第337話 くだらない提案

 いつも、大人数が関わる事件のあと、重要な決断時に私の前へ現れる…、そんな神里の母親は未成年者の身元を保証する代わりに頼み事があると言ってきた。


(一回目は蓮さんとの結婚だったよね…。今度は何を頼んで来るのかしら?)


 蓮との復縁は無いにしろ、何を頼まれるか不安な私に彼女は、


「来年から、ウチの高校の制服を紫音に似合うように可愛く変更するの。これからは宣伝を兼ねて、仕事の時は着用してね?」

 

 持って来たタブレットで女子高校生のブレザーとスカート、それにジェンダーレス用のスカートパンツの画像を見せて来た。


(見た目が16歳に戻ったからって…、さすがに恥ずかしいよ。)


「あ、紫音。お腹が大きくなってきたら、マタニティ用もあるの。」


 そう言って、妊婦が着る用にアレンジされた制服も見せてきた。


(相変わらず、発想が飛んでるね…。どういう神経してるんだろ?)


 全日制の高校で妊娠OKの高校なんて、聞いた事が無いため、「それ?いるの?」とマタニティ用が必要かと尋ねると、


「えっ?だから…紫音のために作ったって言ってるわよね?お腹の子の性別が分かったら、私に教えてね?紫音。」


 まるで私が妊娠しているかのように告げたあと、ミラを連れて神里の母さんは立ち去って行った。


(まさか、私…妊娠しているの?蓮さんとHしたのは確か…。)


 前にそう言う行為した日を考えていた。小春の存在が誕生した日、一ヶ月半くらい前の話。そこからのスピード離婚だったからバタバタしてて、生理が遅れているのは離婚のストレスが原因だと思ってた。それが妊娠だとは夢にも思わない。


(帰りに妊娠検査薬を買わないとダメだよね…。あ~あ、どうしよう。妊娠しましたなんて、未央お母さんに伝えたら、何を言われるか分かんないよ~。)


 私は膝に乗っているメグを完全に無視して悩み込んでいた。これからどうしようと苦しむ私の膝の上で彼女は無表情で佇んでいた…。




 思わぬ形で自分が妊娠しているかもしれない事を知った私だったが、過ぎた事を悩んでいても仕方のないため、私はメグを連れて街の外を出ると、彼女がある木の上をガン見している事に気が付いた。


「メグちゃん…どうしたの?」


 彼女が目を離さないため、私もメグの目線の先を見ると、木の上の枝に見覚えのある変な人形が枝に引っ掛かっていた。


(アレって、メグちゃんが抱き締めていた奴?)


 私とメグに気付いたぬいぐるみは、


「おい!メグ!俺様を助けろ!」


 体が木に引っ掛かったため、メグに助けを求めていた。


(やっぱり、あの可愛くないぬいぐるみだ。私が思いっきり蹴ったから、ジェイ君への憑依が解除されて、体が木に刺さったのかな?)


 融合して、解除されたのなら、ジェイが近くにいるはずと探してみたが見つからないため、私は彼に事情を聞いてみる事にした。


「ねえ、ジェイ君はどうしたの?」


 とりあえず、ジェイが近くでケガをしていないかを聞いて見ると、


「あん!突然、ババアが現れて、連れ去ったから、知らねーよ。あのババア、動けない俺様を可愛くないって言って、木の上に投げやがったんだ!ゆるさねえ、ブッ殺してやる!」


 メグのぬいぐるみはジェイ君ごと蹴り飛ばした私への怒りを完全に忘れて、神里の母さんのやった行為にかなりキレていた。


(うん、だって…、口も悪いし、見た目も可愛くないもん…。)


 捨てられて当たり前の可愛くない人形と喋っていると、メグが人形を取って欲しいと言いたそうな顔で私を見てきた。


「え~、アレを連れて帰るの?やだ~。」


 私はウルサイぬいぐるみを持って帰るのを拒否したかったが、メグがどうしても欲しそうなため、取って渡してあげると、そのぬいぐるみをギュッと抱き締めた。無表情だが、分身が帰ってきて安堵している感じ?で嬉しそうだった。


(分身みたいな奴だから、肌身に持っていると落ち着くのかな?でも、ウルサイし、見た目も声も可愛くない。)


 そんな、難アリのぬいぐるみは助けた私に、


「お前、いい奴だな。メグの知り合いか?」


 ぬいぐるみは桜子への怒りで私の事をまったく覚えていなかった。


(この子はあんまり記憶力が無いのかな?私も結構酷い事をしたんだけど…。)


 私の顔や名前を覚えていなかったため、


「私はメグの母親の紫音よ。だから、あなたより偉いし、言うことを聞いてね?」


 そう言って、口の悪いぬいぐるみに服従するように求めると、


「なんだ、お前が俺を作ったグランドマスターか。よろしくな、紫音。」


 彼は私をぬいぐるみに魂を与えたグランドマスターと呼んだ。何か勘違いされたが、従わずにうるさくされるのも気分が悪いので、違うと否定せずに接する事にした。


 その後はメグの代わりにベラベラと喋り始めたが、声が太くて可愛くない。話を聞いて分かった事は、動力の無い体のため、彼は自力で歩けない。メグみたいな自分を持ってくれる人がいないと、どこにも移動できないらしい。


(これも人工知能で喋っているのかな?)


 私は感情を持たないメグとウルサイぬいぐるみを連れて白河家に戻ると屋根にいたマリアが声を掛けてきた。


「また、けったいな子供を連れとるやんけ、なんなん?子供増やしてバスケチームでも編成するん?」


 メグで五人目になるため、バスケットボールチームを作る気なのかと彼女に揶揄された。


「マリア、この子はメグって言うんだけど、少しの間でいいから見ててくれないかな?」


 ある程度の事情を話したあと、面倒を見てくれと頼むと、


「かまへんけど、キモいコイツは燃やさへん?お焚きに出して祓わなあかんレベルの不細工仕様やぞ。」


 メグの持っているそのぬいぐるみは見た目からして呪われているから、お焚き上げ、人形供養をしろと言ってきた。お祓いするために燃やすと発言された、キモぬいぐるみは、


「メス猫ごときが調子に乗るなよ?俺様は強いんだぞ。」


 そう言って、マリアを挑発するが、適合する人間の体を乗っ取らないと動けない事を彼女に伝えていたので、


「魂が半端なキモい人形に言われても、響かんぞ。そや、紫音の娘を紹介したるわ。きっと、可愛がってくれよるで~。」


 不敵に笑うマリアはぬいぐるみを瑠奈の所へ連れていくと言って、無表情のメグに聖母のように微笑んで安心させると、二人で先に家の中へ入って行った。


(瑠奈に目を付けられたら、あのぬいぐるみはもう終わりだね…。)


 喋るぬいぐるみとの最後の別れを予測しながら、私も家の中へ入って行った。

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