第339話 霊のお仕事は慈善事業では無い

 幼稚園のお迎えが終わり、子供たちを白河の家に連れて行くと小春は無表情で喋れないメグを巻き込んで遊び始めて、瑠奈はいつも一緒にいる未央の娘の美空と夕食を作っていた。夕食の準備を子供たちだけで行わせると未央に叱られるため、私はキッチンの隣にあるダイニングで瑠奈たちの事を見ながら、エミリの話を聞く事にした。


(ここで変に手伝い過ぎると瑠奈がウルサイし、でも、私が夕食を作らないと味で未央お母さんに作っていない事がバレる…、難しいんだよね。)


 当然ながら、瑠奈たちと私の料理の腕にはまだ差がある…。


(二人とも、普通の4歳児の能力を遥かに上回って、なんでもこなせる。ただ、料理だけに関しては人生経験値の差が味の深みに繋がるから、未央お母さんにはバレるんだよね…。)


 わたしの作る料理に感銘を受けた美空と偉大な母親の味に勝とうとする瑠奈は最近、幼稚園から戻るなり、夕食を相手に私の料理が何故、美味しいのか?の研究を始めてしまうのだ。


「エミリちゃん、お待たせ~。さっ、なんでも聞くから、話してね?」


 私は子供たちの事を気にしつつ、彼女の話を聞く体勢に入った。


「周りは小さい子ばっかりだし、託児所のようですね。あの子たちに至っては大人顔負けで帰るなり、料理を始めるんだから…驚きです。」


 彼女はあんな子供を見たことが無いと瑠奈や美空の大人っぽい対応に驚きを隠せずにいた。


「まっ、野菜やお肉は私が切っておいたし、レシピを渡してあるから、味付けはお任せってところかな。増せてるあの子たちにとって料理はおままごとみたいなものだから、気にしないで話して良いよ。」


 刃物を使った料理の下ごしらえはすでに終えている事を話して、安心して話して良いよと彼女に告げた。


「あっ、そうですか、では…、紫音さんは霊が見える体だって言ってましたけど、最近、所属するアイドルグループの後輩たちの間で、劇場にお化けがいるって言っている子が複数いるんです。そんなモノが見えない私や見えない他の子たちはそれを聞いて、ウソだ~って茶化すんだけど…、結構、本気で怯えていたりするんで、練習はもちろん、本番にも差し支えてしまって困っているんですよ。」


 今まで霊感のまったく無かった子の幽霊が見える騒ぎでアイドル活動に悪影響を及ぼしている事を話してくれた。


(複数?元々、霊感の資質のある子はアイドル活動なんてするわけないし、目立つのを避ける子が多い。すると…病気か何かなのかな?)


 私はまず、慣れない環境でストレスから引き起こす精神疾患、統合失調症を疑った。統合失調症の患者には幻覚が見えたり、幻聴が聞こえるらしい。何かが見えたり、何かが聞こえる…、それが複数いるっていう事はよほど、ブラックな活動をしているアイドルグループなのかとも考えたが、忙しいはずのリーダー格のエミリを見る限りは…影響の無い子はまったく問題が無い。なら、


「状況を聞く限り…薬物依存による幻覚なのかもしれないね。」


 麻薬による中毒症状の影響では無いのか?を彼女に聞いてみた。


「なるほど、考えもしなかったけど、問題の子たちとは事務所も違うし、この業界で売れないアイドルグループなら、あり得なくも無い話です。でも、問題は特に仲良しグループでも無いって所ですかね…。」


 リーダー格でグループ全体を見る事の多い彼女は、複数いる問題の子たちの仲が良いわけでは無い事を話してきた。


(エミリちゃん、私たちの世界では、あるあるだよ?一見、関係性が無くても、裏で繋がる何かがそこには存在する。)


「それは人間には表裏がある事を示しているだけで、エミリちゃんの知らない所で必ず繋がっているはずだよ。」


 私は彼女に今までの経験上、霊が関わるなら、それは裏のある世界だという事を語った。


「紫音さんって、話していてもお母さんみたいな安心感があるし、本当は日向さんより年上じゃ無いんですか?」


 彼女が私の安定感に驚いていた。そんな彼女は、


「紫音さん、研究生のフリをして、潜入して調査してもらえませんか?どう見ても、10代にしか見えない若くて可愛い紫音さんなら、若い子たちに紛れても違和感ないですし、お願いします。」


 潜入して真相を探って欲しいと頼んできた。


(う~ん、それって…お給料出ないよね?未央お母さんに話したら、そんなの断りなさいって言いそうだもん…。)


 何も無い日は家事を押し付けてくる鬼母にどう話そうかを考えていると、


「あら、紫音…子供たちに調理を押し付けて、サボりなの?」


 いつもはこの時間に来ない未央がタイミング悪く、今日はやって来た。


「えっと、未央お母さん。私、この子の相談を受けていたの。食材は私が下ごしらえしたし、レシピは渡してあるから、調理をするだけにしてあるの…だから…。」


 そう言って、子供たちのやりたい事を尊重したと話した。


「ああだこうだ言って、家事をサボっちゃうなんて、悪い娘ね。それから、お人好しで流されて行動をするのは、いい加減にやめなさい。そんなんだから、余所見して玲奈ちゃんに旦那を寝取られて、離婚されちゃうのよ?」


 こうして、私の落ち度があるとネチネチと嫌味を言ってくる。


「未央お母さん、ごめんなさい…。でも、彼女が本当に困っているみたいなの…。だから、力になってあげたいの。」


 私は相談を無下に出来ない事を説明して、霊が絡んでいる可能性をある案件だと内容を話した。すると、


「その症状は薬物中毒っぽいわね…。売れないアイドルに闇アリって感じね。」


 そう呟きながら、少しだけ考えたあと、


「紫音、万が一の可能性もあるし、彼女の言うように調査なさい。それが霊の仕業なら、京都の範囲外だし、滅してしまいなさい。明日の子守りはマリアちゃんにお願いしとくわ。」


 意外な事に許可が出たのだが、会社の柱の未央はただでは動かず…


「調査代はひなちゃんに請求するわね。紫音のレンタル料、高いわよ~。」


 安い月給で私に白河の家事のほとんどをさせてるくせに、レンタル料と言って、調査費は日向にキチンと請求して貰うらしい。


(鬼だよ。霊の仕業とこじつけて、こんな若い子にお金を請求するなんて…。)


「はい、お金が発生するなら、日向さんに聞いてからになりますが、安めのお値段でよろしくお願いします。」


 彼女はそう頭を下げると日向に連絡すると告げて席を外して行った。


「あら、アイドルやっているのに、意外とまともな子で安心したわ。すぐに安請け合いしちゃう紫音もまともな女として生きるなら、交渉術くらい身に付けなさい。」


 その後、未央からはネチネチとした叱責を受けた。

 


 

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