第343話 彼の反乱と怒る恵麻

 メインボーカルのシェリと言う少女が行方不明で無断でライブを休んだため、心配しているメンバーとキレているプロデューサー。


「ねえ、エミリちゃん。プロデューサーさんっておネエなの?男性なのに、喋り方が変じゃない?」


 スラッとした身長にハデな格好と、女性っぽい喋り方のプロデューサーも変わっている気がしたので聞いてみると、


「その表現は古いです。紫音先生…実は22歳って言うのもウソで、40歳くらいなんじゃ無いんですか?今はジェンダーレスの時代ですよ。」


 男性っぽさを男性に求める時代では無いと叱られてしまった。発言に若者っぽさを感じないと、私の年齢詐称の疑惑が持ち上がった。


(もしかして…、今、叱られてる?)


 何故か、性に敏感な彼女は男らしさとか女らしさ発言に怒っていた。女性アイドルグループなのに、男の人みたいにアツいエミリ、美少女に恋愛感情を持つ結愛、ジェンダーレスの時代とはいえ、性の境界線が曖昧な子が多い。確実にアイドル路線に迷走し、何かを間違えている彼女たちを見て、売れないよ?これじゃあ…と、変な人たちに関わってしまった事を後悔し始めた。


「先生、シェリちゃんが特効服着ている人のバイクの後部座席に乗ってるって、友達が見たって言ってました。どうしますか~?」


 グループの中ではかなり普通な女の子の彼女がとんでもない目撃情報を知らせてくれた。


「はぁ~?真面目な子って言ってたよね?それって、暴走族の彼女!ライブを無断欠席して暴走バイクの後部席って、完璧にアイドル失格じゃないの?」


 私は聞いていたタイプの子とはかなり違うって叫ぶと、


「先生~、私たちは芸人じゃありませんよ。そんなに大きな声で突っ込まれても、急にはボケれません。」


 突っ込んだつもりはなかったのだが、私がウザい関西絡みをしてきたと勘違いされた。


(若いからって…自分で考えずに何でも、私に振らないでよ!)


 彼女たちに一貫して足りない物がある。考える事と意思の弱さだ。全員が謎のキャラ作りをしていて、個性だけは一丁前に出してくる。


「仕事をサボって暴走族に仲間入りとは、その子、ヤンキー属性を加えて何がしたいのかしら?でも、今はお腹に子供がいるから手荒な真似はしたくないし…。」


 いつもなら、力業で押し切るのだが、妊娠中は激しく動きたくない私はアレに頼む事にした。


「ウサちゃん、おいで~、どこにいるの~?」


 侵入したはずなのにまったく活躍しない忍ロボを呼びつけたが…、来ない。


(恵麻、あの子…、欠陥品だよ?サボってるんじゃ無いの?)


 当てにならないロボに呆れていると、結愛がそのウサギを抱きかかえて、


「先生~、この子って先生のペットですか?ちょっと重たいけど…大人しくて、とっても可愛いですね~。」


 ガラが悪いはずの彼は頭を撫でられても暴れなかったので、不思議に思った私は、彼の魂が抜けている事に気が付いた。


(あら?もしかして…逃げた?)


 私はすぐさま、スマホで恵麻に連絡して、魂が抜けた事を報告すると、


「お母さん、憑依的な事が頻発するそこの環境がそうさせたのかも?アイツ…抜け忍は死罪よ。必ず探しだして、処刑してやるわ。」


 独特の忍の世界感を語ったあと、逃げたアイツは殺すと言い出した。


(怖。まあ、恵麻に任せればすぐに見つかるでしょ…。問題はどの子に憑依したか…だね。)


 ここにいる子たちには乗り移っていないし、考えられるのは…、シェリちゃんの体を使っているって事だろう。真面目な彼女がここに来た所で、アイツに体の主導権を奪われて、そのまま体ごと逃げた。


(なんで、暴走族の後部座席?本当に口が悪い奴はろくな事をしないな~。)


「ねえ、恵麻。アイツの行方なんだけど、シェリちゃんって子の中にいると思うの。アイドルライブをすっぽかして、奇行に走ってるし…。」


 恵麻に情報を与えると、情報を元にすぐに身元を洗いだして、周辺のカメラをハッキングし、すぐに見つけた。


「お母さん、住之江区の南港にいるはずよ。私もすぐに向かうから、忍ロボのチョーカーを現場に持ってきて、そのあとはこっちでやるよ。」


 恵麻にそう言われた私はウサギロボのチョーカーを外した。


(これで魂の拘束をして、抜け出せないようにしてたんだ…。なのに、なんで魂を抜け出せたんだろ?)


 取りあえず、シェリの奇行理由が分かった私は、すぐに南港へ向かった。



 近くに行くと、暴走族の男たちに囲まれて、そのリーダーっぽい奴が私に、


「あんたが姉さんの言ってた紫音って女やな。あんたに興味はあらへんけど、ここで死んでもらうで。」


 不良たちは全員が鈍器に使えそうな武器を持っていた。どうやら、私を誘い出して集団でやっつける作戦らしい…。まあ、負けないけど、動き回りたくない私が考え込み立っていると、


「待ってたぜ、紫音。お前はこの体の女に攻撃出来ねえだろ?」


 美少女なのに体を乗っ取られて、口が悪くて、悪役っぽさが漂うシェリにそう言われたので、


「私は許してあげるから、恵麻に謝ろ?じゃないと、君は殺されちゃうよ?」


 恵麻がメチャクチャ怒っていたため、君の命の保証が出来ないと話した。


「京都にいるあんな頭が良いだけの小娘に何が出来るんだ?お前を人質に取って、アイツにも痛い思いをさせてやるよ。」


 悪役が滲み出て来たシェリは、私を捕まえて恵麻に復讐すると言うと、私のすぐ横から空間が切り裂かれて、中のゲートから恵麻と私の制服を着た瑠奈が現れた。


「恵麻お姉ちゃん、スゴ~い。瞬間移動だよ、これ~。」


 瑠奈は現れるなり、瞬間に移動する能力を使った姉をべた褒めしていた。


「私は脳筋ゴリラのお母さんから生まれたあんたとはデキが違うの。あとはあんたの仕事よ。そこの邪魔なモブどもを蹴散らしなさい。」


 恵麻は私の事をさりげなくディスったあと、瑠奈に取り巻きの排除を頼んだ。


「良いの?新しく編み出した必殺技を出しても?」


 必殺技を出せると言って、瑠奈はウキウキしている。


「殺しちゃダメよ?複数の人間の遺体を処理するのは大変なんだから…。」


 機嫌が悪く、物騒な事を言い続ける恵麻は瑠奈に加減をしろと言うと、


「うん、分かった。行っくよ~。スペシャルスイ~ング!」


 瑠奈が一人の不良を倒して足を持つとソイツを武器みたいに振り回して、あっという間に不良たちを全滅させた。


(瑠奈、新技って言ってるけど、それはただのジャイアントスイングだよ?美少女ヒーローアニメでやってたやつをマネたな…。)


 プロレスではド定番の技を新技と言って繰り出した姿を見て、恵麻から脳筋と言われても仕方ないなと感じた。その瑠奈の行動で母親の私への印象も変わってしまうため、中学生の姿で制服を着て行動するなら…もう少し、知的な行動をして欲しいと心の奥では願っていた。

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