第340話 女性アイドルなのに男ウケしない理由

「エミリちゃん、こんなに可愛い子をスカウトしちゃダメよ、グループに角が立つでしょ?」


 大阪のアイドルが歌って踊る劇場で、私を連れてきたエミリはプロデューサー的な人に叱られていた。


「この紫音を磨けば、ウチは必ず売れて、トップを取れる」って、私をアイドル見習いとして紹介したため、新人が古参を軽く越えてきたら、一期生を必死で集めた僕の立場が無いじゃないと言って、私はアイドルの不合格通知を受けた。


「じゃあ、私、スタッフとして頑張りま~す。」


 それなら、ここのバイトスタッフとして働くと告げると、


「ダメよ。全国レベルの可愛い君の見た目が、必死に夢を追うあの子たちをマイナス思考にさせてしまうの、それくらいは空気を読みなさい。」


 親しみやすい、手に届きそうで届かない範囲の可愛さが並ぶから、アイドル活動はピリピリした空気を作らずに済むらしく、見た目の刺激が強いという理由で私は劇場を出ていけと言われた。


(私、スタッフとしてすら…、不採用にされたよ。)


 これじゃあ、潜入調査出来ないと困った私は連れてきた奴に潜入を頼む事にした。


「紫音、俺は若い女どもに触られるのは嫌いなんだよ。可愛い~とか言って、アイツら俺を揉みくちゃにしやがるんだぜ?」


 喋るウサギの彼は恵麻に改造されて、ぬいぐるみから忍ロボ2号のウサギに魂を移された。行動にはプロテクトが掛かっており、主の私はもちろん、私の子供たちの命令ですら、絶対に聞くように設定されているらしい…。


 なお、この可愛くない声は一般人には聞き取れないらしく、声の聞こえかたも霊力の差がある小春と私とではまったく違うらしい。


 小春には可愛い声で話すウサギに聞こえていて、私や瑠奈には太いおじさんの声に聞こえているみたいだ。


(私はこの子が可愛くないんだよね~。瑠奈は趣味が悪いというか、感覚がズレてて、声がキモ可愛いって誰よりも可愛がってるし…。)


「そんな事は言わず、なるべく彼女たちに接近して頼むわね。」


 そうお願いしてみると、


「しゃあね~な。紫音は裏方に徹して、屋根裏で待ってろよ。」


 行動プロテクトの影響を受けている彼は私の命令を渋々了承したあと、劇場に迷い込んだペットのウサギのフリをして中へ入っていった。


(忍ロボよりも忍ばないといけない事になるなんて…。)


 私は地味なオタク女子になるため、服を調達する事にした。ノーメイクだったため、見映えが悪くなるように下手なシャドーを入れたりして可愛くないメイクをする。地味な紫音ちゃんとして行動をし始めた。


(元が可愛いから、オーラでバレちゃいそう…。)


 特に何もしなくても、あまりに可愛いを連発されるから、つい、自意識が高い瑠奈のような事を考えていた。



 ちなみに最近の若いオタク男子は地味では無い。センスを感じる服装に身を包んで、モテそうなのに何故か、アイドルファンをしている。


(う~ん、私が若い男なら…、手に届く親しみやすい女性の事を好きになると思うんだけど…。)


 言い方は悪いが、ファンとして好きになるなら、釣り合う一般女性の事を愛する方が幸せな気持ちになれるのでは?と考えている私は、アイドルを応援する意味が分からなかった。


(ある意味、これは宗教の集会だよね…。)


 入場料を支払い、アイドルのパフォーマンスを見ていた私は、良さが分からずに首を傾げながら、彼女たちを見ていた。


(私の好みじゃないから、理解できないのは、仕方ないかな…。)


 ダンスは一定以上の評価を得れそうだけど…、あんまり上手くない歌を聞かされて、高いグッズを売り、一般男性から支援をさせていて、みんなが同じような行動や思考をしている…、まるで宗教の洗脳みたいだと感じていた。


(この薄暗い環境で霊が見えるなんて、誰かが言い出したら、パニックになるよね…。でも、そう言う兆候も見られないし、やっぱり…、薬物症状なのかな?)


 その後、ぼんやりとアイドルのダンスを見ていると、一人の少女と目が合った。


(あの子、踊りながら…私を見ている?)


 アイドルグループの中心メンバーはボーカル込みのダンスだが、一部は歌っているフリをしながら、ダンスパフォーマーなのか、とてもキレキレのダンステクニックを見せている。


(女の子にしては男性のような鋭い動きでキレがあるし、あの子だけはスゴくない?)


 問題の子は相当な運動能力があるのだろう…、ただ者では無かった。 


「へぇ~、あの身体能力は私たち側の人間って事ね…。」


 彼女の一流体操選手顔負けの技に歓声が上がっている。小鈴以外にも、身体能力を駆使した職業に就いている人がいた事に驚いた。


 劇場パフォーマンスが終わるとファンたちとの交流の時間があって、グッズ販売でその購入したグッズに推している人のサインを書いてもらうサービスなどが行われていた。人気はエミリなどの歌う中心メンバーはもちろん、パフォーマーの少女たちもかなりの人気だ。私が気になるあの子は男っぽいので、女子人気が異常に高い感じだった。そんな彼女は急に観察中の私の所へ歩みよって来て、


「僕は君の事が好きだ。」


 僕っ子の年下少女にいきなり告白された。


(女子に一目惚れされた?だから、私を見ていたのか…。)


 どう反応していいのかに困っていると、エミリが慌てて寄ってきて、


「もう!ゆめちゃん!好みの子がいたからって声をかけて告白しないでよ!」


 どうやら、彼女はゆめちゃんと言う名前で同性愛の僕っ子らしい…。そんなエミリの注意を無視して、私の手を掴むと、


「僕は君みたいな理想の女性に出会ったのは初めてだ。名前はなんて言うんだい?」


 場を完全に無視して…彼女はグイグイと私を口説いてくる。


(ああ、私が研究生やスタッフに不合格の理由が分かったよ。この子が原因なんだね…。)


「ゆめちゃん!困らせないで!男性のお客さんが引いてるでしょ!」


 女性ファンは大胆に私へ告白する彼女にキャッキャッと言って興奮しているが、男性ファンは若干…、いや、かなり引いていた。


(やっぱり、同性愛はこんな反応になるよね…。ゆめちゃん、見て?男の子が引いてるよ?)


「ゆめちゃん!退場!」


 エミリが無理矢理連れていこうとしたが、この手の子は普通の女の子の力ではピクリとも動かない。仕方ないので、


「エミリちゃん、私が連れていくよ。」


 私は彼女を抱え上げて、そのままバックヤードに捌けていった。


「僕よりも力持ちなんて、なんて素敵なんだ…。」


 若干、ズレている彼女の発言を無視して、私は裏の控え室まで連れて帰った。

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