主婦だったし、持ってるわけ無いじゃない。」


 瑠奈たちの養育費を離婚した神里家から、もらっていない私に貯金などは、ほぼ…存在しない。


「え~、でも、恵麻お姉ちゃんは大学に通いながら、3億ドルぐらいは稼いでいたよ?お父さんと別れたお母さんはとっても、貧乏なんだね~。」


 瑠奈は母親が貧乏なのを知って、3億円のシャチを買うのは諦めた。



(恵麻は私のために給料が平凡な白河家で働いてくれているし、今回も妊婦で無茶が出来ない私のために、飛んで来てくれた。)


「恵麻、助かったわ、いつもありがとう。大好きだよ。」


 そう言って、恵麻に抱き付いて、頭を撫でていると、


「お母さん!私はもう、子供じゃないの!離して!」


 照れ屋の恵麻はくっつかれると嫌がる。でも、今はお腹に子がいる私を気遣って暴れたりはしないし、芯はとても優しい子なのだ…。


 シェリは意識を取り戻して、ストレスが溜まりこんな事をしてしまったって事に記憶が改ざんをされていた。私たちに謝ったあと、エミリたちに謝ると言って、駅に向かって走って帰ってしまった。


「結局、事件は解決していないんだよね~。魂の剥離が起こりやすいのは建物じゃなさそうだし…、分からず仕舞いなのよね。」


 何かの条件があるから、アイドルの彼女たちは霊の要素を吸収して、人格が変わってしまう。霊の痕跡が探知出来ないため、その条件が分からないのだ。


「お母さん、瑠奈を置いていくし、あとは二人で解決してね?」


 私を引き離した恵麻は忙しいからと告げたあと、連れて来た瑠奈を置いて、さっさと帰ってしまった。


「お姉ちゃんも認める超天才の瑠奈が残ったから、お母さん、あとは任せてよ。」


 自画自賛ガールの瑠奈は何故か、自信満々で任せてと言ってきたが、私に分からない事がこの子に解けるわけないと感じ、瑠奈はただ、置き去りにされただけだと思っていた。

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