第338話 環境が変われど仲の良い二人

 シングルマザーが妊娠した場合、子供を育てるために働かないといけないのに、働く環境が極端に狭まる。お腹の赤ちゃんに何かあるとダメだと、桜子に圧力を掛けられて、現場に出れない私は白河家の仕事をさせてもらえず行き着いた先が…、見た目の良さを活かしたタレント業だった。


 今日も一年生の途中まで通っていた私の母校、桜子が理事長を務める高校での撮影があるため、私は女子高校生の制服を来て、日向や他の俳優さんたちとドラマ撮影をこなしていた。


「先生の見た目はパーフェクトですから、早くも話題作として盛り上がってます。」


 私のマネージャーになった元同僚の日向は私が主演のノンフィクションドラマの番宣が上手く行っている事に満足していた。


(見た目だけみたいな言い方が気に食わないな~。)


 私がこの業界を嫌う理由はそこにある…。橘 紫音は見映えする見た目のため、可愛いとか、綺麗だとか、中身を見て貰えないから、そこにかなりの不快感が発生する。


(今は妊娠六週目の妊婦だが、まだ、お腹が大きくなっていないし、可愛い少女にしか見えないよね…。)


 この見た目で子供が多い離婚歴のある私は、少し遊び人っぽく見えるらしく、性的な事が好きだと業界関係者に見られてしまう。


「ひなちゃんも何気に人気があるよね…、三十路のクセに女子高校生役を務めるんだから、私と同様で老けない体なんじゃないの?」


 少し腹が立つので、嫌味を言ってやると、


「先生、あの立派な巨乳はどこに行ったんですか?前の先生を知ってる人はパットで胸を目立たせていた巨乳詐欺女って、言われてますよ?」


 減らず口で若返りして体型があの頃に戻った私に言い返してきた。


「それでも、貧乳のひなちゃんよりも大きいです~。」


 16歳の体でも胸のサイズは日向に勝っている事をアピールすると、


「先生…私を怒らせましたね…。撮影の時に覚悟しててください。イジメのシーンはバケツでドバ~じゃなくて、ホース噴射でビシャビシャにしてやります。先生なんて…下着が透けて恥を掻いたらいいんですよ!」


 怒った日向はイジメのシーンを台本よりも過激に盛ると言い出した。


(ひなちゃんは、前から容赦無いよね?ビンタするフリでいいのに本気で頬を叩いたりしてくるし、演技が私より素人過ぎじゃない?)


「今の先生は色々と腹の立つ要素が多いので…楽しみですよ…フフッ。」


 日向はそんなに私の見た目が嫌いなのかと思わせるぐらい、本物のイジメっ子のような感じで不敵に笑っていた。


(何となくだけど、イジメる小鈴役を日向にした理由が分かったよ…。)


 実際、小鈴にはイジメられた経験は無いが、ドラマ演出の関係で悪役として登場してくる。絶対に本人の許可を取っていない気がするけど…物語を作っている側でもないし、私の知る所では無い。



「日向さんって、紫音さんと年齢差のわりには親友みたいに仲が良いですよね。元同僚だと、いつもそんな感じなんですか?」


 親友の芽愛役、私よりも少し年下の陽河ようかわ エミリが声を掛けてきた。この子は日向の所の事務所に所属する若手アイドルのなんちゃらってあんまり売れて無いグループの人気が一番あるセンターを務めているらしい…。


「エミリちゃんも大変だよね、この三十路マネージャーの方が何故か良い役を貰ってるこんなドラマに出なきゃダメだなんて…。」


 親友の芽愛役の彼女はセリフも少なくて、紫音の唯一の味方だけど、根暗な性格のため、イジメを見てみぬフリするしかないという、少し残念な役回りだ。


「いいんですよ。日向さんは可愛いし、日向さんのやっている悪役は過激で、きっと世間の印象がかなり悪くなるし、若い女の子は特に私みたいなアイドル業をしている人は、誰もやりたがりませんよ。」


 アイドル業がメインの彼女は悪女イメージを付けたく無いため、日向と役回りを変えて貰った事を明かした。


(やっぱり、日向が選ばれた訳じゃ無かったんだ…。それを聞いて少し安心したよ。)


 確かにこの過激な演技をしてくる日向よりも、彼女の方がとても良い演技をしている。もちろん、本物の芽愛は根暗では無いし、ギャルに近いキャラだ。


(芽愛ちゃんって、今は大学四年生だよね…。元気かな~。)


 ドラマとはいえ、ノンフィクションのため、私の知った名が多数出てくる。高校時代の同級生の芽愛ちゃんや小鈴はもちろん、仕事場の白河家の面々も出てくる。元夫の蓮は優しいけど、優柔不断に描かれていたりしてて、玲奈に寝取られるシーンも脚本家の恵麻は書くつもりらしい。



 やがて日向がシーン撮影に入ると、私とエミリが二人きりになった。そんな中、彼女が、


「日向さんに聞いたんですけど、紫音さんって霊が見えるんですよね。撮影終了後に相談したい事があるんですよ。」


 エミリにそう言われた私は、


「う~ん、白河家で話を聞いてもいいかな?このあと、幼稚園のお迎えと夕飯を作らないとダメなんだ~。」


 鬼母にこき使われる私は撮影待ち以外では、空き時間が存在しないため、子守りをしながらでも構わないかを聞くと、


「あっ、大丈夫です。私は明日に大阪でライブがあるので、今日はこのまま京都に滞在する予定なんで…。」


 どうやら、彼女のアイドル活動は大阪が拠点らしい。


(興味は無いけど、あとでエミリちゃんの所属するアイドルグループの事を調べておこう。恵麻に頼んでも良いけど、私の時間を奪わないでって怒られそうだし、自分で調べよう…。)


 彼女と私の撮影は昼過ぎに終わり、すぐに瑠奈たちを迎えに行った。来年度から導入する制服を着て行動する事も、主役の私の仕事らしいため、幼稚園バスを待つ女子高校生風の私はママ友と喋っていた。


「紫音ちゃんは良いわね~、22歳で女子高校生の制服は、まだまだ似合うわ。」


 ママ友からは好評だが、私のお人形みたいな所が好きだった園児たちには何故か不評だった。バスを降りてきた瑠奈に訳を聞くと、


「それはお母さんがアニメキャラみたいな巨乳じゃ無くなったからだよ。」


 アニメキャラが好きだった子たちは、可愛い顔と巨乳がセットだから、私が好きだったのに、16歳の私の姿は普通に可愛いだけの普通サイズの胸の私には興味が無いらしい。


(子供は素直だね。好き嫌いがハッキリしてるもん。)


「ハルも前のママも好き、今のママも好き。」


 小春は母親の見た目にこだわらないみたいだ。


「紫音ちゃんは年も変わらないのにお母さんをやっているんだね…。偉いな~。」


 二十歳のエミリはまだまだ若いのに、性格の違う双子の4歳児を育てる私の姿にちょっと感動していた。

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