第341話 幽霊に体を支配されると…

「ゆめちゃん、最近、どうしたの?キャラを変更するのは構わないけど、仕事中に本気で同性の女の子を口説くのは止めてね?」


 アイドルグループのリーダー、エミリが後輩で私を口説いていた僕っ子キャラのゆめちゃんと呼ぶ彼女を叱っていた。


 叱られている彼女は如月きさらぎ 結愛ゆめと言う、芸能名で活動している。第一印象はとても可愛らしい少女なのに女性が好きな思考を持つ男っぽい不思議な子だったのだが、


「ごめんなさい先輩!激しいダンスを踊ったあとは、感情が高ぶっちゃうみたいで、紫音さんみたいな女性を見ると、そう言う衝動を抑えられなくなってしまうんです。」


 キャラ作りだったのか、口説くのを止めて、エミリの叱責に対して、ペコペコと謝っていた。


(さっきまでは男性みたいな感じだったのに…、今は普通の女の子だよね?)


 私は明らかに豹変する彼女を見ていたが、まさかと思い、魂の色を見ると、先程までの高い霊力を彼女から感じなくなっている事に気付いた。


(ステージの時は、霊力を運動能力に変換させてキレある動きで踊っていたのに…、今は普通の女の子と同じだ。)


 彼女からは霊力を感じなくなっていた。彼女のダンスパフォーマンスは群を抜いて良かったし、筋肉が少なそうな細い手足で踊れるスビードでは無かった。


(私の体も一緒で何も鍛えていないのに霊力で飛躍的に身体能力が向上させているため、怪力で俊敏な動きができる。それは魂の輝きと丈夫な体があるから可能な事で、それを自在に使いこなせる心の強さを持つ人間を最強と呼べるのだろう。)


 劇場の幽霊騒動のからくりが見えてきた。霊力を持つ何かが、ステージに立つ彼女に力を与えて、最高のパフォーマンスを見せれるように動きを補助している。だが、その代償は大きく…その何かが、彼女の魂に悪影響を与えて、激しく運動することでアドレナリンが分泌されて、性的な欲求を抑えられなくなった。問題は…、その欲求内容だ。


「結愛ちゃんって言ったよね?私を口説いた事は覚えているの?」


 彼女が別人のようになってしまったため、意識があったのかを聞くと、


「はい…、目が合った瞬間に可愛いって思ってしまったんです。それからあなたを見るたびにドキドキして、私って…いつから、女性が好きになってしまったんだろう…。」


 彼女も分からないうちに、若くて見た目が綺麗な同性の女性の事を好きになったらしい。

 

(面食いって奴かしら?確かに私の見た目は美少女と呼ぶに相応しいらしいけど、目の前の女性が好みのゾーンに当てはまると他の事に目もくれず、口説こうとするって事?)


 可愛いアイドルのコスチュームを身に纏う、プレーボーイな少女はステージが終わるとオドオドとしている少女キャラに戻った?ようだった。


「ねえ、エミリちゃん。彼女の他にステージで変貌する子はいないかしら?」


 この僕っ子以外にも、アクの強いキャラはいないか伝えると、


「う~ん、さすがにここまでキャラが強い子はいないかな~。あっ!ある日、急に歌が上手くなってメインボーカルに抜擢された子がいます。前はダンスを踊る方が上手かったんですけど…、半月ぐらい会わないうちに急成長してて、驚きました。まさか、幽霊と関係あるんですか?」


 私が原因を探り始めたため、幽霊騒動と関係があるのか?を尋ねてきた。そんな不安そうな顔をするエミリと結愛ちゃんに、


「霊はここにはいないよ。これでも私はそう言う探知能力は高い方なの。今日はお客さんに紛れて、ずっと見ていたけど…、霊の存在は確認出来なかったわ。」


 グループ内に不安や不信感を与えないため、ステージ上の結愛の体に霊力が高まって、男性並の運動神経を得た結果、動けていた事実は話さない事にした。


(まだ、確証が無いし、違う場所にいるかも知れない霊を捕まえ損ねて、逃げられても厄介だ。)


「でも、その子は今日、いないよね?ボーカルの中に歌が抜群に上手い子はいなかったし…。」


 そこまで歌の上手い子はいなかった事を話すと、


「紫音さん、さらっとウチのプロデューサーよりもキツい事を言いますね。仕方ないじゃ無いですか~、私もドタキャンした彼女の代わりに歌い慣れていないパートを歌わされて、代わりに他の子は私のパートを歌ってたりしたんですから!」


 歌がぎこちなかったのはメインボーカルが連絡もなしに休んでしまったと言うトラブルがあったからであって、それを知らない私が素直にあんまり上手くないと言った事が気に触ったらしい彼女は、少し怒っていた。


「ごめんなさい、そんなトラブルがあったのは知らなかったから…、でも、お客さんからお金を取っているんだから、そう言う時のためにも…別パートの練習しときなよ。あなた達はプロでしょ?」


 素直に謝罪したあと、アイドル活動しているプロなら、ちゃんと対応しなきゃダメだよと叱った。


(ここら辺がきっと彼女たちの売れない要因なんだろうな…。)


 彼女たちZ世代と呼ばれる人は叱られる事になれていない…。きちんとする指導してくれる良いコーチがいれば、もっと上を目指せるはずだと思った私は激励の気持ちを込めてリーダー格であるエミリを叱ると、


「日向さんが年下の紫音さんを先生って呼んでる意味が分かりました…。紫音先生!私のグループには先生のような人が必要なんです!お願いします!私たちの先生になってください!」


 急にスイッチの入ったエミリが目をキラキラさせながら、私を先生と呼んでウチのアイドルの指導をしてくれと頼んできた。


(もしかして…エミリちゃんも取り憑かれているの?少し叱ったら、突然、熱血キャラになったよ?)


 性格が変わりまくる彼女たちを見て、幽霊が見えなくても、取り憑かれるんだと思った。潜入する理由が出来そうな私は、ここには何かが必ずある事を察知した。そこで、


「分かった。じゃあ、お客様を見送ったあと、居残りで指導をしてあげる。プロなら、二人とも劇場に戻りなさい。」


 久々に日向以外から先生呼ばわりされた私は、アイドルの指導をする先生として、幽霊騒動を調査する事に決めた。


「あっ、紫音先生…カッコいいし、好き。」


 目をトロけさせながら、結愛は私を見つめたあと、ご機嫌のまま部屋を出ていった。


(売れないアイドルって…、みんな情緒不安定なの?)


 そのヤバいアイドルたちを見送った私は静かにため息を付いた。

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