第342話 紫音はアイドルの先生

(私の言葉って、本当に力があるよね…。)


 恵令奈の体の時から所持している、神里 光が持つ能力、言葉で相手の才能を開花させる力。メインボーカルが不在なだけで歌唱とダンスが噛み合わなくなって、パフォーマンスを落としてガタつくアイドルグループに所属する彼女たちへ、プロ意識が欠けていると叱責したら…、


「紫音先生!私たちは先生に付いていきます!」


 リーダーのエミリはもちろん…、私の事が大好きな結愛などのメンバーの主力が私を先生呼ばわりして担ぎ上げると、他のメンバーも私の見た目と頼りになる姉御気質?みたいなモノを感じ取り、何故か、心酔し始めた。


(やっぱり、アイドル活動は宗教団体と変わらないよ。それに意思が弱いよね?君たち…。)


 明らかに意思やメンタルが弱くなっている彼女たちは売れないアイドル活動に疲弊していた。


「で、エミリちゃん、メインボーカルの子はどこに行ったの?」


 ライブ時間をすっぽかして連絡が取れない子の行方を聞いていた。彼女たちも必死で連絡を取っているが、繋がらないらしい…。


(位置情報アプリも切っているらしいし、手掛かりが無いと見つけようが無いよね。)


「シェリちゃんって、真面目でサボる子じゃ無かったし、本当にどうしたんだろ…。」


 行方不明の子はシェリーと言うお母さんが外国人のハーフ美少女らしい。写真を見せてもらうと…、


「日本人離れしてて、整った顔…。歌が上手いなんて、完璧じゃない。」


 素人の私が見ても、綺麗な顔立ちはインパクトが残る可愛さだった。一ヶ月前までは歌が下手だったらしいが、今はエミリと双璧の人気を誇るアイドルになったらしいが…、


「どうせ、あなた達でイジメたんでしょ?美少女は同性に嫌われやすいもん。」


 私も六年前は見た目が良すぎる事で、知らない人から嫌味をよく言われた事を思い出し、彼女の来なかった理由が僻みによるイジメじゃないのか?と聞いてみると、


「私たち、そんな事をしている場合じゃありませんよ!とにかく売れるためには悪い事が以外は何でもするって言うくらい…けっこう、追い込まれているんですから!」


 エミリがそう言うと、他のメンバーもうんうんと頷いていた。


(えっ、そんなに売れてなくて、ヤバいの?)


「今年がダメなら、解散も充分考えられるんです。一生懸命のシェリちゃんは先生みたいに性格が捻れていないですよ。」


 彼女はメンバーの中でも、一生懸命で誰にでも、可愛がられる人間らしい。


(どうだか…、女は怖いもん。)


 私の周りには怖い女性が多い。鬼母の未央、姉と慕う私から夫を奪った玲奈、私がイジメるのが生き甲斐の桜子など…、人間不振になるくらいの目に遭っていたため、言葉だけでは人を信用する事はしなくなっていた。


(でも、それが本当なら、彼女も霊から歌唱能力を得る代わりに、何かの弊害が出ているのかも…。)


 熱血感のリーダーのエミリ、僕っ子キャラの結愛、そして、今はいないメインボーカルでハーフ美少女のシェリにはどんな癖があるんだろう…。


(グループの主力メンバーに大きな変化が起こっている。強い思いに引き寄せられて、彼女たちに取り憑いた何かの性格や思考が混ざり合う感じなのかな?)


 似たような体験をしてる私はこう結論付けた。


(私も性格や思考は紫音そのものだし…、魂が肉体と混ざり合っているような状態だ。)


 当然、霊力を持たない彼女たちは別の誰かと意識が混ざり合っても、使う脳や体は彼女たちの物だから、気付かない。本来は体への憑依や入れ替わりなどと言う現象で前の自我を保つ事はあり得ない。仮に体が入れ替わったとしても、杏奈のように数日の記憶障害を経て、多少の趣味思考が変わる程度のモノだ。


(やがて…自分が何者か?すべてを忘れ去り、体の持ち主と同じ行動や思考へと変わり同化する。エミリちゃんは完全に同化済みだから、熱血漢な性格の女性の霊が入り込んだため、周囲もその変化に気付いていないのだろう。結愛ちゃんは最近、美少女好きの男性の霊が体に入り込んだから、性的な思考が変わった事に戸惑っている。)


 問題は何故、こんな現象が頻発するのか…だ。こんなに霊体と一般人の肉体が共鳴し合って、混ざり合う現象は起こらない。通常は血縁が無い他人の体に別の霊体が入ると、差異が大きいため、拒絶反応を起こし、入り込んだ魂が即座に消滅する。これは元々の持ち主の魂には勝てないのが理由だ。


(寿命以外の理由で体から魂が抜けたとしても、別の魂は容易に入り込めない。肉体と魂のある状態で別の魂が入り込むなんて事が起こるなんて…異常事態だ。魂を自在に操る何者かがそれを手助けしているとしか、考えられない。)


 個がない売れないアイドルたちに、霊を取り憑かせる事で強い個性を与えた。


(でも、ここには霊が存在しないし、どこで取り憑かれるんだろう?)


「ねえ、エミリちゃん。売れてないって事は、みんな別の仕事をしていたりするんだよね?」


 アイドルだけでは食べていけないのなら、他の仕事をしているはずのため、尋ねてみると、


「はい、親の援助を受けられてる人以外はアルバイトしてます。私もそうですが、半分くらいの子が関西地方以外の出身ですし、シェアハウスで住んでいて、当然、ステージでは…ビジネス関西弁ですよ。先生も関西弁を使ってないし、地方からきて苦労する気持ちは分かってくれますよね?」


 大阪で活動しているが、多くの子はここら辺が地元ではない事を明かしてくれたあと、私が関西弁を使わない事を突っ込んできた。


(う~ん。そう言えば、未央お母さんも初対面の時以来、関西弁を使わないな~。橘のお母さんも関西人じゃ無さそうだし、京都に根付く神里家も何故か、標準語だ。アメリカ生まれの瑠奈は母親の私が関西弁を使わない影響で、標準語、ここが関西だと言う事を忘れてしまいそうだよ…。)


 昭和生まれの女は嫁いで京都に来るパターンが多いため、関西弁を喋らない人がわりと多い。今度、未央にも前の旦那さん、絢美社長のお兄さんに嫁いだ経緯を聞かないと…。


(女の子との会話はすぐに脱線するし、大変だよ。)


 その後の彼女たちは愚痴を言い合う女子トークに花を咲かせ始めた。その話を聞く限り、仲の悪い関係では無い事に安堵していた。


(取りあえず…シェリちゃんとやらを探さないと…。)


 彼女たちの先生になった私は、メンバーのシェリを探してくる事を頼み、その日は解散する事にした。

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